【登場人物の紹介】

この物語に出てくるのは、13歳のハルと、その家族。

ハルは中学1年生。スマホゲームや動画、生成AIにふだんから親しんでいて、データに価値があることを感覚的にわかっています。ただ、お金や金融のしくみについては、まだ知らないことばかりです。

父は40代。NISAや保険、住宅ローンなどには関心がありますが、暗号資産(仮想通貨)やNFTのような新しい金融は、自分にはまだ遠い存在と思っています。ハルに聞かれて、自分も意外とお金のしくみを説明できないことに気づいていきます。

母は30代。家計感覚が強い現実派です。値上げや教育費、将来のお金には敏感で、「よくわからないものには近づかない」が基本。ただし、キャッシュレス決済やネット銀行、ポイント活用はふだんから使っています。

近所のカフェ店主であるミナトさん。元金融マンで、ハルたち親子にお金のことをやさしく教えてくれる案内役です。

「デジタルゴールド」って、だれが動かしているの?

ミナトさんのカフェのテーブルには、さっきまで使っていた3枚のコースターが並んでいた。

今日や今月使うお金。
近い将来に使うお金。
もっと先の将来のためのお金。

ハルはそのコースターを見ながら、前回の話を思い出していた(第3回:なぜ物価は上がるの?)。

物価が上がると、同じ1,000円でも買えるものが減ることがある。お金は腐らないけれど、買う力が弱くなることはある。だから、将来のためのお金については、預金だけでなく資産運用という考え方も出てくる。

そして、ビットコインを「デジタルゴールド」と見る人たちもいる。

そこまで聞いたところで、ハルの中に、別の疑問が生まれていた。

「ミナトさん」

「どうしたの?」

「ビットコインがデジタルゴールドって呼ばれることがあるのは、なんとなくわかったよ。発行される枚数がはじめから決まっていて、だれかが勝手に増やせないんだよね」

「うん。そうだね」

ハルは、少し首をかしげた。

「でもさ、そもそもビットコインって、だれが動かしているの? 会社? 国? アプリ?」

父は、コーヒーカップを持ったまま動きを止めた。

「たしかに、ビットコインの会社があるわけではない……んだよな?」

母も言った。

「会社がないのに、お金みたいにしくみが動くって、不思議ですね。だれかが管理していないと、間違えたり、勝手に増やされたりしないんですか?」

ミナトさんは、にっこり笑った。

「インフレや資産運用の話から、いよいよビットコインそのもののしくみに入ってきたね」

ハルは少し身を乗り出した。

「いよいよって感じがするね」

銀行のお金、ゲーム内通貨、ビットコインはなにが違う?

ミナトさんは、テーブルの上にナプキンを1枚広げた。そして、3つの言葉を書いた。

銀行のお金
ゲーム内通貨
ビットコイン

「まずは、ハルくんがよく知っているものと比べてみようか」

「この、ゲーム内通貨ならわかるかも」

「ゲームの中で使うコインやアイテムは、だれが管理していると思う?」

ハルはすぐに答えた。

「ゲーム会社。アプリの運営会社だよね」

「そのとおり。ゲーム内通貨やアイテムは、基本的にはそのゲームを運営している会社が管理している。どれだけ持っているか、使える場所はどこか、ルールはどう変わるか。そうしたことは運営会社のしくみによって決まるね」

父が言った。

「ポイントや電子マネーも、似ていますか?」

「似ている面があるよ。ポイントはサービスを提供する会社、電子マネーも発行会社や決済のしくみに支えられている。では、銀行のお金はどうだろう?」

ハルは少し考えた。

「銀行が管理してる?」

「うん。銀行預金は、銀行が管理している。ただし、銀行だけで成り立っているわけではないんだ。法律、金融庁などの監督、中央銀行、決済ネットワークなど、いろいろな制度に支えられているのが銀行のお金だ」

母がうなずいた。

「だから、私たちは銀行にお金を預けられるんですね」

「そう。銀行のお金は、銀行や国の制度への信頼で成り立っていると言えるね」

ハルはナプキンの3つ目を指さした。

「じゃあ、ビットコインは?」

ミナトさんは、そこに丸をつけた。

「ビットコインには、銀行やゲーム会社のような特定の管理者はいない。特定の会社や国が、『あなたの残高はこれです』と一方的に管理しているわけではないんだ」

「じゃあ、だれも管理してないの?」

「そこが大事なところだね。だれも見ていないという意味ではない。特定の1人や1社が管理しているのではなく、世界中の参加者が、同じルールにもとづいて取引を確認しているんだ」

ハルは目を丸くした。

「みんなで見てるってこと?」

「そう。みんなで同じルールを守り、同じ取引記録を確認しながら動いている。それが、ビットコインの特徴なんだよ」

ブロックチェーンは、みんなで持つ取引記録

「でも、みんなで確認するって、どうやるの?」

ハルが聞くと、ミナトさんはカフェのレジ横に置いてあった小さな積み木を持ってきた。

「今日は、この積み木をブロックだと思ってみよう」

ミナトさんは、1つ目の積み木をテーブルに置いた。

「たとえば、AさんからBさんへビットコインを送ったという取引がある。この取引は記録される」

次に、2つ目の積み木を隣に置く。

「次に、BさんからCさんへ送った取引がある。これもちゃんと記録される」

ハルは積み木を見つめた。

「取引の記録が、どんどんたまっていくんだね」

「そうだね。その取引のまとまりを、ブロックと考えるとわかりやすい。そして、そのブロックが前のブロックとつながっていく。鎖のようにつながるから、ブロックチェーンと呼ばれるんだ」

父が聞いた。

「銀行の通帳とは違うんですか?」

「少し似ているところもあるね。どんな取引があったのかを記録するという意味では、通帳や帳簿に近い。ただし、銀行の通帳は銀行が管理している。ビットコインの取引記録は、ネットワークの参加者たちが共有しているんだ」

母は少し不安そうに聞いた。

「でも、みんなで持っているなら、だれかが勝手に書き換えることもできそうに感じます」

「そこがブロックチェーンの大切なところだよ。過去の記録がつながっていて、多くの参加者が同じ記録を確認している。だから、だれか1人が勝手に過去の記録を書き換えようとしても、他の参加者が持っている記録と合わなくなる」

ハルは、積み木を指でなぞった。

「1つだけ変えようとしても、後ろにつながっているブロックと合わなくなるんだね」

「そう。しかも、その記録を多くの参加者が確認している。だから、簡単には書き換えにくいんだ」

ハルは少しうれしそうに言った。

「ブロックチェーンって、むずかしい言葉だけど、取引記録をみんなで確認しながらつなげるしくみなんだね」

「その理解で十分だよ」

マイニングは、新しいブロックを作って追加するための作業

ハルは、さらに聞いた。

「でも、そのブロックって、だれが追加してるの? みんなで見てるだけじゃ、先に進まないよね」

ミナトさんは、今度はノートパソコンを指さした。

「そこで出てくるのが、マイニングというしくみだ」

「マイニングって、採掘って意味だよね。金を掘るみたいな」

「ビットコインでは、新しいブロックを追加するために、マイナーと呼ばれる参加者がコンピューターで計算をしている。その作業をマイニングと呼ぶんだ。取引やブロックがルールに合っているかは、ネットワーク上の参加者のコンピューターがそれぞれ確認している」

父が言った。

「マイニングをする人たちが、ビットコインのネットワークを支えているわけですね」

「そうだね。新しいブロックを追加するために、世界中のコンピューターが何度も計算をくり返して、条件を満たす値を探している。その競争に成功した参加者は、新しく発行されるビットコインと取引手数料を報酬として受け取れるんだ」

ハルは少し驚いた。

「計算の競争に成功すると、報酬がもらえるんだね」

「イメージとしてはそうだね。報酬があるから、世界中の参加者がネットワークを支える動機を持つ」

母が聞いた。

「でも、それだとビットコインがどんどん増えてしまうのでは?」

「そこもルールで決まっている。新しく発行されるビットコインの量は、あらかじめ決められたしくみに沿っている。そして、発行上限も決まっている。だれかが都合に合わせて、勝手に増やすことはできないんだ」

ハルは、前回の話とつながった気がした。

「だから、デジタルゴールドって呼ぶ人がいるんだね。会社が発行してるポイントみたいに、あとから自由に増やすわけじゃないから」

ミナトさんは、うなずいた。

「そのとおり。ただし、ビットコインはゴールドとまったく同じではない。価格は大きく動くし、使うには知識も必要だ。だから、すごいから買おうではなく、まずしくみを知ることが大切なんだよ」

ビットコインは、ルールとネットワークを信じる新しいお金

ミナトさんは、さきほどのナプキンに戻った。

「もう一度、3つを比べてみよう」

銀行のお金。
ゲーム内通貨。
ビットコイン。

「銀行のお金は、銀行や制度を信じる。ゲーム内通貨は、運営会社を信じる。では、ビットコインは?」

ハルは少し考えてから答えた。

「ルールとネットワークを信じる?」

ミナトさんは笑った。

「かなり近いね」

父も言った。

「銀行がいらなくなるというより、お金を動かす別のしくみが生まれたと考えた方がよさそうですね」

「そう。ビットコインがあるから銀行が全部いらなくなる、という単純な話ではない。銀行には、預金、融資、決済、信用創造、相談機能など、いろいろな役割がある。一方で、ビットコインは、特定の管理者がいなくても価値を移転できるしくみとして生まれた」

母は言った。

「それぞれ、信じているものが違うんですね」

「そのとおり。お金の勉強は、実は信頼の勉強でもあるんだよ」

ハルは、テーブルに置かれた積み木をもう一度見た。

「銀行のお金は、銀行や国の制度を信じる。ゲーム内通貨は、ゲーム会社を信じる。ビットコインは、ルールとネットワークを信じる」

そこまで言って、ハルは少し笑った。

「お金って、紙とか数字の話だけじゃないんだね」

「そうだね。なにを信じて、その数字に価値があると思うのか。その違いを見ると、お金のしくみが少しずつ見えてくるよ」

管理者がいないからこそ、自分で考える必要がある

ハルは、スマホでビットコインのニュースを開いた。

そこには、価格が上がった、下がったという見出しが並んでいる。

「ニュースだと、上がったとか下がったとかばっかりだね」

父が言った。

「価格のニュースは目立つからな」

母も少し心配そうに言った。

「だから、よくわからないまま買うのは怖いわね」

ミナトさんはうなずいた。

「それは、とても大切な感覚だよ。ビットコインには特徴もあるけれど、注意点も多い。価格が大きく動く。自分で管理するむずかしさがある。詐欺や不正な勧誘もある。使える場所も、まだまだ限られている」

ハルは真剣に聞いていた。

「管理者がいないって、自由な感じもするけど、自分で気をつけないといけないってことでもあるんだね」

「そういうこと。銀行なら、困ったときに窓口や問い合わせ先がある。もちろん、銀行にもリスクやルールはあるけれど、制度に守られている部分もある。一方で、ビットコインのようなしくみでは、自分で理解して、自分で管理する力がより大切になる」

父が言った。

「自由と責任がセットなんですね」

「まさにそうだね」

ハルは、さっきの積み木を1つ持ち上げた。

「ブロックチェーンは、取引記録をみんなで確認しながらつなげるしくみ。ビットコインは、会社じゃなくてルールとネットワークで動くお金。でも、使う人もちゃんと理解しないといけない」

ミナトさんは、満足そうにうなずいた。

「今日のまとめとしては十分だね」

そのとき、ハルのスマホに、ゲームの通知が表示された。限定スキンの販売が始まったらしい。

ハルは画面を見て、少し考えた。

「そういえば、ゲームのアイテムもデータだよね。でも、ビットコインとはまた違うんだよね」

父が笑った。

「またゲームの課金の話に戻ったな」

母は少しあきれたように言った。

「でも、たしかにデータに価値があるって話にはつながるわね」

ミナトさんは、やさしく笑った。

「いいところに気づいたね。デジタルデータに価値が生まれる時代には、「どのトークンが、どのデジタル上の宛先(アドレス)にひもづいているのか」という記録を残せるしくみも大切になる。その代表例の一つがNFTなんだ」

ハルの目が輝いた。

「NFTって、ゲームのアイテムとか画像のやつ?」

「そう。次は、その話をしようか」


次回予告:NFTって、ただの画像じゃないの?

ビットコインには、銀行やゲーム会社のような特定の管理者はいません。取引記録を世界中の参加者が確認し、ブロックチェーンという形でつなげていく。そこに、ビットコインの大きな特徴があります。

ハルは、ビットコインが「会社ではなく、ルールとネットワークを信じるお金」だと知りました。でも、ブロックチェーンが関わるのは、ビットコインだけではありません。

次回は、ゲームの限定スキンや推し活をきっかけに、NFT、デジタル上の保有記録、そしてトークン化する社会について考えていきます。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品や暗号資産への投資を勧誘・推奨するものではありません。暗号資産は価格変動等により損失が生じるおそれがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。