「せっかくここまで頑張ったのに」と過去を守り続けるのか、それとも必要に応じて自分をリセットし、より合理的な方法を選び直すのか。『AIで終わる人 AIで化ける人』(中平健太著/ダイヤモンド社)から抜粋し、AI時代に本当の強さとなる「身軽さ」について考えます。

「セーブ思考」と「リセット思考」

AIで終わる人
「あんなに苦労したのに」と、過去のコストに縛られる。

AIで化ける人
自分を「更新(リセット)」するために、あえてゼロに戻れる。

私が小学生の頃に流行っていたのはファミコンでした。その中でも当時の私を最も熱狂させたのは「ドラゴンクエストIII」でした。思い出がいっぱいです。

初めてアリアハンを出てスライムを倒した時。初めて「はがねのつるぎ」が買えた時。バラモスに勝てずに何度も挑戦しました。最後のボスを倒した時のガッツポーズは今でも忘れられません。

そんな少年時代の私にとって、最も聞きたくない音とメッセージがありました。カセットをセットして電源を入れるとタイトル画面のあとに、
(♫デロデロデロデロ……デーン) 悪夢のような音と共に、
「おきのどくですが ぼうけんのしょ1ばんは きえてしまいました」
と画面に表示されるあの絶望。これまで頑張ってデータをセーブして積み上げてきたものが一瞬で手元から失われる喪失感と絶望感。今でも思い出したくない思い出です。

積み上げてきたものを手放す。確かにそれは怖いしやりたくない。
ですが、これからのAI時代は本当にそれで良いのでしょうか。

費やした時間と労力の呪縛

なぜ、あの音があれほどまでに絶望的だったのか。それは、当時のゲームと人生において、「費やした時間」と「現在の強さ」が完全にイコールだったからです。

レベルを上げるために費やした膨大な時間。それが消えることは、自分の努力時間という「資産」がゼロになることを意味しました。だからこそ私は必死にセーブし、過去の積み上げを守ろうとしました。

しかし、AI時代において、この「セーブデータ(過去に積み上げたスキルや成果物)」を大事に抱え込むことは、資産を守ることにはなりません。むしろ、「サンクコスト(埋没費用)の呪縛」に自らかかることを意味するのではないでしょうか。

その苦労に、もう価値はないかもしれない

「セーブ思考」の正体は、「ここまで苦労したのだから、元を取らないと『もったいない』」という感情です。

たとえば、英語の習得に10年費やした人がいるとします。彼は、AIの翻訳ツールを使うことに抵抗を感じるかもしれません。「自分が10年かけて磨いたスキルを使わずに、機械に頼るのはズルい」と感じるからです。

しかし、ビジネスの現場で求められるのが「1秒でも早い翻訳」だとしたらどうでしょう? 彼が自分のスキルに固執して翻訳に1時間をかけている間に、「リセット思考」の若手はAIを使って3秒で翻訳を終わらせ、次の仕事に向かっています。

ここで残酷な現実を直視しなければなりません。AIの登場は、私たちが過去に積み上げた「苦労の市場価値」を、一夜にして暴落させる可能性があるのです。

「3年かけて習得したプログラミング技術」も、「1週間かけて作った資料」も、残念ながらAIなら一瞬です。それなのに「もったいない」と言って古いやり方にしがみつくのは、暴落した株券を「昔は高かったんだ」と言い張って紙屑になるまで持ち続けるのと同じです。

「身軽さ」こそが最強のステータス

これまでの時代は、過去の実績や知識といった重厚な鎧(よろい)をまとった人間が「強い」とされました。しかし、変化の激しいAI時代において、その鎧はただの「重り」です。

「昔はこのやり方で成功した」「この分野は俺が一番詳しい(はずだ)」
そうした過去のセーブデータが多ければ多いほど、新しい技術を取り入れる邪魔をします。今必要なのは、積み上げることではありません。「過去にどれだけコストをかけたか」を無視し、ゼロベースで「今、最も合理的な手段」を選び直す力です。

これをビジネスの世界では「アンラーニング(学習棄却)」と呼びます。学んだことを、あえて捨てる。過去の自分を否定するわけではありません。「今のゲームルールには合わない装備だ」と冷静に判断し、アイテム袋から捨てるのです。

ドラクエのデータが消えた時の絶望は、「復旧に時間がかかるから」でした。しかし、今はAIがあります。リセットしても、AIを使えば「強くてニューゲーム」ができます。知識ゼロの状態からでも、AIという攻略本と最強装備を使えば、かつての自分が10年かけた場所に、数日でたどり着けるかもしれません。

恐れるべきは、リセットすることではありません。カビの生えたセーブデータ(サンクコスト)にしがみつき、「もったいない」と呟きながら、時代の変化というゲームオーバーを迎えることです。

積み上げを守る「セーブ思考」から、過去のコストを無視し、常に最新の状態へ自分を更新する「リセット思考」へ。あなたの人生の冒険の書は、いつでも、何度でも、新しく書き始めることができるのです。


出典元:
『AIで終わる人 AIで化ける人 「AIが当たり前」の時代を生き抜く20の思考変革』(中平健太/ダイヤモンド社)

「AIが答える時代」から「動く時代」に――「真面目」な人から終わる。自信のある人こそ詰む。AIで1000社3000名超の働き方を変えた起業家が教える、ITの知識は関係ない、自分を爆発的に進化させる考え方!これからAIがどれだけ進化しても変わらない、「AI以後の時代」を生き抜くための4つのルールと20の思考変革

(記事掲載にあたり本文の一部を修正しています)