誰しも計画的に着実にキャリアを築きたいと考えるものです。
しかし、仕事も人生も、自分だけではコントロールできない出来事の連続。思い描いた通りに進まないことも少なくありませんよね。
また、女性はキャリアの途中で想定通りにいかないライフイベントを迎えることが多く、悩むケースも多いのではないでしょうか?
「キャリアの8割は予期しない偶然の出来事によって決定される」
これは、キャリア研究で有名なスタンフォード大学のクランボルツ教授が唱えた「計画された偶発性理論」という考え方です。
少し難しい名前ですが、要は「思いがけない出来事にうまく対応していくことが、むしろ良いキャリアにつながる」というものです。この考え方は、仕事と育児の両立を望む女性のキャリア設計において役立つかもしれません。
妊娠・出産・育児というライフイベントは、「偶然」に左右される領域が大きいものです。たとえば、妊娠・出産のタイミングや経過、子どもの性質や健康状態など、自分の意思や努力だけではコントロールできないことばかりです。
筆者自身のキャリアを振り返っても、20代の頃、新卒で第一希望の会社に就職しましたが、結婚後、将来的な妊娠・出産・育児の可能性を考えると、当時の働き方では難しいと考え、現在のフリーランスのライター・編集者という働き方を選択しました。現在は、仕事と育児の両立に試行錯誤しつつも、自分が納得できる働き方ができていますが、それまでには数えきれない想定外がありました。
そういった私自身の経験もあり、少なくとも妊娠・出産・育児をキャリア設計に組み込むならば、綿密に計画を立てて確実に実行するというやり方は向かないと感じます。計画が崩れる「予期しない偶然の出来事」が多発して、「自分のキャリアは失敗だ」という挫折感や自己否定につながりかねないからです。
本記事では、「運」に左右される要素が多い女性のキャリアにおいて、そういった不確実性を受け入れつつも、仕事と育児の両立を自分が望む「成功」へと導く考え方を、データを紐解きながら解説します。
データが示す、計画通りにいかない女性のキャリア
妊娠・出産・育児は計画通りにいくものではありませんし、そう認識していても、実際にどの程度計画通りにならないのか、経験がないと現実的にイメージするのは難しいかもしれません。
そもそも妊娠や出産は、思い描いた通りに進むとは限りません。実際に望むタイミングで子どもができず、不妊治療を受ける方は増加傾向にあります。国の調査によると、「不妊の検査や治療を受けたことがある」夫婦の割合は増加を続けており、2002年に12.7%だったものが、2021年には22.7%と大幅に増加しています。
※国立社会保障・人口問題研究所が実施している「第16回出生動向基本調査」(2021 年)」
たとえば妊娠後は、産休に入るまで働こうと思っていても、予期せぬ体調の変化でそれが難しくなる可能性もあります。
「つわりで生活や仕事に支障が出た人」は68.8%、そのうち「入院した人」が2.7%となっているレポートもあります。
※「妊娠と仕事に関する実態調査」(雪印ビーンスターク株式会社、2024年)
保育園に入れず、計画通りに復職できない
産休・育休から仕事に復帰するためには、ほとんどの場合、子どもを保育園に入れる必要があります。しかし、必ずしも希望のタイミングで保育園に入れるとは限りません。
こども家庭庁の発表によると、実は、保育所などへ申し込んでも入れずに待っている「待機児童」の数自体は、年々減っています。一方で地域別に見ると偏りがあり、都市部※では依然として待機児童の数が多く、全体の63.0%にあたる1,419人が集中しています。
※保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)
※都市部:首都圏、近畿圏の7都府県とその他指定都市・中核市
このように、妊娠・出産のタイミングから復職まで、女性のキャリアは節目のたびに「自分では動かせない偶然」にぶつかります。だからこそ大切なのは、偶然そのものをなくそうとすることではなく、偶然が起こり得ることを前提に、そのときに動ける自分と環境を、あらかじめ整えておくことです。
次に、そういった偶然の要素が大きいライフイベントがキャリアにどう影響するのかを、「マミートラック」という具体例から見ていきます。
出世コースから外れる「マミートラック」とは?
マミートラックとは、出産や育児を機に、女性が昇進やキャリアアップから外れた働き方に固定されてしまう状態のことをいいます。
もともとは「仕事と育児を両立できる緩やかなキャリアコース」という意味合いもありましたが、日本では「育休から復帰したら、責任の軽い部署や仕事に回され、そのまま出世コースから外れてしまう」というネガティブな文脈で使われることが多くなっています。
たとえ子育て支援の制度があっても、産休・育休前と同様に働くことは現実的ではありません。
保育園への送迎があれば残業はできませんし、子どもは体調を崩しやすく、突発的に休みを取らなければならないことも増えます。そのため、産休・育休からの復帰後はフルタイムではなく時短勤務を選択する、仕事と育児を両立しやすい部署に異動する、といったケースも少なくありません。
そのなかで、「マミートラック」の問題が生じてきます。
公益財団法人21世紀職業財団が実施した「DEI推進状況調査(2024年実施)」によると、総合職でもマミートラックを経験したと回答した割合は42.1%となっています。
つまりマミートラックは、予期しないライフイベントがキャリアに影響する典型例です。ただ、ここで大事なのは、この状態は「一度入ったら抜け出せないもの」ではないということ。次に、実際に抜け出した人たちが何をしたのかを見ていきましょう。
マミートラックを抜けた人に多かった3つの変化
先述の「DEI推進状況調査(2024年実施)」では、「マミートラックを脱出した理由」として、以下の3つの要素が挙げられています。
1.働き方の変更(41.1%)
- 時短をやめて、フルタイムで働くようにした
- 定時退社だけでなく、必要な時には残業するようにした
2.上司の関わり(30.8%)
- 上司に要望を伝えた
- 上司からの働きかけがあった
3.家事・育児負担の減少(32.0%)
- 配偶者・パートナーに働きかけて、配偶者の家事・育児分担を増やした
- 外部サービスにより自分の家事・育児の負担を減らした
- 親族・知人のサポートを増やすことにより、自分の家事・育児の負担を減らした
もっとも割合が高いのが「働き方の変更」です。時短をやめてフルタイムに戻ったり、必要なときは残業したりと、いったんセーブした働き方を、もう一度アクセルを踏める形に戻していく動きです。ただ、ここで注目したいのは、「働き方の変更」はひとりでできるものではない、ということです。そういった変化は、それを支える土台があってこそではないでしょうか。その土台こそが、残りの2つ、「上司の関わり」と「家事・育児負担の減少」なのかもしれません。 言い換えれば、偶然が起きたときにキャリアをより良いものにできるかどうかは、その「土台」を前もって用意できているかにも左右されそうです。
上司の関わりは、日頃の信頼の積み重ねから
「上司の関わり」に関しては、そもそも働き方の要望を上司に伝えられる、あるいは上司から働きかけてもらえるというのは、職場全体でそれが可能な環境があるからです。
仕事と育児を両立するには、出産・育児には思いがけない出来事がつきものだと理解し、それを支える制度のある職場を選ぶことが重要です。制度があるだけでなく、実際に使われているかどうかも見ておきたいところです。面接や面談の場で、「時短や急な休みを取っている人が実際にいるか」を聞いてみるのも一つの方法です。
そして、制度を現場で支えているのは、結局は同僚や上司という「人」です。困ったときにお互い様と思ってもらえるよう、自分も余裕のあるときは周囲を助け、日頃から信頼を築いておきたいところです。
家事・育児の負担を減らすカギは、パートナー
「家事・育児負担の減少」のなかでもっとも割合が高い要素が、「配偶者・パートナーに働きかけて、配偶者の家事・育児分担を増やした」です。
仕事と育児の両立において、配偶者・パートナーとお互いの認識をすり合わせ、合意できているかどうかは、非常に重要なスタート地点です。結婚前、あるいは出産の前の段階から、「お互いにキャリアを諦めないために、どう家事・育児をシェアするか」を具体的に話し合っておくこと。どちらかの希望だけを通すのではなく、家庭としての最適解を探っていきたいところです。
また、夫婦だけでは時間も人手も限られます。親族・知人に頼れるか、使える外部サービスや制度がないかも、調べておくと安心です。
運に振り回されない準備が、キャリアを守る
妊娠・出産・育児などのライフイベントは、想定通りにいかない要素が大きいものですが、 そもそもキャリアの多くは偶然で決まる、という考え方に立てば、キャリアが計画通りにいかないことを恐れる必要はありません。むしろ、計画通りにいかなかったときの対応こそが、より良いキャリアを形成していくのです。その「対応する力」を支えるのが、ここまで見てきた「職場」や「パートナー」といった土台づくりです。まずはキャリア設計を考えるときにそういった備えを組み込んでおくことが、仕事と育児を続けていく力になります。この記事が、自分の望む「成功」に近づくための助けになればうれしいです。




