仕事を続けながら、離れて暮らす親の介護や見守りに関わる人は少なくありません。

介護を視野に入れた子どもの側では、定期的に電話をかけて親の様子を確かめる人も多いはずです。ただ、電話がつながらなかったときに、すぐに無事を確認できる手段を持っている家庭は多くありません。

そんな家庭が考えたい選択肢の一つが、センサーや家電を通じて、離れた場所から親の生活や様子を知らせてくれる「見守りIoT」です。

IT系ライターとして福祉分野のDX事例を多く取材してきた筆者が、仕事と介護の両立という観点から、見守りIoTの費用と効果、無理のない取り入れ方を解説します。

高齢者のいる世帯の約3分の2は一人暮らし、または夫婦のみ

親の介護を考えるうえで、まず「介護される側」と「介護する側」それぞれの暮らしの状況を見ておきましょう。

2025年の国民生活基礎調査によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、一人暮らしが33.8%、夫婦のみの世帯が32.0%で、合わせて3分の2近くを占めます。親が一人暮らしや夫婦のみで暮らしている場合、子どもは離れた場所から介護や見守りに関わることも考えられます。

出典:2025(令和7)年 国民生活基礎調査(厚生労働省)
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介護する側では、働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」が増えています。経済産業省の資料によれば、ビジネスケアラーは2012年の211万人から2020年には262万人に増えており、2030年には318万人に達すると見込まれています。

親と離れて暮らしながら仕事を続けていると、急なトラブルがあってもすぐには駆けつけられません。様子を確かめに帰省するにも時間と交通費がかかるため、頻繁には通えないのが実情です。子ども側の仕事や生活を守りながら介護を続けるために、離れた場所からでも親の様子を確かめられる仕組みが求められているといえます。

月2,000円弱から使える「見守りIoT」の全体像

離れた親を見守りづらいという問題に対応するために検討したいのが、見守りIoTの活用です。

見守りIoTは、自宅に設置した機器が親の生活の様子を検知し、離れて暮らす家族のスマホやメールに知らせる仕組みです。

こうした見守りの技術は、介護施設でも、夜間の見回りなどの負担を減らすために使われています。厚生労働省は、介護施設で使われている見守り機器を3つのタイプに分けて整理しています。

  • バイタルタイプ:心拍や呼吸などの体の情報を可視化したり、その情報をもとに見守ったりする機器
  • カメラタイプ:室内の様子を映像で確かめる機器
  • センサータイプ:圧力センサーなどを使った、バイタルタイプとカメラタイプに含まれない見守り機器。家庭用では、電気ポットや照明といった普段使う家電の使用状況から、生活リズムの異変を知らせるものが該当

家庭向けの見守りIoTには、初期費用が無料のものから、機器の購入・設置費用がかかるものまであります。月額料金もサービスによって異なり、例えばヤマト運輸の「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」は月額1,738円(税込)で利用できます。導入時には、初期費用に加え、月額料金や通信費、訪問対応の有無などを確認することが大切です。介護する側が自分の仕事のリズムを維持しながら親の安否を確かめるためには、十分検討の余地がある価格帯といえます。

「電話がつながらない」ときの不安を減らす。見守りIoTでできること

見守りIoTを取り入れると、電話がつながらないときでも、映像やセンサーの記録、家電の使用履歴といった手がかりから、親の生活状況を推測しやすくなります。ただし、確認できる情報や通知のタイミングは機器によって異なり、異常の発生をすぐに把握できるとは限りません。

総務省の報告書では、福岡市が2019年8月から約1年間実施した見守りIoTの実証事業が紹介されています。一人暮らしの高齢者宅にセンサーを設置し、民間事業者が異常を検知した際に電話や訪問で安否確認する仕組みです。実証後のアンケートでは、利用者や親族の約73%がセンサーの利用によって安心感が生まれたと回答しました。また、トイレの利用状況を手がかりに、検査入院につながった事例もありました。

家庭向けの見守りIoTには、介護する側とされる側の双方が抵抗なく使えるよう、普段の暮らしに溶け込む形で作られたものが多くあります。

例えば、象印マホービンが提供する「みまもりほっとライン」がその一つです。電気ポットの操作状況を通して親の様子を伝える仕組みで、象印マホービンによると、ポットの操作がないことをきっかけに家族が異変に気づき、救急車を呼んで一命を取り留めたケースもあるとのことです。

同じく、生活に取り入れやすいサービスの例に、「クロネコ見守りサービス」があります。このサービスでは、専用の電球のON・OFFを通じて生活状況を見守ります。24時間の間(前日午前9時から当日午前8時59分まで)に点灯・消灯が確認されなかった場合、登録先にメールで通知され、家族などからの依頼に応じてヤマト運輸のスタッフが訪問する仕組みです。

見守りサービスに関心がある人は48.6%、利用中は5.0%。導入が進まない理由とは

見守りIoTを含む各種見守りサービスは、介護する側・される側の双方の安心感につながり得る一方、利用には課題もあります。

エス・エム・エスが2023年に介護で悩む人向けコミュニティ「安心介護」の会員500人を対象に実施した調査では、見守りサービス全般に「関心がある」と答えた人は48.6%だった一方、現在利用している人は5.0%でした。

利用したことがない、または利用をやめた理由としては、「見守りサービスがどのようなものかよくわからないから」(31.0%)が最も多く、利用者の声や効果についての情報が広く発信されることが望まれます。

また、現在または過去に見守りサービスを利用したことがある50人に導入理由を尋ねたところ、「自宅で転倒・急な体調不良などの事故があり、それがきっかけで導入した」(34.0%)が最多でした。

実際にトラブルを経験してから機器の活用を考え始めている方が多いことがうかがえます。何事もないうちは新しい機器を導入するきっかけがつかみづらいものですが、介護する側が急なトラブルに対していつでも対応できるとは限らないため、「何かが起きる前」に対策を打っておくことが重要といえるでしょう。ただし、見守りIoTは親の異変に気づくための補助手段であり、必ずしも事故や急病をすぐに検知できるわけではありません。導入時には、通知が届いた場合の連絡先や、親のもとに駆けつけられる人・サービスについても確認しておくと安心です。

親が元気なうちに、見守りの方法を一緒に決めておく

月数千円の見守りIoTは、親の異変に気づく手がかりを増やし、「毎日の不安」を減らす備えになり得ます。今回紹介したように、身近な家電の延長で使えるものも多いので、どんな機器なら取り入れやすいか、親と相談してみるとよいでしょう。

仕事を続けながら離れた親を見守るためには、トラブルが起きる前に仕組みを整えておくことが重要です。親のいつものルーティンを知っておくことで、異変や違和感に早めに気がつきやすくなります。

「まだそこまでは……」と感じる方も、親がまだ元気なうちに活用を考えておくことが、見守る側・見守られる側の両方の安心につながるはずです。