「専業主婦は年金保険料を払っていないのに、将来年金がもらえるのは不公平だ」
このような声はたびたび聞かれます。会社員や公務員などの第2号被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者は、一定の要件を満たせば、自分で国民年金保険料を納めなくても、老後に老齢基礎年金を受け取ることができます。これが国民年金の「第3号被保険者制度」です。なお、第3号被保険者は女性に限らず、要件を満たす男性も対象となります。
共働き世帯が増えるなか、この制度は「時代遅れ」という指摘もあり、制度の見直しや廃止をめぐる議論が続いています。そのため、「いずれ主婦年金はなくなるのでは?」と不安に感じている人もいるでしょう。
「主婦年金」とも呼ばれる第3号被保険者制度はなぜ作られたのか、利用者数の推移や最新の制度改正を踏まえ、専業主婦の年金が今後どうなるのかを考えてみます。
「第3号被保険者制度」が作られた背景
第3号被保険者制度が作られた背景には、1961年に国民年金制度が始まった当時の年金の仕組みが関係しています。当時の厚生年金は、夫名義の年金で夫婦2人が生活できるような給付設計になっていたため、会社員の妻の国民年金への加入は任意とされていました。
しかし、妻が任意加入しなかった場合は、障害年金は受給できず、さらに、離婚した場合は、自分名義の年金がないという問題が出てきました。
そこで1985年の年金制度改正により、1986年4月から、会社員などに扶養される配偶者を「第3号被保険者」として国民年金の加入対象とし、自分で保険料を納めなくても基礎年金を受け取れる仕組みが導入されました。
なお、第3号被保険者が個別に保険料を納める必要はありませんが、基礎年金に必要な費用は厚生年金などの被用者年金制度全体で負担しています。
当時は、専業主婦世帯が多く、夫は外に働きに出て、妻は家庭を守るという風潮がまだまだ根強い時代でした。しかし、その後は共働き世帯が増加し、妻が64歳以下の世帯では、2025年時点で共働き世帯が専業主婦世帯の3.5倍となっています。制度が創設された当時とは、世帯や働き方を取り巻く環境が大きく変化しています。
第3号被保険者数はピーク時の約半分に
第3号被保険者制度がスタートした1986年度末の対象者は約1,093万人でした。その後増加し、1995年度には約1,220万人でピークを迎えます。しかし、それ以降は減少傾向が続いています。
2025年度末には604万人となり、過去最少を更新しました。ピークだった1995年度の約1,220万人と比べると、30年間でほぼ半分になったことになります。
一方、前述した専業主婦世帯は2025年時点で358万世帯です。統計の対象や単位が異なるため単純には比較できませんが、第3号被保険者には専業主婦だけでなく、パートなどで働きながら配偶者の扶養に入っている共働き世帯の人たちも含まれます。
共働きでもパートで働く妻が多い
内閣府の資料によると、2025年時点で、妻がフルタイム労働(週35時間以上就業)の世帯数は542万世帯、妻がパートタイム労働(週35時間未満就業)の世帯数は712万世帯となっており、後者のほうが多くなっています。
2025年時点では、妻がフルタイムで働く世帯よりも、週35時間未満で働く世帯のほうが多くなっています。
ただし、この統計は週35時間を基準に区分しているため、週35時間未満で働く妻がすべて第3号被保険者というわけではありません。このなかには、社会保険加入の要件の一つである「週20時間以上」で働き、すでに社会保険に加入している人も含まれています。
さらに、2025年の年金制度改正により、短時間労働者への社会保険の適用は今後さらに拡大します。月額8万8,000円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃されました。企業規模要件も段階的に縮小され、2035年10月に撤廃される予定です。
厚生労働省の試算では、企業規模要件の撤廃によって約70万人、最低賃金の引き上げと、それに伴う賃金要件の撤廃によってさらに約110万人が、新たに社会保険の適用対象になると見込まれています。
このグラフだけでは、週35時間未満で働く妻のうち、第3号被保険者がどのくらいいるのかはわかりません。ただ、社会保険の適用拡大が進めば、これまで扶養の範囲内で働いていた人が勤務先の社会保険の適用対象となるケースが増え、第3号被保険者はさらに減っていくと考えられます。
第3号被保険者制度はなくなるのか
第3号被保険者は減り続けていますが、現時点で制度の廃止が決まっているわけではありません。ただし、制度を取り巻く状況は大きく動き始めています。
2024年12月にまとめられた「社会保障審議会年金部会における議論の整理」では、社会保険の適用拡大を進めることで、第3号被保険者制度を縮小していくことが当面の基本的な方向性とされました。
さらに、2025年に成立した年金制度改正法の附則には、第3号被保険者制度の実情に関する調査研究を行うことなどが検討規定として盛り込まれました。国会の附帯決議でも、制度の在り方について検討を進めることが求められています。
これを受けて、厚生労働省は2026年9月4日、「国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会」の初会合を開催しました。
現時点で、第3号被保険者制度の廃止が決まっているわけではありません。まずは第3号被保険者の働き方や収入などの実態を把握し、そのうえで制度の在り方を検討していく段階です。
今後は、社会保険の適用拡大によって対象者を減らしながら、第3号被保険者制度そのものについても本格的に議論が進められていくでしょう。
専業主婦の老後はどう備える?
社会保険の適用拡大が進んでも、誰もが社会保険に加入して働けるわけではありません。育児や介護、病気などの事情で十分に働けない人もいます。また、現在の制度を前提に長年生活設計をしてきた人もいるため、単純に制度を廃止し、全員に国民年金保険料の負担を求めれば済む話でもありません。
今後、制度の見直しが進むとしても、こうした人への配慮や経過措置を含め、どのような仕組みに移行していくのかが重要な論点になるでしょう。
一方、個人としては、第3号被保険者制度が今後どうなるかにかかわらず、自分自身の老後資金について考えておく必要があります。
たとえば、扶養を外れて社会保険に加入して働けば、収入を増やせる可能性があるだけでなく、厚生年金に加入することで将来受け取る年金を増やすことにもつながります。働く期間や収入によっては、扶養内で働き続けるよりもメリットが大きくなる可能性もあります。
制度にこだわり過ぎず、「自分自身の老後の年金をどう作るか」という長期的な視点から、これからの働き方を考えてみるとよいでしょう。
■参考
厚生労働省「第3号被保険者制度について」(PDFがダウンロードされます)
男女共同参画白書 令和8年版 全体版(PDF版) | 内閣府男女共同参画局(PDFがダウンロードされます)
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(PDFがダウンロードされます)
年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大|厚生労働省
厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要等」(PDFがダウンロードされます)
第1回「国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会」資料|厚生労働省



