キャリア設計において、出産や育児という人生の大きな節目を迎えたとき、「これまでの働き方を続けていていいのだろうか」という葛藤に直面する女性は少なくありません。
働き方も多様化しており、時短勤務や派遣社員、パートといった従来の働き方に加えて、「フリーランス」という選択肢もあります。筆者自身、結婚を機に会社員からフリーランスへと転身し、その後出産を経ながら、引き続きフリーランスとして育児と仕事を両立させています。
そういった自身の経験も踏まえ、フリーランスの最大のメリットは「働き方の柔軟性」だと考えています。これが育児と相性の良い点です。一方で、会社員とフリーランスとでは、利用できる社会保障制度に大きな違いがあり、将来の資産形成や老後の資金設計に影響を及ぼします。
本記事では、フリーランスという働き方を視野に入れている女性に向けて、社会保障制度の違いとその将来への影響に焦点をあてて解説します。
女性を取り巻く就業環境と年齢階層別の平均給与
会社員とフリーランスの違いを見る前に、子育て世代の女性を取り巻く就業環境について見ていきます。
女性の労働参加は幅広い年齢層で高まっており、出産・育児期にあたる年代でも労働力率は上昇しています。
厚生労働省「令和6年版 働く女性の実情」に掲載された総務省「労働力調査」の女性の年齢階級別労働力率を見ると、グラフ全体の形は「M字型」から台形に近づきつつあることがわかります。
出典:「働く女性の実情」令和6年版「女性の年齢階級別労働力率」(厚生労働省)
一方、女性の労働参加が進む中でも、正規雇用比率は20代後半をピークに低下しています。
出典:「働く女性の実情」令和6年版「女性の年齢階級別正規雇用比率」(厚生労働省)
「女性の年齢階級別正規雇用比率」では、女性の正規雇用比率(※1)は「25~29歳」の60.3%がピークです。その後は年齢が上がるにつれて低下し、いわゆる「L字カーブ」が見られます。
※1:女性の15歳以上人口に占める「正規の職員・従業員」の割合
また、正規雇用であっても、育児のために働く時間が制限されるケースも少なくありません。第一生命経済研究所が紹介した2021年の調査では、20~40代で3歳未満の子どもを持つ女性正社員1,000人のうち、6割以上が1日8時間未満で勤務していました。(※2)
※2:第一生命経済研究所「ワーキングマザーの活躍支援 ~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~」(ライフデザイン研究部 研究員 福澤 涼子)
男性と女性の平均給与のピークに差も
国税庁の調査によると、男性の平均給与は55~59歳の735万円が最も高くなっています。一方、女性は25~29歳の370万円が最も高く、その後もおおむね300万円台で推移しています。
出典:「民間給与実態統計調査」令和6年分「年齢階層別の平均給与」(国税庁)
フリーランスという選択肢と働き方の柔軟性
正規雇用以外の働き方の一つとして、「フリーランス」という選択肢もあります。2022年の「就業構造基本調査」では、本業がフリーランスに該当する人は約209万人とされています。ここでいうフリーランスとは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主または一人社長で、その仕事で収入を得ている人を指します。
総務省統計局の「就業構造基本調査」は1956年に始まり、1982年以降は5年ごとに実施されています。2022年調査では、フリーランスの人数が初めて把握されました。
フリーランスの大きなメリットは、働き方の柔軟性でしょう。実際、一般社団法人フリーランス協会の「フリーランス白書2026」の調査では、今の働き方を選んだ理由として「自分の裁量で仕事をするため」(72.1%)、「働く時間/場所を自由にするため」(67.3%)が上位となっています。「子育てとの両立のため」も20.1%でした(副業者を除く独立系フリーランス・パラレルキャリア活動者1,426人、複数回答)。
ただし、筆者自身も経験していますが、会社員からフリーランスへの転身は、現在の収入や働き方だけでなく、将来に影響する社会保障制度の面でも大きな変化があります。この点も理解した上で、自分の納得できる選択をすることが重要です。
見落とされがちな「会社員」と「フリーランス」の決定的な社会保障制度の差
会社員と個人事業主型のフリーランスでは、利用できる所得補償や加入する年金制度に大きな違いがあります。
以下では、法人化せず、市区町村の国民健康保険と国民年金に加入する個人事業主型のフリーランスを想定して、会社員との違いを見ていきます。この場合、会社員と、ここで想定する個人事業主型のフリーランスでは、次の給付・制度の対象に違いがあります。会社員は一定の要件を満たせば利用・加入できますが、個人事業主型のフリーランスは原則として対象外です。
出産手当金:出産のために仕事を休み、給与が支払われない場合に健康保険から支給される給付。給与が支払われても、その日額が出産手当金の日額より少ない場合は差額が支給される
育児休業給付:育児休業中に支給される手当金
傷病手当金:業務外の病気やけがで、一定の条件を満たして仕事を休んだときに支給される手当金
厚生年金:国民年金に上乗せして加入する年金制度。保険料は原則として勤務先と本人が折半
個人事業主型のフリーランスの場合、国民年金保険料には産前産後期間の免除制度があります。また、国民健康保険についても、2024年1月から出産する被保険者の産前産後期間に相当する所得割額・均等割額を免除する制度が設けられています。一方、会社員の健康保険のような勤務先との保険料折半はありません。
なお、2026年10月からは、一定の要件を満たし、1歳になるまでの子どもを養育する国民年金第1号被保険者について、育児期間中の国民年金保険料を免除する制度も始まります。
個人事業主が活用できる「iDeCo」「小規模企業共済」
一方、個人事業主には、iDeCoの高い拠出上限や、加入条件を満たせば利用できる小規模企業共済など、自主的な資産形成に活用できる制度があります。
加入条件を満たす個人事業主の場合、iDeCoは国民年金基金や付加保険料と合算して月額最大6万8,000円、小規模企業共済は月額最大7万円まで掛金を拠出できます。両制度の掛金は所得控除の対象となります。ただし、控除による負担軽減の程度は所得や適用税率によって異なります。iDeCoは選ぶ運用商品によって元本を下回る可能性があり、原則60歳まで資産を引き出せません。小規模企業共済は、任意解約の場合、掛金納付月数が240か月未満だと解約手当金が掛金合計額を下回ります。
一般的な会社員は小規模企業共済の加入対象ではありませんが、iDeCoは利用できます。現在のiDeCoの拠出上限は、企業年金がない会社員で月額2万3,000円、企業年金がある会社員では原則月額2万円以内ですが、勤務先の企業年金の掛金額などによって上限が異なります。
ただし、2026年12月1日からiDeCoの拠出限度額が引き上げられます。国民年金第1号被保険者は、iDeCoと国民年金基金などを合わせた拠出上限が月額7万5,000円となります。会社員などの第2号被保険者は、企業年金等と合わせた共通の拠出限度額が月額6万2,000円となります。
制度の現実を理解してキャリアを選択し、メリットを活かした対策を
フリーランスという働き方を選ぶ場合、公的保障の手薄さを理解した上で、長期的視点で自身の働き方と資産形成の計画を立てることが大切です。
まず、フリーランスの最大のメリットと言える「働く場所と時間の自由度」を活かせる案件を選びましょう。また、育児と仕事の両立という点では、子どもが小さい時期は、長期的に見た仕事のつながりやスキルを維持・発展させる期間と割り切り、短期的な収入アップだけに焦点を当てないことも大切です。
合わせて、iDeCoの高い拠出上限や小規模企業共済を活用し、所得控除を受けながら将来に向けた資産形成を進めることも選択肢の一つです。
万人に当てはまる、唯一絶対の働き方の正解はありません。大切なのは、自分の選択に伴う現実を正しく理解し、将来を見据えながらも無理のない対策を積み重ねていくことです。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・制度への加入や投資を勧誘するものではありません。加入・運用の判断はご自身の責任で行ってください。
■参考
厚生労働省「働く女性の実情」令和6年版
第一生命経済研究所「ワーキングマザーの活躍支援 ~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~」(ライフデザイン研究部 研究員 福澤 涼子)
一般社団法人フリーランス協会「フリーランス白書2026」
日本年金機構 令和8年(2026年)10月から国民年金保険料の育児免除制度が始まります!




