「7月9日の国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時2.9%に上昇(価格は下落)した。1996年9月以来30年ぶりの高水準だ。中東情勢が再び緊迫し原油価格が上昇。インフレ懸念に伴う債券売りが強まった。(日本経済新聞 7月9日)」

住宅ローンの利用を検討している人にとって、長期金利の上昇は心配なニュースです。

しかし、長期金利の動向を伝える短いこのニュース、「よく分からない…」という人が多いのではないでしょうか。

長期金利が「一時2.9%」とありますが、それは「新発10年物国債利回り」で、「価格は下落」とも書いてあります。中東情勢の緊迫化などが理由のようですが、これによって「債券売りが強まった」とは、一体どういうことなのでしょうか。

国債金利が長期金利の指標になるワケ

長期金利は一年を超えるお金の貸し借りに使われるもので、固定型住宅ローン金利がその一例です。長期金利は長期資金に対する需要と供給で決まります。「長期間お金を借りたい」という資金需要が高まったり、「金利が上がりそうだから、長期間固定では貸したくない」という思惑から資金供給が減ったりすれば、需給が逼迫して金利が上昇します。

指標となる金利は、借り手が、誰もが知る『有名人』で、取引量も多く、長期資金に対する需要と供給が最大限に反映されているものになります。これが国債なのです。

国債は政府が借金をする際に発行される「借用証書」で、自由に売買ができます。借り手は「日本一の有名人」で取引量も膨大、返済されないリスクも低い国債の金利は、最適な指標なのです。国債には様々な期間のものがありますが、長期金利の指標になっているのが、「10年物国債」の金利です。これを代表的な長期金利の指標として、固定型住宅ローンや企業向け融資などの金利も影響を受けます。

国債は金利を産む「ニワトリ」

国債は「売買可能な借用証書」でした。国債の価格は、一般に額面100円当たりの価格で表示されます。利付国債の場合、額面金額に表面利率を掛けた利息が年2回に分けて支払われます。額面金額に対する年間の利息の比率が「表面利率」で、10年後の償還日には額面金額が全額支払われることが約束されています。借用証書ですから当然のことですね。

この国債を「ニワトリ」に置き換えてみましょう。「生みの親」は政府で、投資家は10年間そのニワトリを飼い続け、半年ごとに利息というタマゴを食べることができます。10年後には、政府から額面金額が償還されます。国債というニワトリは、国が利息の支払いと満期時の元本の償還を行う、信用リスクの低い投資対象です。ただし、満期前に市場で売却する場合は、金利動向によって価格が変動し、購入価格を下回ることもあります。

10年物国債は毎月発行されています。最新のものが「新発国債」で、表面利率は財務省がその時々の金融・経済情勢に合わせて決めています。

新発国債は、新しい条件のものが発行されるたびに入れ替わってゆきます。381回債(表面利率2.1%:2026年1~3月発行)の次が、382回債(表面利率2.4%:4~6月発行)、そして金利が30年ぶりの高水準となった7月9日時点では、7月発行の383回債(表面利率2.7%)が、指標である新発国債になっていました。

しかし、引用した記事には「一時2.9%に上昇とあります。「金利は10年間固定で、2.7%ではないのか?」と、疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。

「金利上昇=価格下落」の謎を解く

国債を見るときには、『表面利率』と『利回り』という2つの数字を区別する必要があります。発行時に決められた10年間固定の「表面利率」と、発行後の売買で決まる「流通利回り」です。

今、381回債(表面利率2.1%)を保有している投資家が、国債市場で売りたいと考えたとします。しかし、国債市場には383回債(表面利率2.7%)という、よりたくさんのタマゴを産むニワトリがいます。このままでは買い手がつきませんよね。

そこで額面金額100円より安い価格(アンダーパー)で売却せざるを得なくなります。381回債(表面利率2.1%)を383回債(表面利率2.7%)と同じ利回りになるまで値引きすることで、取引が成立するのです。

国債市場には、産むタマゴの数が異なるニワトリが数多く存在していますが、売買価格を調整することで、市場金利が上昇すると、低い表面利率の既発債は、その時点の市場利回りに見合うよう価格が下落します。国債の金利といえば、10年間固定の表面利率ではなく、売買状況に応じて変動する流通利回りのことを示しているのです。

長期金利が30年ぶりの高水準となった7月9日は、金利のさらなる上昇、つまりもっと多くのタマゴを産むニワトリが出てくるとの思惑が広がりました。その結果、2.7%のタマゴを産む383回債というニワトリですら売ろうとする投資家が続出し、アンダーパーまで売り込まれてしまいます。これによって、流通利回りは2.9%にまで上昇したのです。これこそが「国債価格の下落=国債金利の上昇」のからくりなのです。

もちろん、国債の流通利回りが低下することもあります。金利の先高感が薄れてくると、「長期固定でより高い利回りを確保したい」と考える投資家が増えます。すると、383回債(表面利率2.7%)のみならず381回債(表面利率2.1%)というニワトリですら、魅力的な投資対象に見えてきて、額面金額100円を上回る価格(オーバーパー)で購入する投資家が出てきます。この場合、表面利率からオーバーパーで購入した「損失分」が差し引かれるため、流通利回りは下落します。今度は「国債価格の上昇=国債金利の下落」となっていることが分かります。

国債を見るときは、価格と利回りの両方が重要です。この2つは表裏一体の関係にあり、同じ債券なら、価格が下がると利回りは上がり、価格が上がると利回りは下がります。ニュースでは市場の動きを把握しやすいよう、新発10年国債の利回りが「長期金利」として伝えられることが一般的です。

メディアでは「金利上昇(価格は下落)」のように伝えられていますが、これが混乱の一因です。債券市場では利回りで取引条件を示すことが多く、その利回りに対応する価格が計算されます。価格と利回りは表裏一体で、価格が下がれば利回りは上がります。

長期金利はなぜ上昇しているのか

現在、長期金利が上昇している理由は幾つかあります。

(1)インフレ懸念と日銀の金融引き締め

インフレは国債の魅力を低下させます。インフレ率が上昇すると、固定された利息や元本の実質的な価値が目減りします。また、金融引き締め観測から市場金利が上昇すると、既発国債の価格には下落圧力がかかります。「青い鳥が幸せを運んできた!」と、夢見心地になる投資家がたくさん出てくる中、年間数%のタマゴしか産まない国債というニワトリは、地味すぎて人気が低下してしまうのです。

日銀の金融政策も影響を与えます。インフレ懸念が高まると、日銀は政策金利を引き上げて、金融引き締めに動きます。政策金利そのものは短期金利ですが、その影響は長期金利にも波及するのです。

長期金利が30年ぶりの高水準になったのは、中東情勢を背景としたインフレ懸念に加え、日銀の金融政策や財政運営への懸念などが重なったからと言えるでしょう。

(2)財政赤字の拡大

国債は政府の借用証書ですから、税収に見合わない財政支出が増えると発行額が増えます。2026年9月の執筆時点で、高市首相は「責任ある積極財政」を掲げていますが、積極財政による国債発行の増加や財政悪化への懸念が強まれば、長期金利の上昇要因となることがあります。

国債の供給が増え、需要が追いつかなければ、国債価格には下落圧力、利回りには上昇圧力がかかります。長期金利の動向を探る上で、政府の財政政策も重要な要素になってくるのです。

流通利回りが30年ぶりの高水準と、人気が落ち込んでいる国債ですが、突如として人気が出ることがあります。株価などが暴落した場合、逃げ出した資金が、安全資産とみなされる国債に向かうことがあります。「質への逃避」(Flight to quality)と呼ばれる動きで、青い鳥を追いかけるのは止めて、安全確実とみなされるニワトリを飼おうというわけですね。

国債というニワトリの動きは、株価などに比べてとてもゆっくりです。また、長期的な経済の見通しが反映されるものでもあります。あまり難しく考えず、まずは指標となる新発10年国債の流通利回りだけ、チェックしておいて下さい。[横山11.1]

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。