「自己肯定思考」と「自己否定思考」
AIで終わる人
「ありのまま」という言葉に逃げ、変化しない自分を正当化する。
AIで化ける人
「あるべき姿」を追い求め、停滞する今の自分を壊せる。
「ありのままの自分でいい」「自己肯定感を高めよう」
書店に行くとこんなテーマの本が多く目に留まり、SNSなどでは毎日のように自己啓発を促す言葉があふれています。ありのままの自分を受け入れ、自己肯定感を高めることはメンタルヘルス的にはとても良いとされているかと思います。
かくいう私も自己肯定感は高く、それによって助けられた場面は沢山あります。
実は私が経営する会社が、数年前に、倒産の危機を迎えた時がありました。あと数か月で会社のお金が尽きそうな時に、私自身絶望の淵に立たされました。自信を失い、寝ようと思っても寝付けない。寝たとしても汗びっしょりで会社が倒産する悪夢に起こされる。
そんな日々を支えていたのは、私自身の自己肯定感と、このままの私であればこの苦境を必ず乗り越えられると思う、ある種の根拠のない自信でした。そして実際に乗り越えて今があるのですが、これが自分の自己肯定感をさらに高めました。
しかし、AI時代、本当にこのままで良いのでしょうか?
AIとの共存という観点において、この自己肯定感はもしかしたら大きな足かせになるかもしれません。なぜなら、過度な自己肯定は「現状維持の正当化」につながりやすいからです。
「私はこれで十分できている」「今のやり方が自分には合っている」―そうやって今の自分に満足し肯定した瞬間、人の脳は新しい情報の吸収を止めてしまいます。
今の自分を「完成された城」だと思って守りに入れば、外の世界の変化は見えなくなります。その城壁の外では、AIがとてつもないスピードで進化し、昨日までの「すごいスキル」を次々と陳腐化、コモディティ化させているにもかかわらず、です。
AI時代において、最も危険なのは「自信がないこと」ではありません。
「今の自分の知識やスキルで、未来も戦える」と勘違いすることです。
一方、これからの時代に生き残る人が持っているのは、「健全な自己否定思考」です。誤解しないでいただきたいのですが、これは「自分はダメな人間だ」と卑下することではありません。
「今の自分の知識は、もう古いかもしれない」「この作業は、自分がやるよりAIに任せた方がもっと高い価値が出せるのではないか?」―そうやって、昨日の自分を疑い、積極的に否定していくスタンスのことです。
これを「健全な自己否定思考」と呼ぶこととします。
「ベータ版の自分」を進化させ続ける
ソフトウェアやウェブの世界では「ベータ版」という言葉があります。ある程度できた段階で世の中にリリースをする。そこでユーザーの反応を見ながら改善を繰り返してより良いサービスにしていく。しかしながら世の中もユーザーも常に変化をしていく。なのでソフトウェアに完成はなく、常に「ベータ版」と捉えていく。そんな考えがソフトウェア開発の世界では以前から当たり前のように使われています。
AI時代に目指していくべきスタンスは、一度作って終わりの「完璧な自分」ではなく、常に更新され続ける「進化する自分」なのではないでしょうか。昨日までの正解に固執せず、自分の能力や知識を常に疑い、足りない部分は柔軟に書き換えていく。
「自己否定」とは、決して自分を卑下する言葉ではありません。それは現状に安住しようとする心に抗い、自らの意思で「更新ボタン」を押す、次なる成長への合図なのです。
AIなら忖度なく否定してくれる
では、私たちは具体的にどのようにして、この「健全な自己否定」を実践していけば良いのでしょうか。
自分ひとりで鏡に向かって「お前は間違っているかもしれない」と問いかけるのは、精神的にもタフですし、何より自分のバイアス(思い込み)から抜け出すのは至難の業です。ちょっと笑ってしまいます。
ここでもAIの力を借りてみましょう。AIを「自分を映し出す鏡」、あるいは「忖度のない批判者」として活用するのです。
具体的な実践ステップは次の通りです。
① AIに「ダメ出し」をしてもらう
まずは、自分が自信を持っている成果物やアイデアをAIに見せ、あえて批判させてみてください。
「この企画書の論理的な弱点を5つ挙げて」
「このメールの文面で、相手を不快にさせる可能性のある箇所はあるか?」
人間相手であれば、気を遣って言いにくいようなことも、AIは淡々と事実ベースで指摘してくれます。この「痛い指摘」こそが、あなたを現状維持から引きはがし、アップデートさせるための貴重なデータとなります。
② 自分の「得意」をAIに代行させてみる
これが最も勇気のいる行動かもしれません。
あなたが「これだけは誰にも負けない」と思っている得意な業務を、あえてAIにやらせてみてください。もし、AIが自分より速く、精度の高いアウトプットを出してきたら、その時こそが、自己否定のチャンスです。
「この業務において、自分はもう不要だ」と潔く認め、そのタスクをAIに譲る。そして、自分は空いた手で、AIにはできない「次の価値」を探しに行く。
怖いかもしれませんが、自分の得意技を捨ててみる。手放してみる。それができて初めて、新しい武器を拾うことができるのかもしれません。
③ 定期的な「アンラーニング(学習棄却)」
週末の15分でも構いません。AIと対話しながら、「今週やった仕事の中で、古くなったやり方はなかったか?」を振り返る習慣をつけてみてください。知識を積み上げる「ラーニング」だけでなく、古くなった知識を意識的に捨てる「アンラーニング」。AI時代には、この新陳代謝のスピードこそが競争力になります。
自己否定は、苦しいことではありません。
それは、古くなった角質を落として新しい肌にするピーリングのようなものです。AIというツールを使って、毎日少しずつ昨日の自分を否定し、更新していく。その繰り返しの先にこそ、誰にも代替できない、鮮度の高い「あなた」という価値が残るはずです。
次回は、AI時代に新たな価値を生み出す「問い思考」について掘り下げます。
出典元:
『AIで終わる人 AIで化ける人 「AIが当たり前」の時代を生き抜く20の思考変革』(中平健太/ダイヤモンド社)
「AIが答える時代」から「動く時代」に――「真面目」な人から終わる。自信のある人こそ詰む。AIで1000社3000名超の働き方を変えた起業家が教える、ITの知識は関係ない、自分を爆発的に進化させる考え方!これからAIがどれだけ進化しても変わらない、「AI以後の時代」を生き抜くための4つのルールと20の思考変革
(記事掲載にあたり本文の一部を修正しています)

