40代は人生の折り返し地点でもある。周囲の求めに応えようと努力する日々のなかで、自分自身をいったん見つめ直し、これからどう生きていくか考えることも長い目で見て重要ではないだろうか。
フランス語に “アール・ドゥ・ヴィーヴル(暮らしの美学)”という言葉がある。人生を自分らしく楽しむための、その人だけの美意識のこと。誰しも心の奥に持っている「大切な価値観」に気付くことは、自らを輝かせながらこの先を歩いて行くため、大きな助けとなる。
コーチとして多くの働く女性と向き合ってきた畑中景子さんに、自分らしい生き方の美学を見つける方法を聞いた。
【Point】
・社会に適応しようと努力するうち、自分の望みが分からなくなることがある。
・大切にしている価値観は言葉ではなく、心が動く感覚として現れることも。
・力を抜いて自分らしく生きることは、周囲に与えるインパクトにも影響する。
40代は、一度立ち止まって考える「人生の踊り場」。
まだ見ぬ未来の可能性に向かって、前に進んでいくのが20~30代だとすれば、いったん歩みを止めて周りを見回す時間が40代、と畑中さんは説明する。
「心理学者のユングは、40歳前後を『人生の正午』と表現しています。この時期を過ぎると、体調の変化に気づいてハッとする人もいれば、仕事・育児・介護など人生のステージが変わることで立ち止まる人も。子どもや仕事の有無を問わず、『私の人生、これでよかったのかな?』『これからどうしていこう……』といったん立ち止まって考える。40代は、そんな “人生という階段の踊り場” のようなタイミングではないでしょうか」
そうした40代のクライアントと接するなかで、「自分らしい生き方」を言葉にできない人にたくさん出会ってきた、と畑中さんは言う。
「幼い頃は誰しも、あれがしたい・これがしたいとのびのび生きています。しかし成長の過程で、しつけや学校教育、友だちの言動、メディアの報道など、私たちはいろいろな物事から影響を受けますし、社会の『こうあるべき』という価値観も頭の中に残り続けます。それは社会生活を営むうえで自然なことですが、周囲が求める『あるべき姿』に応えることを優先し続けると、『自分はどう感じているのか』が置き去りになりやすい。そのうち本当は何を望んでいたのか分からなくなり、 “自分との繋がり” が切れてしまうことがあるのです」
「周囲に認められたい」を追いかけても、終わりはない。
周囲をおもんばかることは決して悪いことではない。注意すべきは、人生の主導権が自分ではなく、他者に渡ってしまうことだ。
「期待に応えなければ。喜ばせなければ。自分の価値や正しさを証明しなければ。こういった思考は、社会でうまく生き抜くうえでの生存戦略です。ただその根底には、『居場所を失いたくない』『実力不足だと思われたくない』など、“怖れ” の感情があります」
自分の価値を他者に証明しようとするかぎり、その判断を握るのも他者だ。正解は常に外側にあって、そこに自分を合わせにいくことになる。
「仮に相手の期待が満たされたとしても、『よかった、今回は嫌われないで済んだ』『今日のプレゼン、無事に成功した』で終わるだけです。次も期待に応えられる保証はないので、内側にある恐れは解消されません。だからまた周囲の承認を得ようとしてしまう」
この終わりのない構造から出るための一歩が、外に正解を探すのをやめて、自分が本当にどうしたいのかを知ることだ。
「たとえば、カジュアルな服が好きで、仕事でスーツを着るのが面倒だなと思っている人がいたとします。そこで『仕方ないから』『そういうルールだから』と考えると、“スーツを着させられている” ことになりますよね。でも『自分はカジュアルな服が好きなんだ』と認識したうえで、『この仕事はフォーマルな姿勢が求められるから、スーツを着ることを選ぼう』と考えたなら、同じ行動でも主導権は自分に変わるんです」
