「年収の壁」は大きく3つに分けられる

「年収の壁」とは、一定の年収を超えると税金が発生したり、自分で社会保険料を負担したり、配偶者が受けられる控除が満額受けられなくなるなどの境目のことです。大きく分けると、「本人の税金」「社会保険」「配偶者の税金」の3つがあります。

※表の拡大表示はこちら

まず、本人にかかる税金の壁です。所得税や住民税は、原則として1月1日から12月31日までに得た収入を基に判断します。2027年度分から、給与収入が119万円以下なら住民税の「所得割」は原則かからず、2026年分から所得税は178万円以下が非課税の目安です。ただし、住民税の非課税基準は自治体によって異なり、119万円以下でも均等割がかかる場合があります。

次が社会保険の壁です。こちらは税金とは判定方法が異なり、配偶者の扶養に入れるかどうかは、原則として今後1年間の収入見込みで判断します。重要なのが130万円で、これ以上の収入が見込まれると、原則として配偶者の社会保険の扶養から外れます。また、一定の企業で週20時間以上働くなどの条件を満たす場合は、勤務先の社会保険に加入することになります。これまで「106万円の壁」と呼ばれてきた月額8.8万円の賃金要件は、2026年9月の執筆時点では、2026年10月に撤廃される予定とされています。

そして3つ目が、配偶者控除・配偶者特別控除の壁です。これは自分の手取りではなく、配偶者の税金に関係するもの。2026年分は、配偶者の給与収入が136万円以下なら配偶者控除の対象となり、136万円を超えても169万円以下なら配偶者特別控除によって最大38万円の控除額が維持されます。その後は控除額が段階的に減少し、207万円を超えると対象外となります。

今年変わったのは「所得税」と「配偶者控除等の基準額」の上限額

2026年の大きな変更が、所得税の課税最低限の引き上げです。

給与所得控除の最低保障額が74万円、基礎控除が最高104万円となり、給与収入のみでほかに所得がない場合、年収178万円以下なら所得税がかからない仕組みになりました。2024年以前の「103万円の壁」、2025年分の「160万円の壁」と比べると、所得税がかからない年収の目安が大きく引き上げられたことになります。

これによって、2024年以前なら「103万円を超えないように」と年末に働く時間を調整していたパートやアルバイトの人は、所得税を気にせず働ける範囲が大きく広がってきたことになります。 2024年以前の103万円と比べると178万円との差は年間75万円、月平均では約6万2500円です。「もう少し働きたい」と思っていた人にとっては、勤務時間を増やしやすくなったといえるでしょう。

ただし、年収が75万円増えても、その分の手取りがそのまま75万円増えるわけではありません。 178万円はあくまで所得税がかからない年収の目安で、住民税や社会保険には別の基準があります。

なお、今回の改正は、2026年1月からの給与にすぐ反映されるわけではありません。2026年1月から11月までは、これまでと同じ方法で所得税が源泉徴収され、12月の年末調整で改正後の基準に基づいて1年間の税額を計算し、払い過ぎた税金があれば還付されます。 そのため、年の途中で毎月の手取りが増えていなくても、心配する必要はありません。

配偶者に関する基準も見直されました。まず、2025年分と比べてみましょう。

2025年分は、配偶者の給与収入が123万円以下なら配偶者控除の対象でした。123万円を超えると配偶者特別控除に切り替わりますが、給与収入が160万円以下なら最大38万円の控除を受けられる仕組みです。

これが2026年分からは、配偶者控除の対象となる給与収入が136万円以下に、配偶者特別控除の最大38万円が維持される範囲が169万円以下に、それぞれ引き上げられました。つまり、配偶者が税制上の控除を維持しながら働ける収入の範囲が広がったことになります。

注意したい『130万円』の社会保険の壁

税金の壁が大きく引き上げられた一方で、働き方を考えるときに重要なのが社会保険の壁です。

特に注意したいのが「130万円」です。配偶者の社会保険の扶養に入っている人は、今後1年間の収入が130万円以上になると見込まれると、原則として扶養から外れます。扶養から外れると、勤務先の社会保険に加入するか、勤務先の加入要件を満たさない場合は、国民健康保険・国民年金に加入して、自分で保険料を負担しなければいけません。

ここで大切なのは、「去年130万円を超えたか」ではありません。これから1年間でどのくらいの収入になる見込みなのかを基に判断する点です。

2026年4月からは、130万円の扶養認定についても判定方法が明確になりました。従来から今後1年間の収入見込みで判断されていましたが、2026年4月からは一定の条件を満たせば、労働契約の内容から見込まれる年間収入を基に判定する取扱いが導入されました。ここで注意したいのが、収入には基本給だけでなく、通勤手当などの諸手当も含まれることです。例えば、基本給が月10万円なら年間120万円ですが、毎月1万円の通勤手当が支給される場合、年間の収入見込みは132万円になります。「基本給だけなら120万円だから大丈夫」とは限らないため、雇用契約に記載された手当なども含めて確認する必要があります。

一方、契約上は130万円未満なのに、一時的な残業などで収入が増えるケースは別の扱いとなります。例えば、普段の契約では年間120万円のAさんが、繁忙期に残業が増え、一時的に収入が130万円を超えそうになったとします。このように、契約上の収入は130万円未満で、増収が一時的なものと認められる場合は、事業主がその旨を証明することで、一定の条件のもと引き続き扶養にとどまれる場合があります。これは、「年収の壁・支援強化パッケージ」の事業主証明という制度ですが、原則として連続2回まで利用できます。

『106万円の壁』は2026年10月に撤廃予定

また、これまで「106万円の壁」と呼ばれてきた基準も変わります。従業員51人以上の企業で働く人が社会保険に加入する条件の一つだった月額8.8万円以上という賃金要件がなくなり、週20時間以上勤務するかどうかが、これまで以上に重要になります。なお、企業規模や学生ではないこと、雇用期間など、ほかの加入要件もあります。

これまで「106万円を超えないように」と収入を調整していた人も、今後は年収より週20時間以上働くかどうかが重要になります。

現在51人以上という企業規模の条件は、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上へと対象が広がり、2035年10月には企業規模の条件がなくなる予定です。自分の勤務先がいつ対象になるのか、確認しておきましょう。

「壁を意識する」から「自分らしい働き方」へ

では、これからどのように働くのがよいのでしょうか。

育児や家事との両立を優先したい時期なら、社会保険の扶養内で働く方法があります。一方、子育てが落ち着くなどして働ける時間が増えたら、扶養を超えて社会保険に加入する働き方へシフトするのも一つの方法です。

社会保険に加入すると、健康保険や厚生年金の保険料が給与から差し引かれるため、短期的には手取りが減ることがあります。本人負担分はおおむね給与の14~15%程度が目安ですが、年齢や加入する健康保険によって異なります。保険料は会社と本人が原則として半分ずつ負担します。

その代わり、社会保険には大きなメリットがあります。

  1. 将来の年金が増える
    基礎年金に加えて厚生年金が上乗せされるため、老後の年金額を増やせます。

  2. 障害・遺族の保障が手厚くなる
    厚生年金に加入することで、障害厚生年金や遺族厚生年金の対象となり、万一のときの保障も厚くなります。

  3. 傷病手当金を受け取れる
    病気やケガで仕事を休み、給与を受け取れない場合、一定の条件を満たせば、給与のおおむね3分の2・通算1年6カ月まで受け取れます。

  4. 出産手当金を受け取れる
    健康保険の被保険者本人が出産のために休んだ場合、一定の条件を満たせば、給与のおおむね3分の2の出産手当金を受け取れます。

社会保険料を「手取りが減る負担」とだけ考えるのではなく、将来の年金や、病気・ケガ、出産などで働けなくなった場合の保障を得るための保険料と考えることもできます。 税金の壁が178万円まで引き上げられ、社会保険も「年収」から「労働時間」を重視する方向に変わっていく中、これからは「壁を超えないように働く」ことだけが正解ではありません。

今は扶養内で働く、子育てが落ち着いたら社会保険に加入するなど、自分のライフステージに合わせて働き方を変えていくことも大切です。

目先の手取りだけにとらわれず、将来の年金や保障、家事・育児とのバランスまで含めて、自分に合った働き方を考えていきましょう。

※2026年7月時点で成立・公表済みの制度に基づき、2026年分の給与収入に適用される主な基準を記載しています。個別の適用条件や企業の規模、雇用契約の内容、加入する健康保険によって取り扱いが異なる場合があります。

国税庁「家族と税」

国税庁「令和8年度税制改正」

国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」(PDFがダウンロードされます)

厚生労働省「被扶養者認定における年間収入の取扱いに係るQ&A」

厚生労働省「『年収の壁』への対応」

厚生労働省「社会保険加入の要件」

厚生労働省「社会保険加入のメリット」