澤田智馨さん(NTTフィールドテクノ)

言われた仕事をきちんとやってきた。20代も30代も、それで成果をあげてきた。けれど45歳を過ぎたある日、ふと10年後の自分を思い描こうとして、愕然とした。
何も思い浮かばない。振り返っても、自分が何をしたかったのかさえわからない。私、どうやって生きてきたんだろう。

IT未経験だった澤田智馨(さわだともか)さんが、50歳を目前にAIを学び始めたのはそんな思いがきっかけだった。現在の澤田さんは、AIを活用した組織変革を牽引するスペシャリスト。AIに挑戦し、自分の選択肢を広げた女性を表彰する「WOMAN AI AWARD 2026」でリ・スタート賞も受賞している。特別な才能があったわけではない、と言う。では、何が彼女を動かしたのか。


【Point】
・勤続年数ではなく、自ら課題を見つけて動いた経験がキャリアをつくる。
・時間も体力も限られてくる40代。「好きや得意の棚卸し」が学び直しに有効。
・専門家でなくても、実例や成果を示していけば組織を動かせる。

20年働いたのに、この先の自分が見えなかった。

澤田智馨さんが社会に出たのは、就職氷河期のただなかである1996年。最初の職場では店舗運営や人材育成を担当、その後は正社員としての転職が叶わず、派遣社員として複数の企業でデータ入力などの仕事を続けてきた。

2004年、派遣社員として現在の勤務先であるNTTフィールドテクノへ。バックヤード業務を担当し、契約社員、正社員へとステップアップしていった。

「20代、30代は、指示された仕事を淡々とこなし、そこで成果を上げることに重きを置いてきました。ただ、言われるまま仕事をするだけでいいのかな、という疑問が心のどこかにずっとあったのも事実です」

40代のとき、仕事内容が企画や業務効率化へとシフト、後輩の育成も任されるようになる。そこで目に入ってきたのは、60代でも現役で働き続ける先輩たちの姿だった。

50代は間もなくやってくる。そのとき自分はどんな姿になっているのだろうか。考える機会は増えたが、未来の自分はまったく思い描けなかったという。

「先輩方のお話も聞きながら、私にこの先何ができるか、そもそも何をしたいのか考えたのですが、答えが何も出てこなかったんです。自分でもその事実に驚いて。20代からあんなにがむしゃらに働いてきたのに、私はどうやって生きてきたんだろう……と」

「好き×得意」で導き出した、進むべき道。

これからの時代は60代、70代まで働くのがあたりまえ。そうなったときでも生かせるスキルを身につけなければ――。40代後半に差しかかった澤田さんが取り組んだのは、得意分野の棚卸しだった。そこで担当業務である業務効率化や、それと繋がるDX、ツールを作ることが、もともと好きで得意なのだ、と再確認する。

「この年齢で新しいことを1から学ぶにはものすごくパワーが必要です。それなら好きなことや得意だと思うほうに進んでいけば、興味や関心を学びの力に変えられるんじゃないか、と」

そんな折、ある技術が世の中を騒がせ始める。AIの登場だ。「次の時代に向けて、AIは絶対に“来る”」と澤田さんは確信する。

「ニュースを見ていても、これからすごいスピードで進化をしていくことが予想されました。面白そう、という興味関心がいちばんの理由でしたが、いまの段階でAIの知識やスキルを身に付けていけば、定年までの今後10年の基盤になる、この波に乗り遅れてはいけない、と感じたんです」

長年抱えていた、ある課題意識も背中を押した。顧客からの連絡はもちろん、社内でのやり取りも主に電話が用いられていたため、現場は絶えず鳴る電話への応対に追われ、大きな負担となっていた。AIを活用すれば、こういった現場の課題を解決できるかもしれない――。進みたい方向が見えてきた瞬間だった。