大阪を拠点に、音楽イベントやナイトクラブのプロデュースなど、幅広いエンターテインメント事業を展開するTryHard Japan。2013年に設立された同社の代表取締役 グループ代表CEOを務めるのが大付楽洋だ。株式会社SBI MUSIC CIRCUSの代表取締役社長として音楽フェス「SBI MUSIC CIRCUS」の全国展開にも取り組み、同社主催イベントは国内外から100組1,000人以上のアーティストが参加している。

今夏も大阪・泉南のSENNAN LONG PARKで「先進会眼科 presents SBI舞花火 in 大阪・泉南」を開催。花火に4,000機のドローン、ベリーグッドマン・MINMIによる「LIVE花火」を組み合わせ、その模様はテレビ大阪で地上波生中継された。

だが、花火は大付が手がける地域プロデュースの一例にすぎない。地域の歴史や文化、食、人と自らが培ってきたエンターテインメントの力をどう掛け合わせるのか。そして、一時的に人を集めるだけでなく、地域に経済効果を生み、継続できる事業へとどう育てるのか。大阪観光局のアンバサダーとしても大阪の魅力発信に携わる大付に、地方創生の形を聞いた。

泉南市で知った「地域を見る」ということ

  • アーティストの生歌唱で盛り上がった「先進会眼科 presents SBI舞花火 in 大阪・泉南」

――大付さんは、音楽フェスや花火大会などを通じて、各地の活性化にも取り組まれています。イベントによる地方創生には、どのような力があると感じていますか?

イベントは単なる一日のお祭りではなく、地域に人を呼んで、街を動かす力があると思っています。イベントを目的に人が集まれば、ご飯を食べる、泊まる、交通機関を使う、買い物をする。そうすると地域全体に経済効果が広がっていきます。大阪観光局のアンバサダーとしても、「大阪に行ってみたい」、「もう一度大阪に来たい」と思っていただけるきっかけを増やしていきたいですね。

――地域との関わりが広がった一つのきっかけが、泉南市でのフェスだったのでしょうか。

最初から地方創生をしようと思って泉南市に行ったわけじゃないんです。2014年からスタートした「MUSIC CIRCUS」は、当初、(大阪・南港の)ATCなどの屋内会場で開催していたのですが、野外フェスをやりたくなって開催地を探すうちに、2016年に泉南市のタルイサザンビーチを見つけました。当時はまだ、現在のように公園として整備されておらず、普通の草っぱらでした。インフラもない、トイレ一つない。でも、何もないからこそできるんじゃないかなと思って、自分たちで草を刈って、フェスを開催したら、めちゃくちゃ人が来たんです。

――初のタルイサザンビーチでの「MUSIC CIRCUS」はいかがでしたか?

それが、開催日が地元の「だんじり祭」と重なってしまい、当時の市長(竹中勇人氏)から直接、ご指摘を受けました。当時の僕は「だんじり」のことをよくわかっていなかった。「だんじり」って地元の方にとって地域の誇りそのものですよね。完全に勉強不足でした(笑)。次の開催も危ぶまれましたが、フェスの最後に上がった花火と、お客さんの感動した顔を思い出して、「では、花火大会はどうですか?」と提案したんです。そしたら、「13年前まで、ここで花火大会があったが、運営の都合で休止になっている」と。そこで改めてプレゼンして、2017年に「MUSIC CIRCUS」の後に花火大会をやることになりました。

「その土地でしかできないもの」をつくる

――地域で新しいエンターテインメントをつくる時は、何を大切にしていますか

僕らは音楽だけにこだわっているわけじゃないんです。花火やドローン、ライトアップもやっています。そこに、その地域の歴史や伝統、食、文化などを組み合わせて、その土地でしかできないエンターテインメントをつくりたいと思っています。 例えば、地域で生まれ育ったアーティストが地元に帰ってきて、自分の楽曲を歌う。音楽に合わせて花火が上がって、ドローンも組み合わせる。そうすると、そこでしか体験できないものになる。アーティストにとっては故郷への恩返しになりますし、地域の方にとっても新たな誇りになる。こうした取り組みを継続することで、新しい地域活性化の循環を生み出したいと思っています。

「行きたい」と「来てほしい」が一致すること

――そう考えると、全国どこでも同じイベントを持っていけばいいわけではないですね。

そうです。「行きたい」と「来てほしい」が一致しないとダメなんです。よく地方創生ってポジティブに捉えられますけど、そもそも地方創生してほしくないと思う地域もあります。「外から人に来てほしくない」「ごみを捨てられるだけ」「うるさい」と思う人もいる。良かれと思ってそこへ入っていっても、ありがた迷惑になっちゃうんですよね。だから、やってほしいところに行かないといけない。 国内には世界遺産や文化財など、地域ならではの特徴がたくさんあります。そういうものを、僕らがちゃんと一から理解した上で、地域の人たちに求められる状態で広げていきたいと思っています。自分が溺れているのに、溺れている人を助けには行けないじゃないですか。まず自分が泳げるようになって、その上で人を助ける。そのバランスが重要だと思っています。

――地域から求められていることが前提になる。

自治体の方から「うちでもやってほしい」と連絡をいただくこともあります。でも、本当にできるのか、果たして効果があるのか判断しないといけない。需要と供給ですよね。そもそも地域住民の方が問題にしていないものを、解決しに行く必要はない。そこにビジネスは生まれません。ビジネスが生まれなかったら、地方創生も続きません。

  • 2022年、阿蘇市で「阿蘇カルチャーナイトin内牧温泉」を開催

――そんな中、阿蘇市では、補助金が下りなくても実施した取り組みがあったそうですね。

はい。日本には温泉街がたくさんあって、いい場所なのにPRの仕方が分からなくて衰退の一途をたどっているところもあります。そういったところに僕らが入って、エンタメの力でPRしていけたらと思ったんです。そこで、阿蘇市ではイルミネーションを中心にしたイベントをして、非常に好評でした。ただ、国の補助金が下りなかったんですよ。だから、やらないという選択もありました。やったら赤字ですから。でも、阿蘇市と何度も打ち合わせをしていくうちに、僕たちに期待されていることがすごく伝わってきました。それで社内で相談して、僕たちの持ち出しでやりました。以降、阿蘇市役所の方が大阪に来られた時は会社に挨拶に来てくれるなど、いい関係が続いています。

ナイトカルチャーで培った経験を地域へ

――TryHardはナイトクラブからスタートした会社です。その経験は地方創生をプロデュースするにあたって、どう生きていますか?

ナイトタイムエコノミーは、大阪だけじゃなくて、全国の課題です。日本を訪れる外国人観光客が増える一方で、夜に楽しめる場所が少ないんです。僕らはナイトクラブの畑で成長してきた会社なので、夜のことはある程度理解できています。しかも、フェスもやる、花火大会もやる、クラブもマネジメントする。だからこそ、それぞれのパイプ役になれると思っています。

――経済効果という面でも、夜の時間は重要ですか。

そうですね。日帰りか宿泊かでも経済効果は変わります。ただ、単に夜遅くまで遊べる場所を増やせばいいわけではない。安心・安全・健全で、なおかつエンターテインメントが豊富な夜の街をつくる。そうすれば滞在時間が長くなって、飲食や宿泊など地域での消費にもつながっていく。そうやって、ナイトタイムエコノミーを地域経済の活性化につなげたいと思っています。その地域だからできるエンターテインメントを考えていきたいですね。

――今後、地域でのイベントづくりに向けて展望をお聞かせください。

世界中のフェスをもっと見に行きたいですね。どこの国でも、その地域に合ったイベントをやっていると思うので、イベントと地域の特徴をどう組み合わせているのか勉強したい。その地域だからできるエンターテインメントを考えていきたいですね。 また、海外も視野に入れています。今、忍者に歌舞伎のエッセンスを加えたショーや、和楽器とダンスを組み合わせたショー、相撲をエンターテインメントとして見せる取り組みなど、外国の方が日本文化を気軽に楽しめるコンテンツを提供しているのですが、それらをまずは国内のインバウンド向けに展開しながら、いずれは海外にも持っていきたいと考えています。日本との親和性が強い、文化的に近いアジアから広げていきたいと思っています。

大付楽洋(おおつき・らくよう)

株式会社TryHard Japan代表取締役 グループ代表CEO、株式会社SBI MUSIC CIRCUS代表取締役。2013年にTryHard Japanを創業。音楽フェス「MUSIC CIRCUS」や花火大会を手がけ、エンタメによる地方創生を推進。