上司と部下の信頼関係は、一度築けば維持されるものではなく、日々の出来事によって揺らぎ、修復されながら変化する。パーソル総合研究所と九州大学大学院(池田浩研究室)は、企業で働く上司(リーダー)1,775人と部下(メンバー)1,636人を対象に、信頼が揺らぐ出来事やその後の反応、修復までのプロセスを調査した。

過去3カ月以内に信頼低下を経験した割合は双方で約3人に1人。また、リーダーは相手の業務遂行を、メンバーは相手との関わり方を重視するなど、信頼の判断基準にも違いがみられた。職場のマネジメントや部下育成、人事施策を考えるうえで、信頼がどこで損なわれ、どう修復されるのかを捉える手掛かりになる。

リーダー33.3%、メンバー34.7%が3カ月以内に信頼低下

過去3カ月以内に相手への信頼が低下する出来事を経験した割合は、リーダー(n=1,775)で33.3%、メンバー(n=1,636)で34.7%だった。いずれも約3人に1人となる。

リーダーでは「大きく低下」が6.4%、「やや低下」が13.8%、「わずかに低下」が13.1%だった。メンバーではそれぞれ9.4%、12.1%、13.2%となっている。

リーダーは「何をするか」、メンバーは「どう関わるか」を重視

信頼を判断する基準にも、リーダーとメンバーで違いがみられた。

リーダーは、報告・相談や仕事の遂行、責任ある行動など、メンバーが「何をするか」を重視する傾向があった。一方、メンバーは、説明や傾聴、支援など、リーダーが「どう関わるか」を重視していた。

調査では、リーダー側の判断基準を「遂行的信頼」、メンバー側を「関係的信頼」と整理しており、上司と部下の間には信頼の「非対称性」があるとしている。

信頼が揺らいだ後の反応にも違いがあった。リーダーは相手を注意深く見る「監視行動」を強める一方、「声を上げる」「関係再交渉」といった関係修復に向けた行動も多くみられた。

これに対し、メンバーは「距離化」「監視」「沈黙」といった回避的な反応を示す傾向があった。調査では、メンバーの信頼低下は表面化しにくく、リーダーが気づかないまま関係が悪化する可能性があるとしている。

信頼低下はリーダーの育成意欲、メンバーのモチベーションにも影響

信頼が揺らいだ後、リーダー側では「育成意欲の低下」「メンバーへの心理的距離・期待の低下」「リーダー自身の負担増加」の影響が相対的に大きかった。

一方、メンバー側では「モチベーションの低下」と「心理的距離・期待の低下」の影響が大きく、関係の質・協働やチーム・組織への波及でもリーダー側より値が高かった。

また、信頼低下との関連が最も強かった感情は、リーダー・メンバーとも「怒り・反発」だった。相手の行動を「わざと行った」などと受け止めた場合には信頼低下が大きく、課題の難しさや状況に原因を求めた場合には、低下が相対的に小さかった。

信頼修復行動、メンバー約5割に対しリーダーは約3割

信頼が低下した後の修復行動にも差がみられた。

リーダー(n=1,775)から見たメンバーの修復行動は約5割だったのに対し、メンバー(n=1,636)から見たリーダーの修復行動は約3割だった。

例えば「自分の責任を認めた」は、メンバーの信頼修復行動をリーダーが評価した割合が51.0%だったのに対し、リーダーの信頼修復行動をメンバーが評価した割合は29.0%だった。「その後も継続的に関わろうとした」も、それぞれ54.7%、36.7%となった。

調査では、リーダーの修復行動がメンバーから十分に認識されていない可能性が示唆されている。

信頼修復は「理解→納得→安心→再期待」と段階的に進む可能性

信頼修復行動と心理状態との関連を分析したところ、信頼の修復は一度の謝罪だけで完結するのではなく、「理解」「納得」「安心」「再期待」という段階を経て進む可能性が示された。

リーダーがメンバーへの信頼を修復する場合、修復初期の「理解」には原因・経緯の説明が関連していた。「納得」には再発防止に向けた行動変容と謝罪の表明が関連しており、その後の「安心」「再期待」へとつながるプロセスが示唆された。

メンバーがリーダーへの信頼を修復する場合も、「理解」「納得」「安心」「再期待」の段階を経る可能性が示された。「理解」には原因・経緯の説明、「納得」には再発防止のための行動変容や感情への配慮が関連していた。

また、「再期待」に至るためには、相手の感情への配慮や意見・不安の傾聴、再発防止に向けた行動が関連していた。

信頼が揺らいだ後の対応も職場づくりの一部に

パーソル総合研究所は、メンバーには違和感や不満を放置せず、事実と解釈を切り分け、沈黙ではなく対話を選ぶことを提言している。リーダーには、日頃から信頼を積み重ねるとともに、信頼が揺らいだ際には説明、責任の受容、謝罪や行動変容、継続的な関与と段階的に修復することを挙げた。

職場で信頼が揺らいだと感じた場合は、出来事と解釈を切り分け、原因や経緯を確認したうえで対話することが一つの手掛かりになる。ハラスメントや安全に関わる事案では、当事者間だけで抱え込まず、相談窓口や人事など第三者を通じた適切な対応が求められる。

調査名称:パーソル総合研究所・九州大学「信頼の揺らぎと修復のメカニズムに関する研究(上司と部下の信頼関係に関する研究Phase2)」 調査対象:企業で働くリーダー(管理職)1,775名(男性1,321名、女性454名)、メンバー(非管理職)1,636名(男性842名、女性794名) 調査方法:調査会社のアクティブパネルを用いたアンケート調査(Web方式) 調査時期:2026年3月9日~17日 実施主体:パーソル総合研究所、九州大学大学院 池田浩研究室 ※定性分析:出石琴美(ユトレヒト大学)

出典:信頼の揺らぎと修復のメカニズムに関する研究(パーソル総合研究所)