知らずに成長の止まった業界へ飛び込めば、数年後に転職の選択肢が狭まってしまうこともあります。求人情報の表面だけでは見えない業界の現在地と将来性を、『転職に向いていない人がそれでも転職に成功する思考法』(川野智己/東洋経済新報社)の内容から読み解いていきましょう。
業界研究を怠れば「泥船」に乗る? ─ 将来性を見極める
陸上競技・十種競技の元日本チャンピオンであり、現在はタレントとしても活躍されている武井壮さんをご存じでしょうか。彼は講演活動の中で、「その人の価値は、その人を求めている人の数によって決まる」という、非常に示唆に富んだ話をされています。
ご自身が情熱を注いできた陸上競技は、世界選手権であってもスタジアムを満員にすることが難しい現状を挙げ、観客動員の多い野球やサッカーとの市場価値の違いに言及し、「陸上では食べていけないという現実に、もっと早く気づくべきだった」と語っています。
もちろん、これは世の中の価値がお金だけであるという意味ではなく、あくまで現実的な金銭的価値や市場性についてのお話ですが、業界の将来性を見極める上で非常に興味深い視点です。(中略)
たとえば、EC(電子商取引)の普及が進む現在の小売業界において、「対面販売の経験しかない人材」を積極的に求める求人は、残念ながら減少傾向にあります。年齢を重ねるほど、その傾向は顕著になり、気づいたときには転職の選択肢がほとんど残されていない、という事態も起こり得るのです。
また、これから転職しようとする際に、将来性の乏しい業界の企業を選ぶことは、まるで沈みかかった「泥船」に自ら乗り込むようなものです。これは「転職に向いていない人の特徴:楽観的すぎる人」や「転職に向いていない人の特徴:詰めが甘い人」が、業界の将来性を十分に検討せずに転職してしまうリスクを回避するために、特に重要な視点です。
多くの人が気にする給与額は、個々の企業の規模や業績だけでなく、その企業が属する業界や、その業界内での職種によって大きく左右されます。(中略)
サービス業の事務職、調理師、ITエンジニアなど、職種ごとの平均年収を比較してみると、そのベースが業界によって大きく異なることがわかります。これは、仕事そのものに貴賤があるわけではなく、各業界の生産性の違いが賃金に反映されている結果だと言えるのです。
業界研究の具体的手順
IR情報
業界研究を行う上で参考になるのは、上場企業が発行しているIR情報(投資家向け情報)としての決算短信や有価証券報告書です。
これらは株主などの投資家に向けて正確な情報開示を行うものであり、その業界の動向や自社の立ち位置などが客観的に記載されています。応募を検討している企業が上場していれば、企業のホームページから容易に入手できます。
もし応募先企業が非上場企業でIR情報を公開していなくても、その競合他社や業界のリーディングカンパニーのIR情報を読み解くことで、業界全体の現状や課題を把握することができます。
SNS
また、ビジネス特化型SNS(たとえばLinkedInなど)に登録し、応募先企業と同じ業界に勤務する人とつながり、彼らから業界のリアルな情報をヒアリングすることも有効な手段です。匿名性の高い口コミサイトとは異なり、実名で情報交換が行われるため、より信頼性の高い話が聞ける可能性があります。
メディア
マスメディアとしては、『週刊東洋経済』や『週刊ダイヤモンド』といったビジネス誌の業界特集は、専門家でなくても理解できるように図解入りでわかりやすく解説されています。『会社四季報 業界地図』も、業界ごとの最新動向を知る上で非常に役立ちます。(中略)
Job tag(ジョブタグ)
さらに、国も人材の流動化や雇用のミスマッチ解消を目的として、さまざまな情報発信を行っています。中でも、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag(ジョブタグ)」は、「ジョブ(職業、仕事)」「タスク(仕事内容を細かく分解したもの、作業)」「スキル(仕事に必要な技術・技能)」といった観点から職業情報を「見える化」し、求職者の就職活動や企業の採用活動を支援するウェブサイトです。
どのような職業があり、その職業ではどのような仕事内容が一般的で、どんなスキルや知識が求められるのかを多角的に調べることができます。
大切なのは、ウェブ上で真偽不明のまま流布される噂話に振り回されないことです。上記でご紹介した情報源は、いずれも信頼性の高いものです。これらを活用し、業界の概要をつかみ、将来性を見極め、あなたが本当に飛び込む価値のある業界なのかを冷静に判断しましょう。
この業界研究は「内面の整理不足タイプ」の方が、転職の判断基準をよりたしかなものにするために不可欠です。求人広告の表面を見つめているだけでは、本質は見えてきません。道を見誤らないためにも、応募先企業が属する業界の研究を怠らないようにしましょう。
(記事掲載にあたり本文の一部を修正しています)
出典元:
『転職に向いていない人がそれでも転職に成功する思考法』(川野智己/東洋経済新報社)
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