「最近、いろいろなものが値上がりして生活が苦しくなった」
そんな声をよく耳にするようになりました。実際、東京では食料品や日用品、光熱費などの値上がりに加え、家賃負担も重くなっています。一方で、「20年前はもっと楽に暮らせた」という声も少なくありません。
では、本当に20年前より生活は苦しくなったのでしょうか。 家賃や食費、光熱費などの生活費と平均給与のデータをもとに、東京で一人暮らしをする負担がこの20年でどのように変化したのかを検証します。
一人暮らしの生活費を20年前と比較
東京での一人暮らしを想定して、総務省「家計調査」をもとに、2005年と2025年の大都市に住む単身者の生活費を比較してみましょう。
なお、公的統計は項目ごとに集計対象地域が異なるため、本記事では生活費は「大都市」、物価は「東京都区部」、家賃は「東京23区」、給与は「東京都」のデータを用いて比較しています。それぞれ比較可能な公表データを採用しています。
意外にも、消費支出の合計は20年前と比べて7,764円減少しています。
項目別に見ると、増加しているのは食費、水道・光熱費、家具・家事用品、保健医療です。一方で、住居、被服及び履物、交通・通信、教育、教養娯楽、その他の消費支出は減少しています。
ただし、住居費については家計調査の性質上、家賃を支払っている世帯の割合が4~5割程度にとどまるため、実際の家賃相場の変化を十分に反映しているとはいえません。
このように、家計全体の支出は減っているものの、その内訳を見ると、食費や水道・光熱費などが増える一方で、被服及び履物や教養娯楽などへの支出は減少しています。
その傾向は、エンゲル係数にも表れています。2005年には23.4%だったエンゲル係数は、2025年には26.0%となり、2.6ポイント上昇しました。エンゲル係数が高いほど消費支出に占める食費の割合が大きいことを示すため、20年前と比べて食費の負担割合が高まっていることが分かります。
20年前と比べると、被服及び履物や教養娯楽などへの支出が減少する一方、食費や水道・光熱費などへの支出は増加しており、家計の支出構成が変化していることが分かります。
食費・光熱費・家賃は20年前と比べてどのくらい上がった?
食費や光熱費、家賃などは、この20年間でどのくらい変化したのでしょうか。東京都区部の2020年基準消費者物価指数(品目別価格指数)をもとに比較してみます。
食料や外食、光熱・水道は30%を超える上昇となっています。一方で、家賃はこの20年間でわずかに下落しています。
ただし、消費者物価指数の家賃は、小売物価統計調査の家賃調査をもとに算出されており、新たに募集される物件だけを対象とした指標ではありません。そのため、これから東京で一人暮らしを始める人が負担する家賃水準を見るには、実際の成約データもあわせて確認する必要があります。
実際の取引データで見る家賃の変化
東日本不動産流通機構(REINS)が公表している「首都圏賃貸居住用物件の取引動向」をもとに、2026年4~6月(最新データ)と2006年4~6月の東京23区の成約家賃を比較してみます。
20年前と比べると、マンションの平均成約家賃は11.4万円から13.2万円へ約16%上昇、アパートは7.0万円から8.7万円へ約24%上昇しています。
食料や光熱・水道ほどではないものの、平均成約賃料は20年前より高くなっています。これから東京で一人暮らしを始める人にとって、新たに借りる家賃の負担は20年前より重くなっているといえるでしょう。
給料は20年前と比べてどのくらい増えた?
物価が上がっても、それ以上に給料が増えていれば、生活への影響はそれほど大きくありません。では、この20年間で給料はどれくらい増えたのでしょうか。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から見てみましょう。ここでいう賃金は、調査年6月分の所定内給与額の平均で、時間外勤務手当などの超過労働給与額を除き、所得税や社会保険料などを控除する前の金額です。
一般労働者の平均賃金を見ると、東京では2005年の37万100円から、2025年には41万8,300円となり、4万8,200円(約13%)増加しています。
このように、給料は20年前と比べて増えています。しかし、これらは名目賃金であり、物価の変動は反映されていません。
実際の生活水準を考えるうえで重要なのは、物価の影響を差し引いた実質賃金です。賃金の伸びを物価上昇が上回ると実質賃金はマイナスとなります。近年はその状態が続いています。
実質賃金の20年前との比較
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」から、全国調査の実質賃金指数を見てみましょう。
2020年を100とした指数で表すと、2005年は111.2、2025年は98.0となっています。
* 2005年:111.2
* 2025年:98.0
出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査 全国調査 長期時系列表」
※現金給与総額(年平均)・事業所規模5人以上・調査産業計の実質賃金指数
実質賃金指数は、名目賃金指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って算出したものです。指数が高いほど、給料で購入できるモノやサービスが多く、実質的な購買力が高いことを意味します。
20年前と比べると、実質賃金指数は111.2から98.0へと約12%低下しています。つまり、名目上の給料は増えているものの、物価変動を考慮した賃金水準は20年前より低くなっています。
このことから、「給料は増えているのに生活は苦しい」と感じる状況が数字に表れているといえるでしょう。食料品や光熱費など生活に欠かせない支出の値上がりが大きいことが、家計の負担感を大きくしているようです。
生活費は減っていても、東京での一人暮らしは楽になっていない
総務省「家計調査」によると、大都市に住む単身世帯の消費支出は、20年前と比較して月額7,764円減少という意外な結果となりました。
しかし、その内訳を見ると、生活の実態は異なります。食料や外食、光熱・水道の物価は、この20年間でいずれも30%以上上昇しました。さらに、東京23区の成約家賃も、マンションで約16%、アパートで約24%上昇しています。
一方で、被服及び履物や教養娯楽、交通・通信などへの支出は減少しており、20年前と比べて消費支出の内訳も変化しています。また、エンゲル係数は23.4%から26.0%へ上昇しており、消費支出に占める食費の割合は高まっています。
給料は、20年前に比べて増えていますが、食料や光熱費、家賃など生活に欠かせない支出の負担増を考えると、給料の伸びだけでは十分とはいえません。物価の影響を反映した実質賃金指数も、2005年の111.2から2025年には98.0へ約12%低下しています。
これは、物価変動を考慮した賃金水準が20年前より低くなっていることを示しています。
20年前と比べて、食費などの負担割合が高まり、物価変動を考慮した賃金水準も低下していることがデータから分かります。
■参考
総務省「家計調査 家計収支編 単身世帯 (都市階級・地方別/大都市) 2005年」
総務省「家計調査 家計収支編 単身世帯 (都市階級・地方別/大都市) 2025年」
総務省「2020年基準消費者物価指数 長期時系列データ 品目別価格指数 東京都区部 年平均」
不動産市場動向(統計)|東日本レインズ(REINS)|国土交通大臣指定 公益財団法人 東日本不動産流通機構
財団法人東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(2006年4~6月)(東京23区)」(PDFがダウンロードされます)
財団法人東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(2026年4~6月)(東京23区)」(PDFがダウンロードされます)
厚生労働省「令和 7年 賃金構造基本統計調査(都道府県別)」
厚生労働省「平成17年 賃金構造基本統計調査(都道府県別)」
厚生労働省「平成17年 賃金構造基本統計調査(都道府県別)」【参考表第1表】
実質賃金25年度0.5%減、4年連続マイナス 物価高に賃上げ届かず - 日本経済新聞




