【登場人物の紹介】

この物語の主人公は、13歳のハルです。ハルは、スマホゲームや動画、生成AIに親しんでいる中学1年生。お金の専門知識はありませんが、「データにも価値がある」という感覚は自然に持っています。

父は40代。住宅ローンや保険、NISAなど、生活に関わるお金には関心があります。一方で、暗号資産(仮想通貨)やNFTのような新しい金融は、自分にはまだ遠い存在と思っています。

母は30代。家計を預かる現実派で、値上げや教育費、将来のお金に敏感です。よくわからないものには慎重ですが、キャッシュレス決済やネット銀行はふだんから使っています。

近所のカフェ店主であるミナトさん。元金融マンで、ハルたち親子にお金のことをやさしく教えてくれる案内役です。

「金利」が上がると、なにが困るの?

夕食後、父はキッチンで片づけをしながらテレビのニュースを見て少し難しい顔をしていた。画面には、「住宅ローン金利」「日銀」「利上げ」といった言葉が並んでいる。

「また金利の話か……」

父がつぶやくと、ハルが麦茶を飲みながら聞いた。

「金利っていうのが上がると、なにが困るの?」

父は、リビングのソファーに座った。

「お金を借りている人にとっては、返すお金が増えるんだよ。たとえば住宅ローンを借りていると、金利が上がることで毎月返さないといけないお金が増える場合があるんだ」

ハルは首をかしげた。

「でも、銀行にお金を預けている人は、もらえる利息が増えるんじゃないの?」

母が言った。

「そうね。借りている人は大変になるけど、預けている人にはいい面もあるのかも」

ハルはさらに聞いた。

「じゃあ、銀行ってなにをしてるの? みんなのお金を預かって、金庫に入れてるだけじゃないの? 友だちが『これからは銀行じゃない新しいお金のしくみもある』って言ってたよ。」

父は、口を開きかけて止まった。

銀行は預金を預かる場所。住宅ローンを借りる場所。振込をする場所。そういうイメージはある。けれども、銀行がどうやって成り立っているのかを、子どもにわかるように説明するのは意外と難しい。

母が笑った。

「またミナトさんに聞きに行く?」

ハルはすぐにうなずいた。

「行こう。前の続きだね」

銀行は、お金を預かるだけではない

翌日、3人は近所のカフェに向かった。ミナトさんは、ハルの質問を聞くと、カウンターに小さな箱を置いた。箱の中には、コーヒー豆が入っている。

「この豆を、お金だと思ってみよう」

ミナトさんは、ハルに10粒の豆を渡した。

「ハルくんが銀行に10粒預けたとする。銀行は、それを全部箱に入れて、ずっと置いておくだけだと思う?」

「うん。預かったものだから、勝手に使っちゃだめじゃないの?」

「もちろん、預金者が必要なときに引き出せるようにしておくことは大切だね。でも銀行は、預かったお金の一部を、家を買いたい人や事業を始めたい会社に貸し出している」

父が補足した。

「住宅ローンや企業向けの融資だね」

ミナトさんは、うんうんとうなずいた。

「銀行は、預金者からお金を預かり、そのお金を必要としている人に貸し出す。貸した相手から利息を受け取り、預金者には利息を支払う。その差が、銀行の収益、つまり"もうけ"のひとつになるんだ」

ハルは豆を見ながら言った。

「じゃあ、銀行はお金の通り道みたいなものかな?」

「いい表現だね。お金を余らせている人と、お金を必要としている人をつなぐ役割がある。それが金融。お金を融通するっていうことなんだ」

母が聞いた。

「でも、預けたお金を貸し出してしまったら、みんなが同時に引き出したいと言ったときはどうなるんですか?」

「そこが銀行の難しいところだね。銀行は、すべてのお金をそのまま金庫に置いているわけではない。だからこそ、信用がとても大切になる」

ハルは小さくつぶやいた。

「銀行って、ただの金庫じゃないんだね」

金利は「お金を借りる値段」

ミナトさんは、今度は紙ナプキンに「金利」と書いた。

「金利は、ひと言でいうと、お金を借りる値段だよ」

ハルは少し驚いた。

「お金に値段があるの?どういうこと?」

「あるんだ。たとえば、今すぐ100万円を使いたい人がいる。でも手元にはない。そこで銀行から借りる。銀行は、ただで貸すわけではなく、あとで元のお金に利息をつけて返してもらう。この利息の割合が金利だね」

父が言った。

「住宅ローンも同じだ。家を買うために銀行からお金を借りて、何十年かけて返していく。その間、金利分も支払う」

ハルは考え込んだ。

「じゃあ、金利が高いと、借りる人は大変になるね」

「そう。住宅ローン、車のローン、会社がお金を借りる場合など、借りている人には負担が増える。一方で、預金金利が上がれば、預けている人が受け取る利息は増える可能性があるよ」

母が言った。

「でも、預金の利息が少し増えても、住宅ローンの返済が増える方が大きい家庭もありそうですね」

「そのとおり。金利は、家計にも企業にも景気にも影響する。だから、ニュースでよく取り上げられるんだよ」

ハルは、テレビのニュースを思い出した。

「にちぎんって、金利を決めてるところ?」

「日銀は、日本の中央銀行だね。銀行の銀行とも言われる。世の中のお金の量や金利に大きな影響を与える政策を行っているんだ」

「銀行の銀行……」

ハルは、少しだけ大人の世界をのぞいた気がした。

「信用創造」って、どういうこと?

ハルは、前から気になっていたことを聞いた。

「でも、銀行が預かったお金を貸すなら、世の中のお金は増えてないよね。右から左に動いてるだけじゃないの?」

ミナトさんは、にっこり笑った。

「いい質問だね。ここから少しだけ難しくなるけれど、銀行には信用創造という働きがある」

「しんようそうぞう?」

「簡単にいうと、銀行の貸し出しによって、世の中で使えるお金が増えるしくみのことだ」

ハルは、すぐには理解できない顔をした。ミナトさんは、紙に図を描いた。

「たとえば、Aさんが銀行に100万円を預ける。銀行はその一部を、Bさんに貸し出す。Bさんは借りたお金で商品を買い、そのお金を受け取ったCさんが別の銀行に預ける。その銀行もまた一部を貸し出す。こうした流れがくり返されると、最初の預金をもとに、世の中で使えるお金が広がっていく」 ハルは驚いた。

「最初は100万円があるだけなのに、そのお金が流れることで、いろいろなことが起こるんだ!」

父が言った。

「だから銀行の融資は、経済を動かす力があるんですね」

「そう。会社が設備に投資をする。人を雇う。新しい事業を始める。そこには銀行の貸し出しが関わっていることが多い」

母は少し心配そうに聞いた。

「でも、貸しすぎると危なくないんですか?」

「もちろん危ない。返せない人にどんどん貸せば、貸したお金が返ってこないリスクが高まる。不良債権といって、回収できないお金が増えてしまうこともあるんだ。だから、審査や規制、自己資本、中央銀行の政策などが大切になるんだよ」

ハルは、銀行を見る目が少し変わってきた。

銀行は、お金を預かるだけの場所ではない。お金を必要なところへ回し、金利を通じて経済とつながり、貸し出しによって世の中のお金の流れを作っている。

「銀行って、思ったよりすごいことをしてるんだね」

ミナトさんはうなずいた。

「だからこそ、銀行には信用が必要なんだ」

新しいお金のしくみは、銀行とどう違うの?

父は、ハルのビットコインの話を思い出して聞いた。

「銀行や中央銀行のしくみがあるから、今のお金は動いている。一方で、この前お話ししたビットコインは会社のような特定の管理者がいないという話でしたよね」

「そう。ここが、銀行のお金とビットコインの大きな違いのひとつだ」

ミナトさんは、またナプキンに数字を書いた。

「円やドルのようなお金は、中央銀行や金融システムの中で、お金の量や金利が調整される。景気が悪いときにはお金を回しやすくする。物価が上がりすぎるときには引き締める。もちろん、うまくいくときもあれば、難しいときもあるけどね」

ハルは聞いた。

「ビットコインは違うの?」

「ビットコインは、発行される上限があらかじめ決まっている。だれかが景気をよくするために、勝手に増やすことはできない」

母が少し不安そうに言った。

「それは安心なようでもあり、不便なようでもありますね」

「そのとおりだ。ビットコインには、中央管理者がいないことによる強みもあれば、価格が大きく動く、使える場所が限られる、自己管理が必要といった難しさもある。だから、銀行のお金とどちらが正しいというより、しくみが違うと考えた方がいい」

父がうなずいた。

「なるほど。ビットコインがあるからといって、銀行がいらなくなるという話ではないんですね」

「そういうこと。それぞれ役割が違うんだ」

ハルは、ゆっくりうなずいた。

「銀行のお金は、銀行や国のしくみを信じる。ビットコインは、あらかじめ決められたルールとネットワークを信じる。そんな感じ?」

ミナトさんは笑った。

「かなり近いね」

父は感心したようにハルを見た。

「お父さんより理解が早いかもしれないな。わかったようで、わからないよ」

ハルは少し得意げに言った。

「じゃあ、次は物価の話を聞きたいね。最近、お菓子も高くなってるしさ」

母は深くうなずいた。

「それは本当に聞きたいわ」

次回予告:同じ1,000円なのに、なぜ買えるものが減るの?

銀行は、お金を預かるだけではありません。預金をもとに融資を行い、金利を通じて家計や企業、景気とつながっています。

お金は、ただの紙や数字ではなく、信用によって動いている。今回、ハルはそのことを少しだけ学びました。

一方で、最近の暮らしでは、別の疑問も生まれています。

「同じ1,000円なのに、前より買えるものが減っている気がする」

次回は、スーパーでの買い物をきっかけに、インフレ、円の価値、そして資産運用の入口について考えていきます。