進学や就職をきっかけに地元を離れ、そのまま都市部で住宅を購入して暮らしている人にとって、「将来、実家をどうするか」という問題は避けては通れません。
自分だけでなく、兄弟姉妹の誰も住む予定のない実家は、親が亡くなったあとは空き家になってしまいます。誰も住んでいなくても固定資産税や維持費用はかかり、売却や賃貸を考えても、すぐに買い手や借り手が見つかるとは限りません。
相続が発生してから慌てないためにも、親が元気なうちに家族で話し合っておきたいことを、FPの視点から整理します。
増え続ける「空き家」
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は900万2千戸と過去最多となり、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)も13.8%と過去最高を記録しました。
このうち、賃貸用や売却用、別荘などの二次的住宅を除く空き家は385万6千戸。1993年の149万戸から、30年間で約2.6倍に増えています。
出所:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計結果」
では、なぜこれほど空き家が増えているのでしょうか。
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」によると、空き家となった住宅の取得方法は「相続」が57.9%と最も多く、全体の約6割を占めています。
親が亡くなって実家を相続したものの、「自分はすでに家を持っている」「兄弟姉妹も遠方に住んでいる」などの理由から誰も住まず、そのまま空き家になるケースが考えられます。
空き家にかかるコストとリスク
では、実家を空き家のままにしておくと、どのような負担やリスクがあるのでしょうか。
空き家であっても、所有している限り固定資産税はかかります。また、一般的に人が住まなくなった家は、換気や通水が行われず、手入れがされないので、建物が傷みやすくなります。
さらに、適切に管理せず放置し、市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」として勧告を受けると、その土地が固定資産税の住宅用地特例の対象から外れます。その結果、土地の固定資産税の負担が大きくなる可能性があります。
空き家として所有し続ける場合でも、庭木の手入れや建物の点検、換気や定期的な清掃などは必要となってくるでしょう。
空き家を10年維持するコストはいくら?
では、誰も住まない実家を10年間維持すると、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
ここでは、地方にある戸建ての実家を相続し、遠方に住む子どもが管理するケースを想定して試算してみます。
空き家の管理には、日本郵便が提供している月額4,280円の「空き家みまもり」を利用するものとしました。
| 費用の項目
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設定
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年間費用
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|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 固定資産税評価額(土地600万円・建物200万円)と仮定※ | 5万4,000円
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| 除草・庭木管理 | 1回1万円×年2回 | 2万円
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| 空き家管理サービス | 4,280円/月×12カ月 | 5万1,360円
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| 帰省交通費 | 2万5,000円×年2回 | 5万円
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| 合計
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17万5,360円
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※土地の固定資産税評価額600万円(200㎡以下の小規模住宅用地)、建物の固定資産税評価額200万円と仮定。都市計画税が課税される地域を想定し、固定資産税率1.4%、都市計画税率0.3%として試算しています。
このケースでは、年間の負担は約17万5,000円となります。各費用が変わらないと仮定して単純計算すると、10年間では約175万円です。
さらに、水道・電気を維持する場合の基本料金や火災保険料、建物の修繕費などが発生することもあります。実際にかかる費用は建物の状態や立地、管理方法などによって大きく異なりますが、誰も住んでいない実家でも、所有し続けるだけで一定の費用がかかることは意識しておきたいところです。
日本郵便の「空き家みまもり」とは?
日本郵便の「空き家みまもり」は、月額4,280円で月1回、建物の外観や庭木・雑草、郵便受け、不法投棄、玄関の施錠などを確認し、写真付きで報告してもらえるサービスです。室内の通風・通水は月額5,000円、郵便受けの投函物を指定先へ送付するサービスは月額800円のオプションとなっています。基本サービスは建物の状況確認が中心なので、必要に応じて自分で帰省したり、別途、除草や修繕などを手配したりする必要があります。
(2026年9月時点)
空き家でも火災保険は検討しておきたい
先ほどの試算には火災保険料を含めていませんが、空き家だからといって、火災や自然災害のリスクがなくなるわけではありません。火災や台風などで建物が大きな被害を受ければ、無保険の場合は修繕や解体などの費用を自分で負担することになります。
ただし、誰も住まなくなった家では、それまで加入していた住宅向けの火災保険をそのまま継続できるとは限りません。建物の使用状況などによっては、住宅物件ではなく「一般物件」として扱われ、保険料が高くなったり、保険会社によっては契約できなかったりする場合があります。
長期間実家を残すのであれば、空き家でも加入できる火災保険があるか確認し、建物の状態や今後の利用予定などを踏まえて加入を検討するとよいでしょう。
現在、親が火災保険に加入している場合は、将来空き家になったときも契約を継続できるのか、あらかじめ保険会社に確認しておくと安心です。
実家の資産価値を調べておく
実家を相続する前に、まず確認しておきたいのが現在の資産価値です。実家がいくらくらいで売れるのかを把握しておけば、将来「売却する」「賃貸に出す」「そのまま所有する」といった選択肢を比較しやすくなります。
親が住んでいるうちに不動産会社などに査定を依頼し、おおよその売却価格を確認しておくとよいでしょう。その際、「建物を残したまま売却できるのか」「解体して更地にしたほうが売れやすいのか」「賃貸の需要はあるのか」といった点もあわせて確認しておくと、今後の選択肢を検討しやすくなります。
ただし、不動産会社の査定額で必ず売却できるわけではありません。できれば複数の会社に査定を依頼し、価格だけでなく、その地域の売買状況や需要についても聞いておくとよいでしょう。
また、賃貸に出す場合は、リフォーム費用や固定資産税、修繕費、管理会社への手数料などの支出も考慮しておきましょう。
実家の未来を親子で話し合う
将来、実家をどうするのか、親が元気なうちに親の希望と子どもの考えを確認しておきましょう。兄弟姉妹の誰かが住むのか、売却するのか、賃貸に出すのか、あるいはしばらく空き家のまま残すのか。実家の資産価値や地域の需要を把握しておけば、より具体的な話し合いができます。
結論まですぐに出せなくても、親が元気なうちに家族それぞれの考えを共有しておくだけでも、その後の判断はしやすくなります。
あわせて、実家の不動産に関する書類も確認しておきたいところです。土地・建物の登記内容を確認するとともに、購入時の売買契約書や領収書などが残っていないか探しておきましょう。特に、購入代金など取得費が分かる資料は、将来実家を売却するときに重要になります。
不動産を売って利益が出た場合、原則として「売却価格-取得費-譲渡費用」などをもとに譲渡所得を計算します。昔購入した家で取得費が分からない場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算することができます。この場合、実際の取得費よりも概算取得費が少なければ、その分、課税対象となる譲渡所得が大きくなる可能性があります。
相続後に子どもが古い資料を一から探すのは大変です。親が健在のうちに、実家をどうするかという話し合いとあわせて、必要な書類の所在も確認しておくとよいでしょう。
相続後には「3年」を意識する
実家を相続したら、「3年」という期間を一つの目安として意識しておきましょう。
まず、2024年4月から相続登記が義務化されています。不動産を相続によって取得した相続人は、原則として、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、相続した実家を売却する場合には、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を利用できる場合があります。
これは、一定の要件を満たす相続した実家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です(相続人が3人以上の場合は最高2,000万円)。対象となる家屋は1981年5月31日以前に建築されたものであること、売却代金が1億円以下であることなど、いくつかの要件があります。
売却時期にも期限があり、「相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却する必要があります。相続登記とは期限の数え方が異なりますが、実家を相続したら早めに今後の方針を決める必要があるという点では、どちらも「3年」が一つの目安になります。
なお、この特例は現行制度では2027年12月31日までに行われる譲渡が対象です。つまり、相続から3年以内であっても、現行制度の適用期限を過ぎれば特例を利用できない可能性があります。
今後、制度が延長・変更される可能性もあるため、実際に売却する際は最新の制度を確認しましょう。
おわりに
空き家が増え続けるなか、適切に管理されない空き家への対策も進められています。今は親が暮らし、自分にとっても思い出の詰まった実家が、いつか誰も住まない家になるかもしれません。
空き家のまま所有し続ければ、固定資産税や維持費などの負担が続き、建物の劣化などのリスクもあります。一方、売却しようと思っても、すぐに買い手が見つかるとは限りません。売却時に必要となる購入当時の書類なども、相続後では見つけるのが難しくなることがあります。
こうした不安を取り除くためにも、まずは親が元気なうちに、親自身が家をどうしたいのか、兄弟姉妹はどう考えているのかを話し合い、実家の未来に対する家族それぞれの考えを共有することから始めてみましょう。
■参考
総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」
郵便局の空き家みまもり ~空き家管理のお手伝い~ | 日本郵便株式会社
【法務省/相続登記の義務化】不動産を相続したらかならず相続登記!
No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
