妊娠・出産・育児については、これまでの連載でも、女性のキャリアに影響する要素のひとつとして触れてきました。
今回は、このライフイベントにあらためて焦点を当て、妊娠・出産・育児により生じる収入減とそれを補う制度をまとめます。また、筆者自身がフリーランス(自営業)として仕事と育児を両立している経験を踏まえ、会社員とフリーランスの違いについても解説します。
「出産までに具体的にいくら準備すれば安心なのか知りたい」「将来的にフリーランスへの転向も考えているけれど、妊娠・出産・育児を考えると会社員のままのほうがよい?」といった疑問や不安を抱えている方に役立つ内容となっています。
給付や社会保険料の免除など、出産前後に利用できる公的保障まとめ
出産に関しては、いくつかの公的保障や給付金を利用できます。ただし、会社員とフリーランス(自営業)とでは、下表のように利用できる制度・給付金に違いがあります。これは、加入する健康保険や年金制度、雇用保険の適用状況などが異なるためです。
| 制度・給付金 | 会社員 | フリーランス(自営業) |
|---|---|---|
| 公的医療保険 | 健康保険 | 国民健康保険 |
| 年金 | 国民年金+厚生年金 | 国民年金のみ |
| 出産育児一時金 | 支給あり(原則50万円) | |
| 出産手当金 (産前産後の休業補償) |
支給あり (産前42日・産後56日に対し、給与の約3分の2) |
なし |
| 育児休業給付金 (育児期間の収入補償) |
支給あり (原則として育児休業開始から180日までは休業前賃金の67%、181日目以降は50%。一定の条件を満たすと、出生直後の最大28日間は13%が上乗せ) |
なし |
| 社会保険料の免除 | あり (産休・育休期間中の健康保険・厚生年金保険料が全額免除) |
あり (国民健康保険料は産前産後の原則4か月分、国民年金保険料は産前産後の原則4か月分に加え、2026年10月から始まった育児期間免除制度により、子が1歳になるまでの対象期間も免除) |
休業中の所得保障では「フリーランス」が不利
出産・育児に伴う休業中の所得保障は、会社員のほうが圧倒的に手厚いと言えます。出産手当金や育児休業給付金、社会保険料の免除により、休業中も一定の収入を確保できます。育児休業給付金は休業開始から180日までは休業前賃金の原則67%、181日目以降は50%が支給され、社会保険料の免除や給付金が非課税であることを考慮すると、当初は手取りベースで休業前の約8割の収入がカバーされます。さらに、一定の条件を満たすと、出生直後の最大28日間は給付率が上乗せされます。
一方、フリーランス(自営業)には、会社員の出産手当金や育児休業給付金に相当する公的な所得保障が原則としてありません。そのため、仕事を休むことで収入が大幅に減少したり、ゼロになったりする可能性があります。社会保険料の免除については、会社員の場合、産休・育休期間中の健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。一方、国民健康保険に加入するフリーランスは、産前産後の原則4か月分の保険料が軽減されます。国民年金については、産前産後の免除に加え、2026年10月から育児期間の免除制度も始まっています。
心身の負担を減らす働き方を選べるのが「フリーランス」の利点
産前産後は、心身のコンディションが思い通りにいかないことが多いものです。そんななか、働く時間や場所を柔軟に調整できるのは、フリーランス(自営業)の大きなメリットと言えます。
たとえば、在宅ワークで通勤・移動ストレスを避けたり、体調に応じた時間配分で仕事をしたり、産後ごく短時間から仕事を再開するといったことも可能です。筆者自身、仕事量は減らしながらも出産予定日の約2週間前まで働き、産後3カ月頃から徐々に仕事を再開しました。
出産育児一時金だけでは出産に必要な費用を賄えない
会社員でもフリーランス(自営業)でも公的医療保険に入っている人が出産時にもらえるのが、「出産育児一時金」です。原則一律50万円が支給されます。
ところが、50万円だけでは出産にかかる費用の全額を賄えないことも多いのが現実です。
厚生労働省が公表した令和6年度のデータによると、正常分娩の平均出産費用は全国で519,805円、平均妊婦合計負担額は592,907円でした。出産育児一時金の50万円を差し引くと、平均で約9万3,000円の自己負担が生じる計算になります。
出産にかかる費用には地域差もあり、最も高い東京都では平均出産費用が648,309円、平均妊婦合計負担額は754,243円で、自己負担が25万円以上にもなります。
妊娠・出産に伴う経済的負担を軽減する制度として、2025年4月から「妊婦のための支援給付」が実施されています。妊婦給付認定後に5万円、妊娠している子どもの人数の届け出後に子ども1人につき5万円が支給され、単胎妊娠の場合は計10万円を受け取れます。また、自治体による相談支援も実施されています。
働けない期間から、備えるべき金額を逆算する
厚生労働省の「令和7年度雇用均等基本調査」(※1)によると、調査前年度に育児休業を終了して復職した女性の育児休業取得期間は、「12か月~18か月未満」が31.4%と最も多く、6か月以上が9割を超えています。出産後の休業期間は人によって異なりますが、半年から1年以上にわたり、仕事を休むケースも少なくないことがわかります。
※1:厚生労働省「令和7年度 雇用均等基本調査結果のポイント(概要)」(令和8年7月31日公表)
会社員の場合、出産手当金と育児休業給付金により、働けない=収入ゼロとはなりません。ただし、フルタイムで働いていた時期に比べれば収入は減ります。また、育児休業給付金は初回の申請が原則として育休開始から2か月経過後となるため、初回の振込まで2〜3か月以上かかる場合があります。振込までの生活費分のキャッシュは用意しておくと安心です。
フリーランス(自営業)の場合、休業する期間の収入補償は基本的にありません。そのため、休業期間中の生活費や社会保険料、出産費用の自己負担分などを賄えるだけの事前準備が必要です。
具体的に必要な額は人によりますが、筆者自身の経験も踏まえると、150万〜200万円程度は用意しておいたほうがよいでしょう。フリーランスであれば、たとえば産後2~3か月目から月5~10万円程度の案件を無理のない範囲で受注しながら、キャッシュアウトを抑えるという方法もあります。
また前提として、出産・育児を考えるときは、一人で何とかしようとするのではなく、家庭全体で戦略を立てることが理想です。働き方の柔軟性というフリーランスのメリットを活かしながら、パートナーの収入など世帯全体の収入も踏まえて出産・育児期の家計を考えましょう。
産後の仕事復帰のためにかかる費用
出産後、仕事復帰を目指す段階で直面するのが、保育園や託児サービスの利用に伴うコストです。
3歳以降は無料だが、0歳~2歳児は保育料がかかる
2019年10月から始まった「幼児教育・保育の無償化」により、保育所・認定こども園の3歳から5歳児クラスの保育料は全世帯で原則無料となっています。
一方で、0歳〜2歳児クラスの保育料については、以下のように定められています。
父母などの市区町村民税所得割額に応じて自治体が決定。※住民税非課税世帯は無償。
国が定める上限額:最高で月額10万4,000円
自治体や世帯年収によって金額は大きく異なりますが、共働きで世帯年収800万〜1,000万円程度の場合、認可保育園であっても0〜2歳児の保育料は月額4〜7万円程度かかるケースもあります。
一方、自治体独自の支援も広がっています。たとえば東京都では、2025年9月から認可保育所等の0~2歳児クラスについても、第1子を含めた保育料の無償化が進められています。
ベビーシッター利用の選択肢と助成制度
認可保育園に入れなかった場合や、復職初期に一時的に預けて仕事を再開したい場合に利用されることが多いのがベビーシッターや託児サービスです。
こども家庭庁の資料(※2)によると、「いわゆるベビーシッター」の平均月額利用料は1~2万円程度、1時間当たりの利用料は全時間帯を通じて「1~3千円未満」の割合が最も高くなっています。
※2:こども家庭庁成育局「ベビーシッターの現状と課題」(令和5年4月17日)
ベビーシッターや託児サービスなどの対象となる事業者のサービス利用時に補助が受けられる制度を実施している自治体もあります。たとえば東京都では、「ベビーシッター利用支援事業」により、年間上限はあるものの、1時間あたり最大2,500円(夜間は最大3,500円)の補助が受けられます。
まとめ
出産・育児を経ながらも仕事を続けたい女性を支援する制度は、昔よりも整ってきています。
それでも、出産・育児に伴う収入減やキャリアの停滞に不安を感じるのは当然です。筆者自身もそうでした。ただ、具体的にどのくらいの影響が見込まれ、それを補うどんな支援制度があるのかを把握することで、不安を少しでも解消できるはずです。
また、一人で背負いすぎず、パートナーや家族、必要に応じて専門の窓口にも相談し、協力を得ることも大切です。
フリーランス(自営業)として出産・育児を経験した視点で言えば、会社員の補償の手厚さはやはりかなり魅力的です。一方で、働く時間や場所の柔軟性を重視するならば、フリーランスという働き方のほうがより適している場合もあります。
出産・育児は想定できない要素を多く含むライフイベントです。だからこそ正確な情報を得た上で、必要な準備と自分にとって最適な選択を行っていきましょう。


