派遣社員の時給はいま、いくらなのか
派遣という働き方は、着実に広がっている。日本人材派遣協会の「労働市場・派遣市場の概要」によると、派遣事業の売上高は2023年度に9兆500億円(前年比+3.3%)に達し、市場は拡大をつづけている。派遣で働く人も増えており、2025年10〜12月期の派遣社員数は164万人となり、前年同期から6万人増加した。
2024年の職種別平均では、もっとも多いのは事務職で54万人、次いで製造関連が38万人と続く。かつては一時的・補助的な働き方というイメージもあった派遣だが、いまや多くの人が選ぶ働き方のひとつとして定着している。そして近年、この派遣で働く人たちの時給が、上昇をつづけているのだ。
その平均時給は、具体的にいくらくらいなのか。仕事探しサイト「エン派遣」は毎月、「三大都市圏 募集時平均時給レポート」を公表している。掲載中の全職種の求人をエリア別に集計し、募集時の平均時給を分析したものだ。ここから、派遣社員の現在の平均時給とその推移をたどってみたい。
三大都市圏の派遣求人の募集時平均時給
2026年6月度の三大都市圏(関東、東海、関西)の平均時給は、1,720円だった。前月比+3円(+0.2%)、前年同月比+16円(+0.9%)と上昇し、2カ月連続して過去最高となった。前年同月を上回るのは、45カ月連続だ。職種別に見ても、オフィスワーク・事務系、営業・販売・サービス系、クリエイティブ系、IT・エンジニア系、技術系の5職種で過去最高を更新した。
このうちオフィスワーク・事務系は1,709円(前月比+4円、前年同月比+28円)で、こちらも2カ月連続して過去最高となる。レポートでは、オフィス系全体で業務の難度や専門性が高まったこと、また、時期的な要因により、高時給求人の比率が相対的に高まったことを背景に挙げている。
IT・エンジニア系は2,809円(前月比+42円、前年同月比+189円)と過去最高を更新した。レポートによると、生成AIの導入やDXの本格化、クラウド移行の進展を背景に、業務難度が高く時給も高い開発・PMなどの上流案件が増えたことが要因だという。
時給が高い「専門3職種」
またこのレポートでは、前年同月比の上昇額でも、時給額そのものでも、IT・エンジニア系(2,809円)、技術系(2,130円)、クリエイティブ系(2,117円)の3職種が上位を占めていた。こうして見ると、派遣時給は全体として右肩上がりにあるが、なかでも高い専門性が求められる職種が全体を力強くけん引していることがわかる。
オフィスワーク・事務系でも専門スキルが求められる求人が平均を押し上げており、こうした流れは幅広い職種に広がりつつある。
派遣社員の時給が上昇している要因
ここまでは直近の職種ごとの動きを見てきたが、派遣時給全体を押し上げているものはなにか。主な要因として挙げられるのが、「深刻化する人手不足」「最低賃金の引き上げ」「同一労働同一賃金の影響」、そして「専門職派遣への需要拡大」の4つだ。ここからは、それぞれについて見ていこう。
1. 深刻化する人手不足
派遣時給が上昇している大きな要因のひとつが、深刻化する人手不足だ。その背景にあるのが、少子高齢化の進行である。生産年齢人口(働き手の中心となる15〜64歳の人口)は、長期的に減少がつづいている。総務省の「人口推計」によると、2026年2月1日現在の生産年齢人口は7,342万7,000人で、前年同月から12万1,000人減少した。
実際の採用の現場でも、人手不足は切実だ。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」によると、正社員の人材不足を感じている企業の割合は50.6%と、半数を超えた。正社員の獲得がむずかしいなか、即戦力としてすぐに活躍が見込める派遣人材への需要は高まっている。
2. 最低賃金の引き上げ
最低賃金の引き上げも、派遣時給を押し上げる要因のひとつだ。厚生労働省によると、2025年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となった。前年度の1,055円から66円の引き上げで、上昇率は6.3%、引き上げ額としては過去最大となる。こうした引き上げは単年にとどまらず、最低賃金は近年、毎年数%の伸びで上昇をつづけている。その結果、賃金全体の水準が押し上げられている。
そして、この最低賃金は、正社員やアルバイトだけでなく派遣社員にも適用される。派遣で働く人が雇用契約を結ぶのは派遣会社だが、適用されるのは派遣会社の所在地ではなく、実際に働く派遣先の地域別最低賃金である。派遣会社には、その金額以上の時給を支払う義務がある。
つまり、派遣という働き方でも、最低賃金は時給の下限として機能しているのだ。最低賃金の引き上げがつづけば、その動きは派遣時給の底上げにもつながっていく。
3. 同一労働同一賃金の影響
同一労働同一賃金とは、雇用形態による不合理な待遇差をなくそうという考え方だ。派遣社員も、その対象に含まれる。2020年施行の改正派遣法では、派遣元に対し、派遣社員の待遇を「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかで決めることが義務づけられた。
とくに後者の「労使協定方式」では、厚生労働省が毎年度公表する、同種の業務に就く一般労働者の平均的な賃金水準と同等以上の賃金を確保する必要がある。一般賃金額が上昇した場合、派遣元は協定対象となる派遣労働者の賃金水準を見直す必要が生じる。
4. 専門職派遣への需要拡大
派遣に求められる仕事の中身も、変わりつつある。DX投資やAI開発、工場の自動化が進むなか、高度なスキルをもつエンジニアへの需要は強い。必要なときに専門人材を確保できる派遣は、こうした開発現場と相性がよく、IT・技術者派遣の需要は底堅く推移している。
前出のエン派遣のデータでも、IT・エンジニア系や技術系の時給の高さは際立っていた。加えて、医療事務、介護、治験、研究開発など、専門知識が求められる医療・介護関連の職種でも派遣求人が見られる。専門性の高い職種ほど、需要と時給がともに上がりやすい傾向にある。
時給はどこまで上がり、働く人の待遇はどう変わる?
派遣時給は上昇をつづけているが、この傾向は今後も続くのだろうか。また、派遣社員の働き方や待遇は、どのように変化していくのか。ここまで見てきた要因をふまえ、これからの見通しを考えていく。
派遣社員の時給、今後の見通しは
派遣時給を押し上げてきた要因は、この先も大きく弱まる気配はない。まず、働き手の減少は長期的に続く見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、生産年齢人口は、2020年の7,509万人から減少し、2043年に6,000万人を、2062年に5,000万人をそれぞれ割り込み、2070年には4,535万人まで減少すると推計されている。人手不足は一時的な現象ではなく、構造的につづいていく。
制度面からの後押しもある。政府は骨太方針2026で、2020年代に全国平均1,500円という目標への努力を続けつつ、遅くとも2030年代前半のできる限り早期に達成するとしている。その達成時期は、当初の「2020年代」から「2030年代前半のできる限り早期」へと先送りされているが、1,500円という目標自体は維持されており、当面は引き上げの流れが続くとみられる。
これらをふまえると、派遣時給は今後も上昇していく可能性が高いだろう。ただし、その勢いには変化の兆しも見える。人材派遣市場は、派遣社員数の大幅な増加だけでなく、募集時給の上昇が市場規模を押し上げている可能性もある。
実際、前出のエン派遣のデータでも、三大都市圏の派遣時給は3年ほどにわたって前年同月を上回りつづけているが、その伸び率は緩やかになってきている。時給の上昇はこの先も続くとしても、そのペースは徐々に落ち着いていくことも考えられる。
派遣で働く人の待遇はどうなっていくか
では、待遇面はどうか。同一労働同一賃金によって見直されるのは、時給などの賃金だけではない。賞与や各種手当、福利厚生、業務に必要な教育訓練など、時給以外の待遇についても、正社員との不合理な差をなくすことが求められている。
一方で、時給の伸びは職種によって一様ではない。専門性が高く、ほかの人材で代替しにくい職種ほど時給は高くなる傾向にある。近年はAIの普及により、定型的な業務の一部は自動化に向かう動きもある。その一方で、AIを業務に活かせる人材や、専門的なスキルをもつ人材への需要は、むしろ高まっている。こうした変化は、スキルによる待遇の差を広げる方向に働くと考えられる。
だからこそ、時給を上げるカギは、これまで以上にスキルにある。専門性を高め、市場で評価される力を身につけることが、よりよい待遇への近道になっていくだろう。
専門性がより求められる時代に
三大都市圏の派遣求人の募集時平均時給は1,720円と、過去最高を更新した。この上昇は、人手不足や最低賃金の引き上げなどに加え、IT・エンジニア系をはじめとする専門職への需要が高まったことも背景にある。裏を返せば、時給の伸びには職種によって差があるということでもある。派遣時給が上がりつづけるこれからの時代、自身の専門性をどう高めていくかが、一人ひとりの待遇を大きく左右することになりそうだ。
■参考
2026年6月度『エン派遣』三大都市圏 募集時平均時給レポート
総務省統計局:人口推計(2026年(令和8年)2月令和2年国勢調査を基準とする確定値、2026年(令和8年)7月概算値)
帝国データバンク:人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)
厚生労働省・都道府県労働局:派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正)
国立社会保障・人口問題研究所:「日本の将来推計人口(令和5年推計)」


