年齢を重ねるにつれて、以前より疲れが抜けにくいと感じることがあります。こうした変化には、睡眠や運動、ストレス、病気など多くの要因が関係しており、ミトコンドリアだけで説明することはできません。今回は、細胞内でエネルギー産生を担うミトコンドリアと、関連成分として注目される5-ALAの役割について、現在の科学的知見をもとに整理します。

疲れやすさの原因は一つではない

40〜50代は、仕事や家庭での負担が重なりやすいうえ、更年期に伴う変化なども現れやすい年代です。「休んでも疲れが取れない」「夕方になると体が重い」と感じても、その背景は人によって異なります。睡眠不足、運動不足、偏った食事、精神的なストレスのほか、貧血、甲状腺の病気、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、うつ病などが関係することもあります。

そのため、疲れを単純に「加齢によるエネルギー不足」と捉え、特定の成分だけで解決しようとするのは適切ではありません。まずは生活の状況や症状を振り返ることが大切です。強い疲労が続く、日常生活に支障が出る、発熱、息切れ、動悸、意図しない体重減少などを伴う場合は、自己判断せず、早めに医療機関へ相談しましょう。

細胞の中でエネルギーを作るミトコンドリア

私たちが体を動かしたり、ものを考えたり、体温を保ったりするには、ATP(アデノシン三リン酸)という物質が必要です。ATPは、細胞が生命活動を行う際に使う、いわば「エネルギーの通貨」です。

ミトコンドリアは、多くの細胞の中にある細胞内小器官です。糖質や脂質などから得られた物質と、呼吸で取り込んだ酸素を利用し、酸化的リン酸化と呼ばれる仕組みによってATPの多くを作ります。このため「細胞のエネルギー工場」と例えられますが、ミトコンドリアには細胞内の情報伝達や細胞死の調節など、エネルギー産生以外の役割もあります。

加齢とミトコンドリアの関係

加齢に伴い、ミトコンドリアではDNAの損傷やエネルギー産生機能の変化、傷んだミトコンドリアを除去する仕組みの変化などが起こることが報告されています。ミトコンドリアの機能変化は、老化に関係する生物学的な特徴の一つと考えられています。

ただし、ここでいう「老化」は細胞や組織で起きる複雑な現象です。ミトコンドリアの変化だけが、見た目の老化や日常的な疲労を直接引き起こすと証明されたわけではありません。「ミトコンドリアを活性化すれば若返る」「整えれば疲れがなくなる」といった表現は、現在の科学的知見を超えています。

ミトコンドリアの健康を支える基本は生活習慣

ミトコンドリアを意識した健康づくりでも、特別な方法より、食事、運動、睡眠といった生活習慣が土台になります。なかでも運動は、骨格筋のミトコンドリアが新しく作られる仕組みを促すことが知られています。大切なのは、急に強い運動を始めることではなく、今より少し多く体を動かし、無理なく続けることです。持病がある人や体力に不安がある人は、運動を始める前に医師へ相談してください。

食事では、特定の食品や栄養素に偏らず、主食、主菜、副菜を組み合わせることが基本です。極端な食事制限や、サプリメントで不足を一度に補おうとする方法は、必要な栄養素の過不足につながることがあります。睡眠についても、起床・就寝時刻をなるべく整え、休養を確保することが、疲労への現実的な対策になります。

5-ALAはどのような物質?

5-ALA(5-アミノレブリン酸)は、動物や植物などの体内に存在する物質です。「アミノ酸」と呼ばれますが、筋肉や皮膚などのタンパク質を構成する一般的なアミノ酸とは異なります。人の体内では、ミトコンドリアでグリシンとスクシニルCoAから作られ、複数の反応を経てプロトポルフィリンIXになります。さらに、そこへ鉄が組み込まれることでヘムが作られます。

ヘムは、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンだけでなく、ミトコンドリアの電子伝達系を構成するシトクロムなどにも含まれています。したがって、5-ALAは「ATPを直接増やす物質」ではなく、ヘムの合成経路における出発物質と説明するのが正確です。また、5-ALAは体内で合成されるほか、発酵食品や野菜などにも含まれます。ただし、食品に含まれることと、サプリメントとして摂取した場合に健康効果が得られることは、分けて考える必要があります。

5-ALAで疲れは軽くなる? ヒト研究の現在地

5-ALAについては、細胞や動物を対象とした基礎研究に加え、ヒトを対象とした研究も行われています。例えば2020年には、日常的に疲労を感じる20〜64歳の健康な成人70人を対象とした、無作為化二重盲検プラセボ対照試験が報告されました。参加者は8週間、1日あたり5-ALAリン酸塩30mgとクエン酸第一鉄ナトリウム34.5mg、またはクエン酸第一鉄ナトリウム34.5mgのみを摂取しました。主観的な疲労感を示す一部の指標では、5-ALAを含む錠剤を摂取した群に改善がみられました。

一方、この結果だけで「5-ALAを摂れば疲労が改善する」と結論づけることはできません。対象者が70人と限られており、特定地域の20〜64歳を対象に8週間実施された一つの試験です。また、40〜50代に限定した研究ではありません。研究資金は試験食品を提供した企業から受けていました。今後、異なる研究者による、より大規模で長期間の検証が必要です。

なお、この試験では両群に鉄を含む成分が使用されており、5-ALAと鉄を一緒に摂ることを一般の人へ推奨する根拠にはなりません。鉄は不足している人には必要ですが、過剰摂取にも注意が必要です。自己判断で鉄のサプリメントを追加することは避けましょう。

サプリメントを選ぶ前に確認したいこと

サプリメントは食品であり、病気や疲労を治療する医薬品ではありません。「細胞から若返る」「飲むだけでミトコンドリアが活性化する」といった宣伝文句だけで判断せず、対象者、摂取量、研究期間、評価方法、研究資金などを確認することが重要です。機能性表示食品であっても、国が製品ごとの効果や安全性を審査し、認めたものではありません。

5-ALAの生化学的な役割は分かってきていますが、健康な人の疲労や加齢に伴う変化に対するサプリメントの効果は、現時点では十分に確立しているとはいえません。まずは生活習慣を見直し、不調が続く場合は医療機関へ相談すること。そのうえで利用を検討する場合は、表示や注意事項を確認し、治療中の病気がある人や薬を服用している人は、医師や薬剤師へ相談しましょう。

主な参考文献・資料

López-Otín C, et al. Hallmarks of Aging: An Expanding Universe. Cell. 2023;186(2):243-278.

Mølmen KS, Almquist NW, Skattebo Ø. Effects of Exercise Training on Mitochondrial and Capillary Growth in Human Skeletal Muscle: A Systematic Review and Meta-Regression. Sports Med. 2025;55(1):115-144. doi:10.1007/s40279-024-02120-2.

Jiang M, et al. Natural 5-Aminolevulinic Acid: Sources, Biosynthesis, Detection and Applications. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology. 2022;10:841443.

Higashikawa F, et al. Reduction of fatigue and anger-hostility by the oral administration of 5-aminolevulinic acid phosphate: a randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel study. Scientific Reports. 2020;10:16004.

厚生労働省 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

消費者庁 機能性表示食品について