焼く順番と焼き方で、楽しみが倍加する
さて、今回の“勝ち飯”は、ランチ限定の「黒毛和牛焼肉定食」。初めて見たときは、思わず「えーっ!?」と声を上げてしまったほどのボリューム。量は圧巻の300g。これで3,000円以下なのはお値打ち以外の何物でもない。肉屋で買ったとしても足が出るはずです。
前述の通り、肉の質も折り紙付き。焼いて口にしてみれば、圧倒的な旨さに「この後の商談は勝ったも同然」と感じるでしょう。
肉の部位は、日によって変わります。李さんが味わいや食感がかぶらないよう厳選した部位が美しくも豪快に鎮座。この日の肉は、以下の4品でした。
ウチモモ|肉そのものの味わいを楽しめる赤身肉。薄切りをサッと炙る程度でいただく
肩ロース|肩の部分にある適度にサシが入った肉で、赤身の旨みと脂のコクを楽しめる部位。『アポロン』では厚切りにして提供。両面をしっかり焼き固めてからハサミで切り分け、好みの焼き加減に仕上げる
カイノミ|ヒレの下あたりにあるバラ肉。ヒレの食感とホルモンを思わせる香りが同時に楽しめる。厚切りだが繊維に沿ってほぐれるように下処理されている。サッと焼いてもじっくり焼いても旨い
ミスジ|牛の肩甲骨の裏側にあるウデ肉の一部で、1頭から2~3kgほどしか取れない希少部位。こちらも焼き加減は好みでOK
焼き方はビジネススキルに通じる
さて、みなさんはこの肉たちを、どう焼きますか?
焼肉は“試される料理”、と冒頭で書きました。 最初に何を焼くのか。焼き網のどこにのせ、どれくらい焼くのか。いつひっくり返すのか……。
そう、ビジネスシーンと同様、想像力や観察力、忍耐力、決断力などを駆使して肉のポテンシャルを引き出していかねばならないのが焼肉です。つまり、あらゆる場面で焼き手の判断力が問われるわけです。
何も考えず、適当に肉をどんどん焼き網にのせる人がいますが、それでは肉からの最良の回答は引き出せません。相手(肉)の気持ちになって、気配りを働かせながら焼くのがデキる大人というものです。
僕は今回、脂の多さとさっぱりした赤身肉のバランスを考えて、肩ロース→ウチモモ→ミスジ→カイノミの順番に焼きました。こってりとあっさりが交互に来る構成ですね。もちろん、これが唯一の正解というわけではありません。最適解は自分の好みに応じて探ってみてください。
また、肉によって焼き方を変えるのも重要です。赤身系は基本的にサッと。一方、肩ロースのようにサシが入った肉は、しっかり脂を焼き切って旨みを引き出すのが僕のオススメです。
マッキー牧元流・焼肉の極意
最後に、焼肉を焼くときのポイントをいくつかご紹介しておきましょう。
炭火にしろ、ガス火にしろ、焼き網には、場所によって必ず火力の強弱が生まれます。焼きながら強火・中火・弱火のエリアを早めに見極め、部位ごとに一番おいしい焼き加減に仕上げましょう。
また、みなさん経験があると思いますが、肉が焼き網に張り付く問題。これは肉のタンパク質が急激に凝固すると起こります。対応策としては、網の上に肉を置いた瞬間に、すぐ2、3回パッパッと持ち上げましょう。これで張り付きを防げます。
その後は、基本いじりすぎないことが大切。焼いている肉を何度もさわったり、裏返したりする人がいますが、それだと肉汁と旨みが流れ出てしまいます。肉の表面に肉汁がうっすら浮き出してきたら、それが返し時だと思ってください。
いずれにせよ、焼肉との真剣勝負を制したあなたに、恐れるものはありません。あとは焼き網の前で見せたあの決断力を、午後の交渉の場で発揮するだけです。いってらっしゃい!
日本の焼肉はどう生まれた?
焼肉のルーツには朝鮮半島の食文化がありますが、戦後、徐々に日本独自のスタイルへと発展していきました。1950年代には焼肉店が増え、カルビやロース、タン、ミノなどさまざまな部位を一度に楽しむスタイルや、日本人の味覚に合わせたタレなどが発達していったとされています。「生まれは韓国、育ちは日本」とも表現される焼肉。いまや、日本を代表する外食文化のひとつです。
<取材・文/田代智久 写真/橋本真美 編集/食楽編集部>
●DATA
焼肉 アポロン 神田駿河台
住所:東京都千代田区神田駿河台3-7-15 1F TEL:03-3518-9690 営業時間:11:30~15:00(14:30L.O.)、17:00~22:00(21:30L.O.)、土曜は夜営業のみ 定休日:GW・お盆・年末年始は一部休業
⚫︎プロフィール
マッキー牧元|1955年東京出身。立教大学卒。㈱味の手帖 取締役編集顧問、タベアルキスト、食ジャーナリスト。年間外食数600食。全国・世界中を日々飲み食べ歩き、雑誌、Web、ラジオ、テレビなどでリポートする。






