老後資金をNISAなどで「貯める方法」については多くの情報がありますが、「どう使うか」についてはあまり語られないものです。
「貯めたお金を使うだけなのに、悩むことなんてあるの?」と思うかもしれません。しかし、無計画に資金を取り崩していけば、長生きすることで資金が枯渇するリスクがあります。一方で、資金が足りなくなることを心配するあまり、必要以上に使うのを控えてしまうケースもあるでしょう。
実は、NISAなどで築いた資産を「いつ、どのくらい使うか」を考える資産活用は、資産を増やす運用とは違った難しさがあります。
そこで今回は、NISAなどで準備した老後資金をどのように取り崩していけばよいのか、具体的な数字を使って考えてみましょう。
老後資金は貯めて終わりではない
老後は、資産を増やす「積み立て期」から、生活のために資産を使う「取り崩し期」へ移ります。しかし、何歳まで生きるかは誰にもわからないため、毎月いくらなら安心して取り崩せるのかを判断するのは簡単ではありません。
だからといって、資金が減ることを心配して必要以上に使うのを控え、多くの資産を残したまま亡くなってしまえば、何のために老後資金を貯めてきたのかわからなくなります。老後資金は、長生きに備えながら、自分の生活のために上手に使っていくことも考える必要があります。
厚生労働省の2025年簡易生命表によると、65歳の平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。65歳の人の平均的な生存年数を年齢に換算すると、男性は約85歳、女性は約90歳となります。
ただし、これはあくまで平均であり、それ以上長生きする可能性もあります。老後資金の取り崩しは20年、30年といった長い期間を想定して考える必要があるでしょう。
老後の生活を支えるのは、NISAなどで準備してきた資産だけではありません。公的年金などの収入もあります。まずは年金などの収入で生活費をどこまで賄えるのかを確認し、不足する分を老後資金から取り崩すと考えてみましょう。
毎月いくら足りないのかを計算する
取り崩し額を考えるには、まず年金などの収入と生活費の差を計算し、毎月いくら不足するのかを把握します。
総務省の2025年「家計調査」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1カ月の可処分所得は22万1,544円、消費支出は26万3,979円でした。これをもとに毎月の不足額を計算すると4万2,435円になります。
ただし、これはあくまで平均値です。実際には、自分の収入や生活スタイルに合わせて考える必要があります。老後に旅行や趣味を楽しみたいなら、その費用も見込んでおきましょう。また、賃貸住宅に住み続ける場合は、家賃も含めて必要な生活費を考えます。
「年金などの手取り収入-老後の生活費=毎月の過不足」
自分の家計に合わせて計算してみましょう。
たとえば、毎月8万円が不足するとします。老後資金が2,000万円あって、毎月8万円ずつ取り崩した場合、運用しなければ約20年10カ月で資金がなくなる計算です。
一方、老後も資産運用を続けながら取り崩せば、運用成果によっては資産寿命を延ばすことができます。
運用しながら取り崩せば資産寿命が延びる
では、老後も運用を続けながら取り崩すと、資産寿命はどのくらい変わるのでしょうか。
老後資金2,000万円から毎月5万円、8万円、10万円を取り崩すケースについて、運用利回りごとに資産が何年持つのかを試算してみます。
資産寿命
| 取り崩し額 | 運用しない | 3% | 5% |
|---|---|---|---|
| 毎月5万円 | 約33年4カ月 | 計算上は資金が尽きない | 計算上は資金が尽きない |
| 毎月8万円 | 約20年10カ月 | 約32年9カ月 | 計算上は資金が尽きない |
| 毎月10万円 | 約16年8カ月 | 約23年2カ月 | 約35年11カ月 |
※元本2,000万円、年利を12で割った月利で毎月運用し、毎月末に一定額を取り崩すものとして試算。運用利回りは一定と仮定し、税金・手数料等は考慮していない。筆者試算。
たとえば、毎月8万円を取り崩す場合、運用しなければ資産寿命は約20年10カ月です。一方、年3%で運用しながら取り崩すと約32年9カ月となり、10年以上延びる計算です。さらに年5%で運用できれば、運用による収益が取り崩し額を上回るため、計算上は資金が尽きません。
ただし、これは毎年一定の利回りで運用できると仮定した場合の試算です。実際の投資では、毎年3%、5%と一定のペースで資産が増えるわけではありません。大きく値上がりする年もあれば、20%、30%と値下がりすることもあります。
特に注意したいのが、取り崩しを始めた直後に大きな値下がりが起きるケースです。資産が減ったところから一定額を取り崩すと、その後の運用に回せる資産も少なくなるため、資産の減少を早める可能性があります。
そのため、「運用しながら取り崩せば必ず資産寿命が延びる」と考えるのではなく、値下がりする可能性も想定して取り崩し方を考える必要があります。
取り崩し方法には「定額」と「定率」がある
資産の取り崩し方は、大きく「定額」と「定率」の2つに分けられます。
たとえば、毎月8万円ずつ取り崩すのが「定額」の取り崩しです。一方、「定率」は、資産残高の4%など、一定割合を取り崩す方法で、資産残高に応じて受け取る金額が変わります。
定額の場合は、毎月の取り崩し額が決まっているため、生活費として使いやすいのがメリットです。しかし、先述したように、株価が大きく下落したときにも同じ金額を取り崩すため、安値でより多くの口数を売却することになります。その結果、その後の運用に回せる資産が少なくなり、資産の減少を早める可能性があります。
一方、定率の場合は、資産残高が減れば取り崩し額も少なくなるため、相場が下落したときに資産を売りすぎるのを抑えられます。そのため、資産を長持ちさせやすいというメリットがあります。
ただし、資産残高によって受け取れる金額が変わるため、毎月一定額が必要な生活費には使いにくい面もあります。
暴落時に売却しない仕組みを作る
生活費が必要なタイミングで相場が暴落していると、値下がりした資産を売却せざるを得なくなります。同じ金額を取り崩すにも、価格が下がっているときほど多くの口数を売ることになり、その後の運用に回せる資産も減ってしまいます。
こうした事態を避けるためには、老後資金のすべてを値動きの大きい株式などで保有するのではなく、当面使うお金は預貯金などで確保しておく方法があります。
また、相場が好調で資産が増えているときに、必要に応じて資産の一部を売却し、将来の生活費として現金で確保しておくのも一つの方法です。
現在のNISAには非課税保有期間の期限がないため、老後も必要な分だけ少しずつ売却しながら、残った資産の運用を続けることができます。
さらに、NISAで保有する商品を売却すると、その商品の取得金額(簿価)分の非課税保有限度額が翌年以降に再利用できるようになります。老後でも余裕資金があれば、その枠を使って再び投資することも可能です。
つまり、「現役時代は積み立て、老後になったら取り崩す」と明確に分ける必要はありません。老後も運用を続けながら必要な分だけ取り崩し、余裕があるときには再び積み立てるなど、資産状況や家計に応じてNISAを活用するとよいでしょう。
こうした柔軟な取り崩し方を考えておけば、相場が大きく下落したときに、生活費のために資産を売らざるを得ない状況を避けやすくなるでしょう。
老後のお金の使い方を考える
老後資金の取り崩しは、頭で考えている以上に心理的な負担を感じるものです。これまで積み上げてきた資産が少しずつ減っていくことや、「長生きして資産が足りなくなったらどうしよう」という不安から、お金を使うことをためらってしまう人も少なくありません。
しかし、資産を減らさないことばかりを優先して、やりたいことを我慢し続けるのも考えものです。そもそも老後資金を準備してきたのは、老後の生活を支えるだけでなく、趣味や旅行などを楽しみ、充実した時間を過ごすためでもあるはずです。
内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」で、「今後、優先的にお金を使いたいと考えているもの」を尋ねたところ、最も多かったのは「自分や配偶者あるいはパートナーの医療・介護の費用」の47.5%でした。次いで「食費」が43.2%、「趣味やレジャー(旅行等)の費用」が32.4%、「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」が25.8%となっています。
今後、優先的にお金を使いたいと考えているもの(※複数回答)
| 順位 | 今後、優先的にお金を使いたいと考えているもの | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 自分や配偶者あるいはパートナーの医療・介護の費用 | 47.5% |
| 2位 | 食費 | 43.2% |
| 3位 | 趣味やレジャー(旅行等)の費用 | 32.4% |
| 4位 | 子や孫のための支出(学費、こづかい等) | 25.8% |
| 5位 | 健康維持・増進のための費用(健康食品、サプリメント、ジム等) | 24.1% |
| 6位 | 防災・防犯のための費用 | 23.6% |
| 7位 | 友人等との交際費 | 20.2% |
| 8位 | 住宅の新築・増改築・修繕・住み替え等の費用 | 18.3% |
| 9位 | 交通費・自動車維持費等の費用 | 14.9% |
| 10位 | 水道光熱費 | 14.2% |
出典:内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」をもとに筆者作成
医療や介護の費用が最も多い一方で、食費や趣味、レジャーなど、日々の暮らしや楽しみにかかわる支出も上位に入っています。
また、クロス集計を見ると、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と回答した人では、「食費」を挙げた割合が高くなっています。家計にゆとりがある人ほど、食費に優先的に使いたいと回答する傾向がみられます。
旅行や趣味の中には、健康で体力があるうちだからこそ楽しめるものもあります。お金を残すことを優先するあまり、いざ使おうと思ったときには旅行に行くのが難しくなっていた、ということもあります。
だからこそ、医療や介護、長生きなどに備える資金を確保しながら、旅行や趣味、家族との時間など、自分が大切にしたいことにも計画的にお金を使っていきましょう。
「70歳までに海外旅行に行く」、「月1回お友達と食事をする」など、使う計画を立てることで、「いつ、何に、どのくらい使うか」が具体的になります。その結果、資産を必要以上に残すことにも、早く使いすぎることにも偏らない、自分らしい老後のお金の使い方が見えてくるでしょう。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘・推奨を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。