シェイクスピアは『ハムレット』でこう書いている。「借り手にも貸し手にもなるな。貸し借りはしばしば金と友の両方を失わせる」と。しかし、私たちの暮らしはお金とは切り離せない。

はたして、幸せなお金との付き合い方とはどのようなものだろうか――。この連載では、マネーの案内人があなたをお金との心地よい付き合い方へ誘います。

第3回は、経済評論家の加谷珪一氏。お金持ちに必要なのは出自でも才能でもない。「誰もが平等に与えられた真理に気づき、実行しているかによる」と加谷氏は説きます。果たして、お金持ちになるために必要なこととは何なのか、その真相に迫ります。

お金を持つことと幸せは必ずしも一致しない

お金があったら幸せになれる──。そう多くの人が思ってしまう。「お金があれば何でも買える」「困りごとも解決できる」と。そもそも“お金持ち”とはどういう人を指すのだろうか。

お金持ちと聞いて、イメージされるのは、次の3つのパターンでしょう。

1つ目はお金をたくさん稼いでたくさん使うタイプ。成金的な方に多いタイプですが、お金の出入りが激しく、収入の継続性があるとも限りません。2つ目は社会的地位の高い方。経営者や大手企業の役員などがイメージしやすいですが、多くは年収が2000〜3000万円程度で、一生その地位が続くわけでもありません。

3つ目が資産を持っている人たち。毎年の稼ぎがいくらかではなく、株式などの配当や不動産投資などで、資産を元にお金に働いてもらっている人のことです。お金の多寡を見る時、年収などのフローを得る人が目立ちますが、ストック型の資産を持つ人こそが真のお金持ちだと考えます。

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テレビのコメンテーターとしても、その歯に衣着せぬ発言に根強いファンも多い。


お金は「不幸を軽減できる」

しかし、お金と幸福感は必ずしも比例しないと加谷氏は説く。

お金と幸福感は必ずしも、イコールではありません。家族や友人との関係性、仕事の環境など、幸せはお金で買えない物事で決まるからです。

しかし、ここでお伝えしたいのが、「資産」を持つことの重要性です。仮に仕事に不満があった場合、高年収でなくても一定の資産があれば辞めることができる。いつ仕事がなくなってもいいと心にゆとりが持てます。

一方で、給料頼りの生活ではお金に縛られ、転職してもお金の不安は尽きず、不満を抱えることになりがちです。つまり、お金を俯瞰してみると、資産があれば「不幸を軽減できる」、そして、「自由(になること)を買える」とも言えます。

もともと土地などがある裕福な家柄でなければ、お金持ちへの道は難しいのかと思えるが、加谷氏はそれだけでは決まらないという。加谷氏は「時間」を味方につければ、だれでもお金持ちになれる可能性があると話す。

たとえば、投資で考えるとわかりやすいでしょう。仮に少額でも年月をかけて、投資をしていけば複利効果もあり、時間の経過とともに資産は増えていく可能性が高いでしょう。

仮に月に3万円を積み立てて年利6%(株式投資の長期的な平均利回り)で推移すれば元本合計は1080万円程度で、30年後の資産額は3000万円以上になることも※1。

時間をかけて資産形成をしていけば、ここまでお金を増やしていくチャンスが増えます。だから、投資をするなら早ければ早い方がいい。メディアの投資相談で「いつから投資を始めたらいいですか?」という質問を受けることがあります。私は迷いなく「今日から、今からでも」と、答えます。1日でも早く始める。すぐに口座を開設する。そうすることで、投資期間を長く設定できるからです。

※年利6%が⼀定と仮定した試算であり、将来の運⽤成果を保証するものではありません。投資は元本割れのリスクがあります。

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加谷氏は20代の頃に資産形成のために関連書籍を読み漁り、お金持ちには共通点があることに気づいたという。

投資も人生も「時間の活かし方」が結果をわけていく

加谷氏は投資以外でもお金持ちに共通しているのは「時間を大切にする」マインドだと指摘する。

投資において時間が武器になると言いましたが、実は投資に限った話ではありません。本当のお金持ちに共通して言えるのは、「時間を大切にする」ことです。もちろん、偶然のラッキーによってお金持ちになった人は別ですが、仕事でも時間は誰にとっても平等で、それをいかに価値あるものに活用していけるか。その視点と行動の差が、将来手にするお金の桁を変えていくのです。

まず、お金持ちの多くは移動手段としてタクシーを利用し、電車やバスといった公共交通機関を使いません。理由はタクシー内を作業ができるオフィス空間にし、周囲を気にせず電話ができるなど、コストパフォーマンスが高いからです。ハイヤーのサービスを利用して、ムダなく時間を管理している実業家もいるくらいです。

これは一例ですが、あるお金持ちは食事の誘いがあった際、一瞬でも迷ったら行かないと決めているそうです。迷ったということは、その時間がプラスになると瞬間的に実感できなかったから。極端な例かもしれませんが、それほどにお金持ちは時間のマネジメントに重きを置いているのです。

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様々な商品が謳い文句にする「安心」と「安全」のキーワード。しかし、信用できるのは後者だと加谷氏は言う。

時間の使い方以外にも、お金持ちが大切にすることとは何だろうか。

加谷氏自身が多くのお金持ちに出会い、かつ、お金持ちに関する書籍を読み分析した中で、共通する4つのポイントを見つけたという。

ビジネスや投資など、お金持ちになったアイデアや理由は千差万別です。しかし、お金持ち20人に聞いたら20人が同じことを言う「共通項」があることがわかったのです。それこそが、お金持ちになるための真理を表しています。それは、前述した「時間の使い方」に加え、「お金の使い方」「友人の選び方」そして、「自身の在り方」です。

まず、「お金の使い方」ですが、よくお金持ちはケチだと言われます。しかし、本質は、自分にとって大切か否かで判断しているだけ。彼らが食事会や飲み会に参加するのは、情報交換ができる貴重な「投資」の場として認識しているからです。ただ、「とはいえ、ムダになる飲み会もあるのでは?」とあるお金持ちに問うと、「8割はムダですが、そのムダだった飲み会の人とは今後会う価値がないとわかるから収穫です」と、答えたのです。つまり、人間関係をシビアにジャッジする場にもなっているわけです。

これは2つ目の「人間関係」にもつながる話ですが、彼らはなんとなくでは人づきあいをしません。たとえ1時間でも食事やお茶をともにするなら、自分にとって刺激になる人を好みます。自分にはない価値観、能力、経験を持つ人との対話こそが、成長につながると考えているからです。居酒屋などに行くと、同じレベルの者同士で愚痴り合い、お互いを慰め共感しあう飲み会を見受けます。しかし、現状に甘んじる姿勢からは、チャレンジ精神が湧いてきません。お金についてフラットに話せる人なら、ともにする時間で得られるものや互いを高める度合いは大きい。逆にいえば、お金の話を避ける人ほど、お金に猜疑心や執着心がある裏返しともいえます。

最後の「自身の在り方」ですが、お金持ちに共通するのが「自責」と「謙虚さ」です。会社勤めでうまくいかないと、「上司や会社が悪い」と言いがちですが、工夫の余地があるのにすべて他人のせいにしているケースは少なくありません。細かい上司がいたとして、相手を責めるのではなく、先回りして上司が直前で言い出しそうな問題に対処できる代案を用意しておくなど、相手のせいにせず自分で解決策を考えます。現実を謙虚に受け止め、他人のせいにせず、周囲を観察していく。けっして他責にしない特徴がみられます。

IKEAの創業者・イングヴァル・カンプラードは「商売がうまくいく秘訣は安く仕入れて高く売ること」が起業の原点とし、その後「人々の役に立つものを安く確実に届ける」思考を持って、事業に踏み出しました。

「当たり前の話だろう」と思うかもしれません。しかし、どれだけの人が謙虚さをもってこの原理原則を徹底できているでしょうか。「当たり前」と見過ごさずにその思考を実践して積み重ねていくことこそ、肝心です。

お金持ちになるヒントが私たちの身の回りには転がっているのに、「気づけない」「実行できない」人が本当に多い。世界一の投資家といわれるウォーレン・バフェットは、何か特別な情報を得て投資で成功しているわけでなく、株主向けのレポートを穴があくほど読み込むそうです。ヘッドラインや本文はポジティブな内容になりがちなため、但し書きの内容までチェックするそう。情報は注意深く見ればオープンになっているのに、気づいていないだけなのです。

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究極のポイントは「人に貢献しているかどうか」

「時間」に加えて、「お金」「人間関係」「自身の在り方」に対する向き合い方こそが、お金持ちになれるか否かを分けるという加谷氏。

そうした真理の中であぶり出される考え方の根幹にあるのが、「周囲へ貢献」という視点だ。

世界的な企業が収益を上げているのは、売上高も利益率も莫大で、優秀な人材が揃っていることも大きな理由です。しかし、根幹にあるのは、世の中の不便や不快を解決する商品やサービスを通じて人類に貢献している企業だからこそ儲かっているのです。

投資をするなら、そうした企業を選ぶことが、究極の資産形成になるでしょう。また、仕事においても、上司や環境の不平不満を言うより、先回りして他人に「貢献する」働き方をしていけば評価され、味方も増える。結果として信頼関係を強固にでき、出世や起業にもつながっていくでしょう。

アメリカの家庭では、子どもへの投資を学ばせる定番のアクティビティとして「レモネード売り」があります。材料の仕入れ、値段の決め方、売り方など一見すると、お金を稼ぐ教育に見えますが、本質はそこではありません。どうすれば美味しいものが作れるか。どうすれば飲んでくれる相手を喜ばせられるか。そうやって周囲にとって、心地よいものを提供した人が成功してお金を得られる。人を喜ばせたら、結果的に後からお金がついてくることを、幼い頃から体験していくわけです。これこそが、お金の哲学です。

経済学者のケインズの言葉には、お金持ちへつながる本質が表れています。「正しく間違うよりも、漠然と正確でありたい」と言った、とされています。人生も投資も各論で細かい失敗はリカバリーできても、大筋では間違えると巻き返すことは難しい。そこを履き違えないことが大切です。

お金持ちを目指す時、『お金は自由を得るためにある』と定め、そのために使えば大筋は間違わないでしょう。キャリアアップや資産運用への出費は将来の選択肢を増やし、使ったお金はいつか返ってくるでしょう。一方、今の高揚感を得るためだったり、不満のはけ口にするために使ったりすればお金は返ってこないかもしれませんね。

多くのお金持ちを取材し、自身もお金持ちの仲間入りを果たした加谷氏の言葉は重い。お金持ちになるための4つのポイントと「周囲への貢献」。自分はできているだろうかと、「自責」で振り返りたい。

【プロフィール】

加谷 珪一(かや・けいいち)

経済評論家/1969年宮城県生まれ。東北大学工学部原子核工学科を卒業後、出版社の記者を経て、投資ファンド運用会社へ転身。その後、コンサルティング会社を設立し独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事する傍ら、億単位の資産を運用する個人投資家としての顔も持つ。『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』『お金持ちの教科書』『縮小ニッポンの再興戦略』など著書多数。ニューズウィーク日本版やmi-molletなどで連載を持つほか、数多くのテレビ番組で解説者やコメンテーターを務める。複雑な経済動向をフラットに解説する論客として支持を集めている。

※本記事は情報提供を⽬的としたものであり、特定の⾦融商品の勧誘・推奨を⽬的とするものではありません。

取材・文:西村智宏 写真:松田麻樹 編集:Pen編集部