都市部で働いてきた人のなかでも、子育てをきっかけに、住居の広さや子どもが遊べる自然環境を求めて地方移住への関心が高まっており、移住相談件数も増加しています。

都市部の住宅価格高騰もその動きを後押ししているものと思われます。

公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構が運営する「ふるさと回帰支援センター・東京」によると、2025年の移住相談件数は7万3,003件で、5年続けて過去最高を更新しています。筆者自身の経験でもここ数年、地方へ移住した仕事仲間が何人かいます。

一方で移住を検討する多くの方が不安に思うのが、お金の問題ではないでしょうか。地方移住では多くの場合、家計の支出と収入の構成に変化が起こります。

支出については、「住居費」が下がる一方、都市部では必要なかった「隠れコスト」が発生する可能性があります。また、収入については、一般的に地方のほうが低くなる傾向にあります。

本記事では、そういった地方移住検討時に押さえておきたい家計の構造の変化についてまとめました。

データで見る地域差、収入と住居費のリアル

地方移住に伴って転職する場合、移住先によっては収入が下がる可能性があります。厚生労働省の都道府県別賃金を見ると、地域によって賃金水準には大きな差があります。

厚生労働省のデータ(※1)によると、最も賃金が高い東京都(41万8,300円)と最も賃金が低い青森県(26万3,900円)では15万4,400円の差があります。

出典:「令和7年 賃金構造基本統計調査」「都道府県別賃金(男女計)」(厚生労働省)

一方、住宅価格を見ると、首都圏より全国平均のほうが低い水準です。そのため、移住先によっては、収入が下がっても住宅取得にかかる負担を抑えられる可能性があります。

国土交通省が発表しているデータ(※2)では、首都圏と全国の「住宅価格の年収倍率」の違いという形でそれがわかります。年収倍率とは、住宅価格が年収の何倍になるかを表す指標です。令和6年の「住宅価格の年収倍率」では、首都圏では8.9倍(年収880万円に対し住宅価格7,820万円)、全国では7.7倍(年収790万円に対し住宅価格6,082万円)となっています。

※1:「令和7年 賃金構造基本統計調査」「都道府県別賃金(男女計)」(厚生労働省)

※2:「令和7年度 住宅経済関連データ」(国土交通省)

移住前に確認したい住宅ローン審査、「いつ」「どう」組むかで運命が分かれる

子育て世代の地方移住では、「都市部では難しい広めの戸建てを購入したい」と考える方も多いと思います。ここで注意したいのが、住宅ローンの審査の基準が、「働き方(勤務形態)」と「手続きを行うタイミング」によって大きく変わることです。

移住を機に移住先の企業へ転職する場合は、「勤続年数」に注意が必要です。住宅ローンでは、金融機関や商品によって一定の勤続年数を申込要件としている場合があります。前職の年収が高くても、転職直後は審査に通らない可能性があります。

また、移住を機に起業して自営業者やフリーランスになる場合、移住後すぐの住宅ローン審査では、営業実績の期間などがネックになる場合があります。自営業者は、金融機関によって一定の営業年数や複数年分の確定申告書の提出を求められる場合があります。

基本的に、移住で働き方が変わる場合、まずは3年程度、賃貸住宅を利用することをおすすめします。住宅ローン審査のことはもちろん、実際に住んでみて地域の住環境や校区の雰囲気を確認してから物件を購入するほうが安心です。

住居費だけじゃない、地方移住で見落としがちな「隠れコスト」

地方移住では住居費が安くなることが多いですが、それだけで安心はできません。地方での生活では、都市部では必要のなかった「隠れコスト」が生じる可能性があります。

「一人一台」の自動車社会と維持費のリアル

地方では、「大人一人に対して車一台」が必要になる地域もあります。夫婦で2台所有する場合は、車両の購入費に加え、自動車税や軽自動車税、任意保険料、ガソリン代、車検代、タイヤ代など、さまざまな費用がかかります。

実際の負担額は、車種や購入方法、走行距離、保険条件、地域などによって大きく異なります。移住先で車が何台必要になるのかも含め、住居費だけでなく交通費まで含めて家計を考えることが大切です。

  • 車両購入費(ローン・減価償却): 月3万〜5万円(2台分)
  • 自動車税・軽自動車税:年間約4万〜8万円(月換算 約3,300〜6,700円)
  • 任意保険料: 2台で月1万5,000〜2万5,000円
  • ガソリン代・車検代・スタッドレスタイヤ代: 月2万〜3万円

上記の仮定では、車2台の購入費を含む保有・利用コストは毎月約6万8,000円〜11万2,000円になります。実際の金額は車種や走行距離、保険条件などによって大きく異なります。

寒冷地は特に注意、インフラ・光熱費の地域差

毎月のインフラ・光熱費の負担は、地域によって差があります。

特に差が出やすいのが、北海道、東北、甲信越など冬場の寒さが厳しい地域における光熱費です。総務省の家計調査を見ると、光熱・水道費には地域差があり、寒冷地では冬季を中心に負担が大きくなる地域があります。

※3:「家計調査(家計収支編)」「都市階級・地方・都道府県庁所在市別」(総務省統計局)

十数年後にぶつかる、進学に伴うコストの違い

地方移住の際、都市部と地方の差でもっとも見落とされがちかもしれないのが、子どもが成長し、大学に進学した際にかかるコストです。

地方では、進学先によっては自宅外通学が必要になる場合があり、その場合は住居費や仕送りが新たな家計負担になります。

その際、多くの家庭では仕送りをするのではないでしょうか。

全国大学生活協同組合連合会のデータ(※4)では、下宿生の1カ月の収入のうち、仕送り額の平均は7万4,652円となっています。

※4:「第61回学生生活実態調査」(全国大学生活協同組合連合会)

活用必須!「移住支援金」を始めとした公的制度

地方に移住する際は、引越や新居の準備などに初期費用がかかるものです。こうした初期費用を補ってくれる、公的な支援制度もあります。

地方創生移住支援事業の「移住支援金」は、移住直前の10年間で通算5年以上かつ直近1年以上、東京23区に在住していた人、または東京圏(条件不利地域を除く)に在住し、東京23区へ通勤していた人が、東京圏外または東京圏内の条件不利地域にある事業実施自治体へ移住し、就業・起業・テレワークなど所定の要件を満たした場合に利用できる制度です。支給額は自治体によって異なり、世帯は100万円以内、単身は60万円以内。18歳未満の世帯員を帯同する場合は、1人につき最大100万円が加算されます。

また、移住先で地域課題の解決に資する社会的事業を起業する場合は、地方創生起業支援事業の「起業支援金」を利用できる可能性があります。対象となる起業経費の2分の1に相当する額が、最大200万円まで交付されます。

この他にも、住宅購入費用の補助や子育て支援など、移住先の自治体独自の支援策を利用できる場合があります。移住を検討する際は、一度調べてみましょう。

地方移住でもキャリアをあきらめない選択

地方移住では、収入の変化とともに「地方に移住したらキャリアが止まってしまうのではないか」という懸念もあるかもしれません。

「地理的アービトラージ」で収入は維持しながら地方のメリットを活用

この懸念を解消する考え方として「地理的アービトラージ」があります。地理的アービトラージとは、「都市部水準の収入を得ながら、地方の低コスト(住居費)で暮らす」という戦略です。

具体的には、リモート勤務により都市部の企業に正社員として在籍したまま地方に移住するケースが考えられます。

地方創生移住支援事業「移住支援金」では、2021年度から「テレワークにより移住前の業務を継続」する場合も対象に加えられ、一定の要件を満たせば支援を受けられるようになりました。

また、業務委託・フリーランスとして都市部の企業からの高単価な案件を受けながら、地方で生活するというケースも考えられます。

都市部で培ったスキルが、地方の企業や自治体において重宝されることは珍しくありません。たとえば、Webマーケティング、IT導入、事業開発、マネジメントなどのスキルは、活用できるシーンが多いでしょう。

家計の「構造変化」と「数字に表れない要素」をトータルで設計しよう

地方移住に伴うお金の問題を解消するには、以下の4ステップで総合的な判断を行った上で、必要な対策を取ると良いでしょう。

  • 住居費や光熱費の増減などを加味した「家計の構造変化」を把握する
  • 自動車の所有や将来の仕送りリスクなど「数字に表れにくい要素」も想定する
  • 働き方に応じた適切な「住宅ローンのタイミング」を見極める
  • 移住支援金などの公的な支援制度の活用を検討する

「収入がいくら変わるか」という点だけに囚われず、支出の内訳の変化と子育ての将来像までを見据えた家計シミュレーションを行うことで、後悔しない地方移住に近づけるはずです。

■参考

公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構:「ふるさと回帰支援センター・東京」のアンケート

厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査」

国土交通省「令和7年度 住宅経済関連データ」

総務省統計局「家計調査(家計収支編)」

全国大学生活協同組合連合会「第61回学生生活実態調査」