投資する私たちの価値基準も問われている。
投資先として見る場合、「社会や環境に良いことをする企業は儲からないのでは」といった固定観念が頭をよぎるかもしれない。しかし工藤さんは「課題を解決することは、誰かのニーズに応えること。それはビジネスになる」と話す。
「良いことをやっている企業こそ長期的に利益を上げていく世界が本当はあると思います。ただ、現代日本のような成熟した社会に、すぐ解決できるような課題は残されていないのも事実。社会的なインパクトが高いことをやろうとするならば、結果が出るまで長い時間がかかります」
即時的な利益を追うのではなく、5年、10年と長期的な視野を持てるかどうかが、私たち投資する側にも求められてくる。また、成果に対する考え方も既存の投資とは異なる面がある。
「社会や環境に良いことをすると、その企業にだけリターンがあるわけではありません。たとえば企業周辺の地域社会や、他企業に勤める社員さんが元気になる。そうやって波及していくからこそ社会インパクト、環境インパクトなんです」
投じた先の企業に直接戻らない価値を、価値として認められるか。どこまで待ち、どこまでを成果と見るか。問われているのは投資する私たちの物差しだ。
「投資家の役割は銘柄を選んで終わりではありません。どんな事業にも良い面と悪い面がある以上、企業が良いインパクトを生み出すよう促していくこと。そこにインパクト投資の本質的な意義があるのだと思います」

国内におけるインパクト投資市場は、まだ小規模ではあるものの、急拡大しているという。
*一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)発行/GSG Impact JAPAN National Partner 監督「日本におけるインパクト投資の現状と課題題 2025年度調査(https://impactinvestment.jp/data/media/resources-pdf/gsg-2025.pdf)」をもとに作成
社会を良くする会社を応援し、育てる意識で。
良いインパクトを生み出すよう“企業を促す”と聞くと、大がかりなことのようにも思えるが、特別なことをする必要はない。投資先を選ぶとき、資産の増減だけではなく、その会社が社会に何をもたらしているかに目を向ける。それだけで、お金を託すという行為そのものが、これまでとは違う意味を帯びてくる。
「資産運用としての魅力や、株主優待や配当など自分に返ってくるもの以外に、この会社は社会や環境に対してどう振る舞っているのか、どんな意思決定をしているのか、という目線で投資を検討する。それはこういう会社が増えてほしい、という社会に対する意思表示でもあるんです」
応援している会社が成長すれば、自身のリターンになる。だからその発展を “自分ごと” として捉えることにも繋がる。社会のためが、そのまま自分のためになるのだ。
「企業を育てている感覚になれますよね。成長のプロセスを見守りながら一緒に夢を見させてもらったり、成功を喜んだりできるようになっていくんです」
お金の使い道は、生き方の選択でもある。
SIIFはここ数年、インパクト投資に加えて「インパクト・エコノミー」という言葉を使いはじめた。投資にかぎらず、あらゆる経済活動において利益に依らない価値や、社会・環境への影響まで考慮して動く経済のことを指す。
「個人レベルのお金の使い方は、消費・貯蓄・投資・寄付の4つです。手元のお金をこの4つに振り分けていく中で、すべてにおいて『どれだけ社会や環境にいい影響を及ぼし、悪い影響を減らせるだろうか』という問いを立てられると思うんです」
消費であれば、食べ物や衣服、住まい関連など、どういうものを買うのか指針を持ってみる。 貯蓄においても、金利だけでなく、預金先の銀行がどのような事業や企業に資金を供給しているのかにも目を向けてみる。
そして寄付には、子どもの貧困や災害支援のように、経済活動では回収できない課題を担う非営利セクターをサポートする役割がある。4つのお金を何にどう使うか。その配分を考えることは、自分は何を大切にして生きていくのかを確かめる行為でもある。
「自分のお金が誰の手を経て、どこへ行くのか。後ろにあるストーリーが見えてくると、いつもの買い物も、貯金も、投資も、寄付も、すべてが豊かになっていくのではないでしょうか」
公益財団法人社会変革推進財団(SIIF)常務理事/公益財団法人Soil理事。千葉県出身。2005年東京都立大学卒業後、三井物産に入社。09年に退社し、国際公務員を目指して米クラーク大学大学院国際開発学部に留学。インパクト投資ファンドでのインターンを経て11年に修了、帰国。日本財団に入職し、17年、同財団内でSIIFを立ち上げ、常務理事に就任。19年、妊娠を機に島根県雲南市に移住。主にリモートで勤務しつつ、夫と息子と奥出雲で生活する。地域の学生のキャリア支援なども行う。23年からは、創業期の非営利スタートアップを支援するプログラムを提供する公益財団法人Soil理事も務める。
https://www.siif.or.jp/
取材・文:木内アキ 編集:フィガロジャポンBWA事務局
