働き盛り、子育て期の年代の女性にとって、「健康リスク」と言われても、ピンと来ない方も多いのではないでしょうか。もっと年齢を重ねてから真剣に考えるべきことに思われるかもしれません。
筆者自身、一児の母であり、フリーランスとして働きながら子どもと向き合う慌ただしい日々のなかで、自身の健康についてはつい後回しにしている自覚があります。
しかし、女性に多い病気には、30代〜40代というキャリアの充実期、子育て・家計の負担期に罹患率が急上昇するものも少なくありません。誰にでも起こり得て、しかも予測できない「万が一」にどう備えれば良いのか?日々、仕事や育児に忙しくしている女性こそ知っておくべき情報をまとめました。
働き盛り・子育て期に重なりやすい、女性の健康リスク
国立がん研究センターの統計情報(2023年の罹患データ)によると、女性の乳がんの罹患率は30代から増加し、40代後半で一度ピークを迎えた後も、高い水準が続きます。また、子宮頸がんの罹患率は30代にかけて大きく上昇し、40代前半でピークを迎えています。
がん以外にも、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科系疾患によって、入院や手術が必要になることがあります。
30代〜40代といえば、仕事で責任あるポジションを任されることが増えたり、教育費や住宅ローンの支払いが本格化したりする時期です。この時期に入院や手術が必要な病気にかかることは、本人の心身への負担に加え、家計やキャリアにも大きな影響を及ぼします。
病気のときに頼りになる「公的保障」の基礎知識
日本には国民皆保険制度があり、公的保障が高い基準で整備されています。入院や手術が必要な病気にかかったときに利用できる代表的な公的保障としては、医療費の負担を抑える「高額療養費制度」と、仕事を休んでいる間の収入を補う「傷病手当金」があります。
高額療養費制度
現役世代が病院の窓口で支払う医療費は、原則3割負担です。
しかし、入院や手術を必要とする治療の場合、3割負担でも医療費が高額になることがあります。そういった場合の負担を減らす制度が「高額療養費制度」です。
高額療養費制度は2026年8月に見直しが行われ、2027年8月にも所得区分の細分化などが予定されています。この制度では、年齢や所得などの条件に基づいて月ごとの医療費の自己負担額に上限が設定され、上限を超えた額が払い戻されます。
たとえば、70歳未満・年収約370万〜約770万円の場合、月ごとの自己負担上限額は「85,800円+(医療費10割-286,000円)×1%」となります。さらに、一定の条件を満たすと4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる「多数回該当」の仕組みや、年間の自己負担に上限を設ける制度もあります。
傷病手当金
会社員や公務員が、業務外の病気やケガで仕事を休み給与が出ない場合、以下の条件内で「傷病手当金」が支給されます。なお、業務上や通勤による病気やケガに対しては、「労災補償」という制度があります。
| 支給条件 | 業務外の病気・ケガで連続3日以上休み、4日目以降も働けないこと |
| 1日あたりの支給額 | 支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額の平均÷30日×3分の2 |
| 支給期間 | 通算最長1年6か月 |
要注意!自営業・フリーランスは傷病手当金の対象外となることが多い
傷病手当金は、会社員が加入する健康保険や、公務員が加入する共済組合の制度です。
一方、自営業・フリーランスの方が加入することの多い市区町村が運営する国民健康保険には、原則として、会社員向けの健康保険と同様の傷病手当金制度がありません。
ただし、自営業・フリーランスでも、職種によっては市区町村とは別に運営されている国民健康保険組合に加入できる場合があり、傷病手当金のような独自の制度を利用できる場合もあります。何らかの国民健康保険組合に加入している場合は、保障内容を確認しておきましょう。
公的保障だけでは不十分?見落としがちな収支の変化
病気の治療のために仕事をセーブせざるを得ないとき、公的保障は非常に頼もしい存在です。しかし、治療による収入の減少、そして治療に関して必要な費用のすべてをカバーできるわけではありません。特に次の2点には注意が必要です。
医療費以外の自己負担
高額療養費制度は「保険診療内の費用」にしか適用されません。たとえば、以下のような費用は全額自己負担となります。
差額ベッド代(個室代):本人の希望で有料の個室などを利用する場合に発生する費用。金額は医療機関や病室によって異なる。
先進医療の技術料:陽子線治療や重粒子線治療など(一部のがんは保険適用)。数百万円かかることも
入院中の食事代(標準負担額)・日用品費
また、入院や通院に伴い、日常生活でそれまで必要のなかった支出も増えがちです。
たとえば、通院のための交通費、抗がん剤治療時のウィッグ代など。家事や育児にかけられる人手や時間が減ることも、支出の増加につながります。たとえば、外食や中食の利用頻度が高まることで食事代がかさんだり、子どもの延長保育や託児サービスの利用で支出が増えたりすることも考えられます。
復職後も続く中長期的な収入減
手術や入院は無事終わっても、以前とまったく同じように働けるとは限りません。
「通院治療を続けながら短時間勤務で復帰する」「体調に合わせて残業や出張を控える」といった働き方の調整が必要になり、中長期的に収入減が続くことも十分に考えられます。
なお、傷病手当金は、病気やケガの療養のために従来の仕事に従事できない場合に支給される制度です。復職して働ける状態になれば、原則として支給対象外となります。ただし、休業中に給与の一部が支払われても、傷病手当金の額を下回る場合には差額が支給されることがあります。支給の可否は、実際の勤務状況や療養の状態などによって判断されます。
健康リスクへの備え、優先順位を整理する
公的保障でカバーできない部分の備えとしてまず思いつくのは、民間保険でしょう。しかし、加入する保険が増えれば、当然ながら月々の保険料の支払いも増えてしまいます。
限られた家計のバランスを保ちながら効率的に健康リスクへ備えるための参考として、公的保障以外の優先順位を整理しました。
優先順位1:緊急で使える資金の確保
意外性はありませんが、もっとも確実で簡単な対策はやはり「手元資金」、つまり預貯金です。健康リスクの高まる年齢に備えて、いざというときに使える資金を貯蓄していくことは、もっとも手堅い備えです。
あくまでも目安ですが、会社員であれば月々の生活費の3〜6か月分、自営業・フリーランスであれば月々の生活費の6〜12か月分の資金を用意する考え方もあります。
優先順位2:医療保険・がん保険
公的保障だけでは不足する医療費や、治療中の生活費・収入減への備えとして、民間の医療保険やがん保険を活用する方法も考えられます。ただし、民間保険の内容は、保険会社や商品によってさまざま。
そのなかで参考になる情報として、医療技術の進歩により、近年は入院の短期化が進み、通院しながら治療を受ける患者が増えていることがあげられます。
それを踏まえると、医療保険・がん保険のなかでも、がん診断時などに数十万〜200万円程度が一括で支給される「一時金タイプ」を重視するという選択肢もあります。一時金は、先進医療費の支払いや、通院期間中の収入減の補填としても使えます。ただし、給付額や支払条件は商品によって異なり、上皮内がんの扱い、複数回受給の条件、保障が開始されるまでの期間などにも注意が必要です。
なお、一度病気の診断を受けてしまうと、希望する民間保険に加入できなくなることもあります。
優先順位3:就業不能保険
就業不能保険とは、病気やケガで長期間働けなくなった際に、所定の条件を満たすことで、毎月の給付金などを受け取れる民間保険です。給付の条件や保障の対象、支給が始まるまでの期間は商品によって異なります。
「自前の傷病手当金」と呼べるもので、特に自営業・フリーランスの方の収入減の備えの一つになりそうです。また、会社員でも世帯収入の主軸となっている方にとって、傷病手当金だけでは不足する部分をカバーする選択肢にもなります。
健康リスクは、予測不能なライフイベント。働き方に合わせた備えを
キャリアプランを立てる際、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントは想定しても、病気・ケガといった「健康リスク」は意外と見落とされがちです。
病気やケガは、どんなライフイベントよりも予測できない出来事である上に、誰にでも起こり得ます。だからこそ、すべての働く女性がキャリア設計やマネープランを考える上で、「想定しておくべき要素」として捉える必要があります。
日本は公的保障のレベルが高いとはいえ、保障には限度があり、働き方によっても大きく変わります。まずは自分の働き方において、受けられる保障の範囲を正確に把握しておきましょう。
そして、公的保障の範囲では補いきれない部分については、緊急で使える預貯金、医療保険やがん保険、就業不能保険などから、自身に合った選択肢で備えを進めましょう。


