夜になっても眠れない。途中で何度も目が覚める。そんな慢性不眠症は、かつては「他の病気の結果」と考えられてきた。しかし世界の睡眠医学は今、不眠そのものを独立した疾患として積極的に治療する方向へ大きく転換している。

  • 慢性不眠症では「眠れないことへの不安」が新たな覚醒を生み、不眠を長引かせる悪循環に陥ることがある。

    慢性不眠症では「眠れないことへの不安」が新たな覚醒を生み、不眠を長引かせる悪循環に陥ることがある。 PeopleImages -shutterstock-

夜、布団に入ってもなかなか寝付けない。ようやく眠っても途中で目が覚めてしまう。朝早く目が覚め、その後は眠れない──こうした不眠の悩みを抱える人は少なくない。米国では成人の約10〜15%が慢性不眠症に該当するとされ、日本でも多くの人が睡眠に関する問題を抱えている。睡眠不足は集中力や生産性の低下を招くだけでなく、心身の健康にも大きな影響を及ぼすことが知られている。

そうした中、米国睡眠医学会(AASM)は2026年4月、成人の慢性不眠症に対する新たな診療ガイドラインを公表した。今回のガイドラインが注目されるのは、薬物療法だけでなく、「不眠症に対する認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:CBT-I)」と薬物療法を組み合わせた治療について体系的な推奨を示した点にある。近年の不眠研究では、「眠れない原因を取り除けば不眠も治る」という従来の考え方から、「不眠そのものを独立した疾患として治療する」という考え方へと大きな転換が起きている。

「二次性不眠」という考え方の見直し

かつて医療現場では、不眠は「一次性不眠」と「二次性不眠」に分類されていた。一次性不眠は不眠そのものが主な問題であり、二次性不眠はうつ病や慢性疼痛、高血圧、糖尿病など別の疾患の結果として生じるものと考えられていた。そのため、二次性不眠の場合はまず原因疾患を治療し、不眠はその結果として改善すると考えられていた。

しかし2000年代以降、この見方に疑問が投げかけられるようになった。研究の蓄積により、不眠は他の病気の単なる「結果」ではなく、独立した病態として存在する場合が多いことが分かってきた。

不眠がうつ病や不安障害に先行して現れるケースもあり、逆に不眠を改善することで精神疾患や慢性疾患の症状が軽減する例も報告されている。こうした知見から、近年では一次性・二次性という区別そのものが見直されつつある。不眠は他の病気と相互に影響し合う独立した健康問題として捉えられるようになったのだ。

米国立心肺血液研究所(NHLBI)の指摘によれば、慢性的な不眠は高血圧や糖尿病、肥満、心血管疾患のリスク上昇と関連している。また、うつ病や不安障害との関係も深く、双方向に悪影響を及ぼすことが知られている。

最近では認知機能への影響にも注目が集まっている。慢性不眠の人では将来的な認知機能低下や認知症リスクの上昇を示唆する研究も報告されている。睡眠は、脳や身体の健康を維持するうえで欠かせない生理機能である。