発達障害をはじめ、特別な教育的支援を必要とする子どもへの支援のあり方が注目されています。
発達障害や発達特性のある子どもを支える家庭では、親が日々の暮らしを支えるためにさまざまな工夫をしています。「手を洗う」「着替える」といった行動をイラストで示した「絵カード」を手書きでつくり、一日の予定として並べて見せる、といった工夫がされているのです。
今回は、行政事業や放課後等デイサービス、学習塾などで発達障害のある子どもの支援に携わってきた筆者が、家庭での支援のリアルな様子と、負担を軽くするヒントになりうるデジタルツールの可能性を、「お金」と「時間」の両面から解説します。
ユーザー調査では保護者の57.9%が働き方を調整。家庭での発達支援と「家計簿に載らない出費」
発達支援ポータルサイト「LITALICO発達ナビ」が2026年6月に実施したユーザー調査(保護者の有効回答623名)では、子どもの通院や療育、学校生活を支えるなかで、保護者の57.9%(361人)が働き方に変化があったと回答しています。
出典:【LITALICO発達ナビ調査】社会や周囲の発達障害への理解「深まった」約6割。一方で保護者の57.9%が子どものサポートにあわせ働き方を調整|株式会社LITALICO
具体的な変化(複数回答)としては、勤務時間・シフトの変更(181人)、パートへの切り替え等(76人)、在宅勤務・時短勤務等の制度利用(61人)が挙げられるほか、「休職・退職・転職」と回答した人も131人います。
さらに同調査では、回答した保護者の76.2%(475人)が、自身の睡眠や心の健康に「変化」を感じると回答しています。子どもを支える保護者自身も、心身への負担を感じていることがうかがえます。
出典:【LITALICO発達ナビ調査】社会や周囲の発達障害への理解「深まった」約6割。一方で保護者の57.9%が子どものサポートにあわせ働き方を調整|株式会社LITALICO
時短勤務やパートへの切り替えは、収入減につながる場合があります。親が支援に費やしている時間や労力は、いわば「家計簿に載らない出費」だとも言えます。
「見通し」と「気持ちの伝達」を助ける視覚支援
一口に発達障害といっても特性はさまざまですが、たとえば自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもには、次のような特性が見られることがあります。
- 先の見通しが立たないことに強い不安を感じ、行動の切り替えが難しい
- 話し言葉でのやり取りが苦手で、気持ちや要望を言葉にしづらい
- 耳で聞くよりも、目で見た情報のほうが理解しやすい
こうした特性への支援に有効とされるのが、情報を目に見える形にする「視覚支援」です。
絵カードを並べて1日の予定を示すことで、見通しを持ちやすくなり、安心につながることがあります。意思表示が難しい子にとっては、カードを指さしたり手渡したりすることが、気持ちや要望を伝える手段になることがあります。
実際、筆者が発達障害・発達特性のあるお子さんを育てるとあるご家庭にヒアリングしたところ、「カレンダーやホワイトボードで月・週・1日の予定を掲示している」「サポートが必要なときに子どもが親に渡す『助けてカード』を用意している」といったエピソードが寄せられました。この家庭でも、子どもの特性に合わせてサポートの方法が工夫されていました。
「身の回りの材料でできる支援=無料」ではない。家計簿に載らないコスト
各家庭での支援の工夫は、子どもの発達を支える一方で、家計から見ると「目に見えないコスト」にもなっています。
例えば、絵カードを作成するためには、手書きもしくはパソコンでカードをデザインし、印刷して切り抜き、場合によってはラミネートまで行う工程が必要です。こうした「子どもと関わる前後の作業」も、家庭によっては発達支援に伴う時間的な負担の一つになります。
筆者がヒアリングした家庭からは、「カードや掲示物の作成に週30分〜1時間ほどかけている」というお話がありました。「そのくらいの時間ならどうにか確保できそう」と思うかもしれません。しかし、問題は実作業にかかる時間ではないのです。
「その子にあった支援グッズ」をつくるまでのトライアンドエラー
筆者は以前、発達障害の子どもたちの教育支援に4年ほど携わっていたことがあります。授業のために絵カードや掲示物を作成しますが、「その子に合った支援グッズ」をつくるのは、思いのほか頭を使う仕事です。
発達障害のある子どものなかには、特定の刺激に対して強く反応するケースが見られます。
筆者が実際に関わった子どものなかには、「黄色を見るとストレスを感じる」「特定のイラストが気になってほかの話が入らなくなる」といったケースもありました。つくったそばから破ってしまう、剥がして隠してしまう——そんな特性に合わせて、素材や貼り方から考え直すこともあります。
家庭での支援グッズづくりは、わが子の特性を観察し、仮説を立てて試す工程であり、目に見える作業時間以上に頭を悩ませるものです。仕事や家事の合間に、このエネルギーを毎週ひねり出し続けることの重さは、時間の長さだけでは測れません。
デジタルツールは何ができて、いくらかかるのか
こうした親の負荷を軽減するために考えたいのが、発達支援をサポートするデジタルツールです。
近年では、スマートフォンやタブレットで使え、家庭でも利用できるコミュニケーション支援アプリが登場しています。
【コミュニケーション支援アプリの例】
えこみゅ
日常で使える200種類の絵カードを音声つきで収録。好きな写真と録音でオリジナルカードも作成でき、表示するカードの選択肢を絞ることもできる。
絵カードメーカー
写真ライブラリ・カメラ・Web検索などから素材を選び、タイトルを入れてA4や好みのサイズにレイアウトし、そのままプリンタやコンビニ複合機で印刷できる
DropTalk
タップすると音声が流れる「シンボル」(イラスト)でコミュニケーションを取れる。コミュニケーションのほか、スケジュール・スケッチ・タイマーの機能も備える。※新規キャンバスの作成やカスタマイズには有料ライセンスが必要。
Voice4u AAC
180種類のデフォルトカードに加え、写真・録音でオリジナルのカード作成も可。録音できない場合は30以上の言語で音声を自動生成できる
アプリによっては、一度つくったカードを修正しやすく、外出先でもスマートフォンやタブレットで利用できます。最近では、生成AIを視覚支援に活用するアプリや研究も登場しており、AIがイラストなどの視覚情報を即時に提示する試みも始まっています。
※生成AIを活用した視覚支援アプリの教育的活用可能性に関する調査研究|日本教育工学会研究報告集
費用はアプリによって異なり、今回紹介したものにも、無料で利用できるものから、月額制、数千円の買い切り型まで幅があります。また、アプリ以前に「タブレット端末そのもの」の購入費がハードルになる家庭もあるでしょう。
※アプリの提供状況・料金は2026年9月時点の情報です。
このようにツールによって費用はかかるものの、先ほどお伝えした通り、支援には親の時間と労力がかかるという事実もあります。紙や印刷などにかかる材料費とアプリの利用料だけを比べるのではなく、手作りにかかる時間や手間まで含めて考える必要があるでしょう。
「親のがんばり次第」から、どう抜け出すか
コミュニケーション支援アプリは、家庭で行う支援グッズの作成など、一部の作業を効率化し、親の時間的な負担を軽減できる可能性があります。時短勤務や退職といった働き方の変化は、状況によっては中長期的な収入にも影響する可能性があります。利用できる公的支援制度を確認しつつ、家庭ごとの負担を見通しておくことも大切です。ツールによって作業時間を短縮できれば、その時間を仕事や家事、休息などに充てやすくなる可能性があります。
一方で、筆者がヒアリングしたご家庭からは、「発達支援に使えるアプリがあることを知らなかった」という声もありました。必要としている家庭に信頼できる情報が届く仕組みが整っていけば、ツールの力を借りて健やかに日々を送れる親子が、より増えていくのではないでしょうか。
■参考
通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について|文部科学省
生成AIを活用した視覚支援アプリの教育的活用可能性に関する調査研究|日本教育工学会研究報告集
【LITALICO発達ナビ調査】社会や周囲の発達障害への理解「深まった」約6割。一方で保護者の57.9%が子どものサポートにあわせ働き方を調整|株式会社LITALICO


