欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、2021~2024年には欧州で国内感染型のデング熱の流行が増加し、EU加盟国13カ国でヒトスジシマカの定着が確認された。
2026年9月時点で米フロリダ州ヒルズボロ郡では、海外渡航などによらないデング熱の感染が130例を超え、死亡例も確認されたと報じられた。デング熱は発熱、頭痛、目の奥の痛み、筋肉痛、関節痛、発疹などを引き起こし、重症化すると出血やショックにより命に関わることもある。
欧州でもリスクは高まっている。気候変動に関する欧州地域の国際研究プロジェクト「Lancet Countdown Europe」は2026年の報告書で、デング熱の気候的な感染適地に基づく流行リスクが、1981~2010年と比べて2015~2024年には欧州全体で297%増加したと推計した。
なお、これは実際の患者数が297%増えたという意味ではなく、気候条件からみた流行リスクの上昇を示す。
東アジアでも変化は進んでいる。中国では2025年、広東省を中心にチクングニア熱の大規模な国内感染が発生した。
WHOによると、同年9月27日時点で広東省では1万6452例の国内感染が報告され、中国で記録された最大規模の流行となった。主な症状は突然の発熱や激しい関節痛、筋肉痛、頭痛、発疹などで、関節痛が長期間続く場合もある。
WHOによれば、2025年1~9月には世界40カ国から疑い例・確定例が計約44万5000件報告された。
日本も例外ではない。2014年には東京都の代々木公園などを中心に、デング熱の国内感染が160例確認された。2019年にも、京都・奈良への修学旅行に参加した東京都内の高校生2人が感染した。国内でデング熱が日常的に流行しているわけではないが、媒介蚊の生息環境が変化するなか、これまでの経験だけで安全と判断することはできない。
「気候×医療」で感染症に備える
気候変動と感染症の関係を考える際には、過度に不安をあおるのではなく、科学的な知見に基づいてリスクを理解することが大切だ。温暖化が進めば、すべての感染症が世界中で増加するわけではない。地域ごとの気候、生態系、社会環境によって影響は異なる。
重要なのは、人間の健康だけでなく、動物や環境の変化も一体として捉える「ワンヘルス」の考え方だ。例えば、気象データと蚊の生息状況、感染者数などを分析すれば、感染リスクが高まる地域や時期を予測し、流行前に対策を強化できる可能性がある。
地域住民への情報提供、医療従事者の研修、検査体制の整備、ワクチンや治療へのアクセス改善など、地域の実情に応じた準備も必要になる。気候変動対策と感染症対策を別々に進めるのではなく、環境・農業・医療・行政が連携することが求められる。感染症は国境で止まるものではなく、気象や生態系の変化も一国だけでは管理できないからだ。
