社会が大きく変化し、これまでの常識が通用しなくなる中、私たちはどのように未来へ投資し、人生を幸せに形作ればいいのか。これから20年、100年先を見据える先人たちの知恵を伺い、生存戦略を考える。これからの時代を生きる子どもは、変化に対する強さをどんな環境で育むことができ、大人はそこでどんな役割を担うことができるか。放課後の学校に子どもの可能性を育てる居場所をつくる「アフタースクール」の仕組みを広げてきた放課後NPOアフタースクールの代表理事で、同時に新渡戸文化学園の理事長として学校教育の場でも子どもの主体性を育んでいる平岩国泰さんに訊いた。
ライフワークへと導いた「子どもとの出会い」
アフタースクールの活動を始める前は、流通業に勤めるサラリーマンだった平岩氏。子どもの豊かな時間をつくりだすというライフワークと出会うまでに、どんないきさつがあったのか。
22年前、娘を授かったことをきっかけに、子どものための活動に本格的に取り組むことを決め、「何ができるだろう?」と考えはじめました。ちょうどその頃、子どもが被害に遭う事件が全国的に多発していました。「事件が起こる時間」に注目して当時の私が新聞記事や警察のデータを調べたところ、事件の大半は14時から18時の間、いわゆる放課後の時間に起こっていたので、「放課後の子どもに何か貢献できないかな」と考えはじめました。
そのタイミングでたまたま友人が「アメリカに『アフタースクール』という仕組みがある」と教えてくれました。放課後の学校施設をそのまま利用して、共働き・専業主婦の別なく、すべての家庭の子どもを対象にして、地域住民などの大人が「市民先生」となって行ういろいろなアクティビティがあること。自分自身の課題意識、解決に貢献できること、情熱をかけられることがひとつの串でつながり、「放課後をもっとよくするために、この仕組みが日本でも広がるように」とやるべきことが固まりました。
それ以降、平岩氏が一貫して子どもの居場所づくりを続けてきたのには、活動の初期に子どもの変化を目の当たりにしたことが大きく影響したという。
会社の休日だった水曜日に、公民館を借りて放課後プログラムの提供を始めました。最初は地元の和食料理人の方に2カ月の和食教室をやってもらい、4人の子どもが参加してくれました。
そのうち一番年上だった小学4年生の男の子が、プログラムを通じてみるみる元気になっていったんです。彼は学校生活がうまくいかず自信を失っていたところ、70代の和食の市民先生が、一番年上だった彼を「君は俺の一番弟子だ」と言って可愛がってくれた。公民館に駆け込んできたその子に「よく来たな。君が来てくれないと、俺は困るんだよ」と言葉をかけていたことがずっと印象に残っています。その子は学校生活では自分が好きになれない状況だったと伺いましたが、放課後に大人から信頼され、必要とされたことですごく元気になったんです。
こうした出会いを目の当たりにしてアフタースクールの仕組みに可能性を感じ、NPOを設立し、勤めていた会社を卒業して、アフタースクールの運営に注力するようになりました。
次の段階として東京・世田谷区の学校内の放課後施設にプログラムを提供していた頃、ちょうど「学校にアフタースクールをつくりたい」と考えていた新渡戸文化学園と出会い、私たちが考えるアフタースクールの第一号を新渡戸文化学園につくることになりました。
それからNPOはさまざまな学校のアフタースクールを運営・サポートしてきた一方、私個人としても新渡戸文化学園の学校運営を手伝うようになったところから、2019年に学園の理事長に就任し現在に至ります。

「自分で選び、自分がつくる」空間が、生きる力を育てる
子どもが豊かな時間を過ごせる居場所とは、一体どんなところか。平岩氏は長年の経験からこう考える。
「子どもが選ぶ」ことと「子どもとつくる」ことの2つが揃った時にとてもいい場ができるというのが、僕が20年かけて培ってきた結論です。
アフタースクールではスポーツや音楽、工作などさまざまなプログラムが行われていて、いろいろな得意に出会えますが、それに加えてさらに奥にある「子どもが自分で活動を選べる」ことがとても大切です。プログラムに参加してアクティブに過ごしたい子もいれば、漫画を読んだり昼寝したりしてゆっくり過ごしたい気分の子もいる。自分で過ごし方を選べると、どの子も満足できるんです。
ですから私たちも、なるべく宿題やおやつの時間などは決めず、いくつもある居場所から好きな場所を選んで過ごせる仕組みにしています。
もうひとつ大事なのは、ルールや環境といった場そのものを子どもと一緒に「つくる」ことです。そういった場では小学3~4年生にもなると年下の子の面倒をスタッフの代わりにみてくれる子も出てきて、「この場所は自分たちでつくっているんだ」という意識がだんだん出来てきます。自分でつくると子どもたちはその場を大切にしてくれるのです。
アフタースクールでは、子どもたちは思い思いの時間をのびのび過ごしている。(提供:放課後NPOアフタースクール)
子どもの成長を見つめてきた平岩氏は、今の時代に生き抜くために必要な力をどう捉えているのか。
これからの時代には「アップデートできる力」が重要で、そのために「いまの状況から一歩出てチャレンジする力」が大切になってくると思います。子どもの頃に体験を通じてその力を育むことができるかどうかは、人の成長をかなり決める部分でしょう。
自分の人生の主導権が自分にあることを理解して、その責任を引き受けた子どもは成長していく感覚があります。大人もそうですが、他責にばかりする人は伸びない。小学生でも、低学年の子を見てあげるような体験を通じて「自分はしてもらうばかりでなく、他の人に何かをしてあげられる存在なんだ」という自己肯定感を育むことができると、責任を引き受けるようになって成長していくと感じます。
学校を「自分を見つける」場所にするために必要なこと
「選ぶ」「つくる」という観点から、平岩氏は学校教育の構造的な課題を指摘する。
現代の教育は、「子どもに自由にさせると必ずしも望ましい行動ができない」という考えが前提にあるように見えます。だからカリキュラムを隙間なく埋めたり、毎日宿題をやらせたり、校則をガチガチに固めたりする。中学・高校・大学と3年おきに受験があるので、脇目も振らず直線的に勉強せざるを得ない。中学は高校受験のため、高校は大学受験のために存在しているように捉えられてもいます。
けれども特に中学生・高校生は、むしろ曲線のようにいろいろな価値観に触れたり、いろんな場所に行ったり、多様な人に出会ったりして、迷って考えて、自分の「芯」を探してほしい時期です。子どもだけでなく我々大人だって、「自分は何者か」ということを一番知りたい。何にだったら一生懸命になれて、どんな仕事を選んで、どんな生活をしたら幸せになれるのかを探しているわけです。
今の日本の教育は、学力を高くする代わりに「自分を見つける機会」を狭めてしまっているように見えます。もちろん学力が高いこと自体は悪いことではないので、教科の勉強を疎かにするのではなく、いい按配を探していけるといいですね。
教育についてそう考えている平岩氏は、2019年からは新渡戸文化学園の理事長も務める。普段の授業に加えて、生徒が自分を見つけるための回り道の機会をどのように作っているのだろうか。
私たちの学校でも、生徒自身が「選ぶ」ことを大事にしています。中学校と高校では、水曜一日はカリキュラムを白紙にして、自分が選んだテーマについて探究活動をしてもらっています。生徒たちは学内で活動するだけでなく、学校の外でフィールドワークをしたり、大学や企業を訪ねたりしています。
テーマを見つけるにあたって我々学校側は、本人が何が好きかや、何に興味があるかを訊いていきます。「自分の知りたい」だけだとテーマに広がりや深みが出ない時には、「誰かの笑顔」とかけ算すると探究活動になります。例えば「甘いものが好き」という自分の嗜好に「飲み込む力が弱っている人の笑顔」をかけ算すると、「嚥下障害の人のためのスイーツを探究する」という立派なテーマになるのです。

大人は誰しも、子どもの「良き出会い」になる可能性を秘めている
「自分以外の誰か」について考えることが「自分のテーマ」を見つけるヒントになる。そこで、他者と出会う機会として行われている試みのひとつが「スタディツアー」だ。
生徒は、学校が提携している町から行きたい場所を選び、数日を過ごします。行先は観光地ではないので、宿のない町では民家に泊まったり、寝袋で寝たりします。そこで過疎や産業の衰退といった日本のリアルな光景を見つつも、一生懸命生活を営んでいる素敵な人たちと出会います。
例えば三重県の二木島という漁村は高齢化と過疎化が進んでいて、コロナ禍をきっかけに地域のお祭りが途絶えてしまいました。そこに東京から毎年若い人が来るようになったことでお祭りが復活し、さらに「途絶えてしまった郷土料理が食べたい」という声に高校生が応えて、復活させた料理をお祭りで売り、地元の新聞にも一面で取り上げられました。
翌年のお祭りでは別の郷土料理を復活させることになり、「じゃあ来年まで生きないとね」と言ってくれたおばあちゃんがいたりと、交流を通じて地元の方々が元気になっています。さきに挙げた「自分で選ぶ」「自分がつくる」ことに加えて、わくわくする人や興味に「出会う」ことも、子どもの成長にとって重要なエッセンスになっています。
そして私たち大人は、子どもが豊かな時間を過ごし、主体性を育む「伴走者」になれると平岩氏は考える。
子どもが主体的に探究していくにあたっては、寄り添って励ましてくれる伴走者としての大人の存在が必要です。親や先生はどうしても役割に縛られがちですから、それとは別にアフタースクールの市民先生のような、子どもへの役割に縛られず、いろいろな生き方をしている第三者が伴走してあげられると、子どもはもっと豊かに生きられる。
そして親や先生を含めて、子どもの前に立って引っ張るのではなく、「斜め後ろ」から見守ってあげる大人が増えていったらいいなと思います。はじめのうちは大人が前に立って先導することも必要ですが、だんだん後ろに下がって、斜め後ろから見守るようになってほしい。
これまでいろいろな大人と接してきた経験から、次世代に貢献したい気持ちがある人なら、誰もが伴走者としての資質を持っていると感じます。けれどもほとんどの人には貢献できる場所と機会がないので、私たちはその間をつなげる仕組みをつくり、人を巻き込む役割を担っています。
その役割をよく「ミツバチ」に喩えます。外に飛んでいっていい人を見つけ、子どもたちのところに持って帰る。私たちが飛べば飛ぶほど、いろんな人が子どもに関わってくれるようになる。その先に「みんなの子どもをみんなで育てる社会」を創っていきたいと願っています。
自分自身も「子どもとの出会い」から人生のテーマを発見していった平岩氏。取材時に見学したアフタースクールでは、全力で楽しむ子どもたちの活気あふれる声が印象的だった。「選ぶ」「つくる」「出会う」の3つは、子どもにとってだけでなく、私たち大人にとっても変化の時代を生き抜く強さを育てるヒントになるはずだ。
【プロフィール】
平岩 国泰(ひらいわ・くにやす) 放課後NPOアフタースクール代表理事、新渡戸文化学園理事長、渋谷区教育委員教育長職務代理者。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、経営企画・人事などを担当。2004年長女の誕生をきっかけに放課後NPOアフタースクールの活動開始。2017年より渋谷区教育委員。2019年より新渡戸文化学園理事長。
写真提供:放課後NPOアフタースクール、新渡戸文化学園
取材・文:甲斐荘秀生 写真:松田麻樹 編集:Pen編集部