円安や物価高が続く中、資産を日本円だけで持つことへの不安を感じる人は少なくありません。米国株や投資信託、外貨預金などを通じて、資産の一部を米ドルなどの外貨建てで保有することも、以前より身近になりました。

一方で、変わりつつあるのは「貯め方」だけではありません。インターネットを通じて海外の企業や顧客から直接仕事を受ければ、日本に住みながら米ドルで報酬を得られます。かつて「外貨を稼ぐ」といえば海外赴任や出稼ぎを連想しましたが、暮らす場所と収入の通貨は、必ずしも一致しなくなっています。

そこで、次のような疑問が浮かんできます。

ドルを「持つ」方法はたくさんあります。では、「使う」にはどうすればよいのでしょうか。

この問いを考えるうえで選択肢の一つとなるのが、米ドルなどの法定通貨の価値に連動するよう設計された「ステーブルコイン」です。

「貯めるドル」に加わる新たな選択肢

日本から米ドル建ての資産を持つ方法には、外貨預金、外貨建てMMF、米国債、米国株や投資信託などがあります。

これらに対し、ステーブルコインには異なる使い方があります。代表的な米ドル建てステーブルコインのUSDCは、1 USDC=1米ドルの価値を維持するよう設計されています。USDCは米ドルそのものではありませんが、対応するウォレットやサービスを通じて保有・送付でき、サービスによっては決済にも利用できます。

「ドル建ての価値のまま受け取り、持ち、送り、使う」。

USDCでは、対応するウォレットやサービスを利用することで、こうした一連の使い方ができる点が特徴の一つです。

米国ではステーブルコインが「裏側」に入り始めた

2025年7月、米国で決済用ステーブルコインの連邦規制の枠組みを定める「GENIUS Act」が成立しました。発行者や準備資産、償還などに関するルールを定めた法律で、2026年9月現在、米財務省などによる規則策定が進められており、法律の発効は2027年1月18日が見込まれています。

2025年7月、米国で決済用ステーブルコインの連邦規制の枠組みを定める「GENIUS Act」が成立した(写真:Official White House Photo by Daniel Torok)

こうした制度整備と並行して、既存の決済網でもステーブルコインの活用が始まっています。Visaは2025年12月、米国でUSDCを使った決済(settlement)を開始しました。米国のカード発行会社や加盟店契約会社が、Visaとの資金決済にUSDCを利用できる仕組みです。

興味深いのは、Visa自身が「消費者のカード体験に変更はない」と説明していることです。カード利用者はこれまで通りドルで支払い、その裏側にある金融機関同士の資金移動でUSDCが使われます。

Visaの事例では、利用者自身がUSDCを直接操作するのではなく、既存のカード決済を支える金融機関間の資金決済にステーブルコインが使われています。

新興市場で注目されるステーブルコイン

もっとも、多くの米国人にとって、USDCでドル建ての価値を持てること自体に大きな新しさはありません。給与も預金もドルであり、日常生活もドルで完結しているからです。

意味が大きく変わるのは、米国外です。

Stripeが2026年8月に公表した、20カ国・2300人超の独立系ワーカーを対象とする調査では、57%が、プラットフォーム側が選択肢を提供すればステーブルコインで報酬を受け取る意向を示しました。一方、新興市場の独立系ワーカーでは、18%がすでにステーブルコインで報酬を受け取っていました。

自国通貨の価値が大きく変動する国では、米国の銀行口座を持たなくてもドル建ての価値にアクセスできること自体が、生活を守る手段になり得ます。

ステーブルコインは「米国人のためのデジタル通貨」というより、ドル建ての価値にデジタルでアクセスし、移転するための手段として、米国外でも利用されています。

日本での使い方、「いつ円に替えるか」を選ぶ

では、日本に住む私たちにとってはどうでしょうか。

日本で海外から外貨建ての報酬を受け取る場合、選択肢の一つとなるのが、すぐに円へ交換せず、必要に応じて円に替えるという使い方です。

海外から外貨建ての報酬を円預金口座で受け取る場合、銀行によっては所定の為替レートで円に換算されて入金されます。この場合、円換算額は換算時点の為替レートに左右されます。

USDCで受け取る場合は、対応するサービスを利用することで、すぐに円へ替えずにUSDCのまま保有し、必要に応じて円へ交換することができます。

USDCは保有しているだけで利息が付く商品ではありません。ただし、レンディングなど、USDCを貸し出して対価を受け取るサービスはあります。

海外のファンから受け取り、そのまま海外へ払う

例えば、海外のファンからイラスト制作の依頼を受けている日本のクリエイターを考えてみましょう。

例えば、依頼主がUSDCでの支払いに対応していれば、クリエイターは受け取ったUSDCをすぐに円へ替えずに保有し、必要な分だけ円に替えるといった使い方ができます。ただし、利用するサービスによって取引額や入出庫、対応ネットワークなどに制限があります。

逆方向の流れもあります。海外のアーティストを応援したい日本のファンも、USDCを持っていれば、相手が対応している場合にはUSDCのまま送ることができます。

USDCに対応するサービスや支払先を利用することで、円への交換を挟まず、「受け取る・持つ・使う」をつなげることができます。

日本でも「使うドル」の土台が整い始めた

暗号資産に対して、価格変動や規制などのイメージから距離を置いてきた人もいるでしょう。しかし、法定通貨の価値に連動するステーブルコインについては、日本でも利用するための制度がすでに整備されています。

2023年6月から、法定通貨と価値が連動するいわゆるステーブルコインの仲介などを「電子決済手段等取引業」として規制する制度が始まりました。米国でGENIUS Actが成立する約2年前です。

国内では、ステーブルコインの売買や交換、その媒介などを行う「電子決済手段等取引業者」として登録を受ける事業者も登場しています。2025年3月、SBI VCトレードが電子決済手段等取引業者として国内で初めて登録を受け、USDCの一般向け取扱いを開始しました。日本円でUSDCを売買できるほか、Ethereumネットワークを利用した外部ウォレットなどとの入出庫にも対応しています。2026年8月にはコインチェックも登録され、国内の電子決済手段等取引業者は2社となっています。

「増やすドル」ではなく「動かすドル」

USDCは米ドルとの価値連動を目指して設計されており、値上がり益を狙うことを主目的とした商品とは性格が異なります。

もちろん、外貨預金や外貨MMFの代わりになるわけではありません。USDCを持っているだけで通常は利息が付くわけではなく、発行者や利用サービスの信用リスク、ウォレット管理、誤送金、税務など、銀行預金とは異なる注意点もあります。「有利なドル運用商品」ではなく、ドル建ての価値を持ったまま動かすための新しい手段と考えるほうが実態に近いでしょう。

海外から報酬を受け取ったり、国境を越えて支払いをしたりする場合、「どの通貨で受け取り、どの通貨で持つか」も選択肢になります。

外貨預金や外貨建て金融商品が主に「貯める」「運用する」ために使われるのに対し、USDCでは、対応するサービスを通じてドル建ての価値を「受け取る・持つ・送る・使う」ことができます。

ステーブルコインは、外貨を運用する新たな商品というより、ドル建ての価値を保有しながら移転するための新たな手段として捉えると、その特徴が見えてきます。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品や電子決済手段の取引を勧誘・推奨するものではありません。電子決済手段は価格変動等により損失が生じるおそれがあります。取引はご自身の判断と責任で行ってください。

■参照元

Circle「USDC」

U.S. Department of the Treasury「Treasury Issues Proposed Rulemaking to Implement the GENIUS Act」

Visa「Visa Launches Stablecoin Settlement in the United States, Marking a Breakthrough for Stablecoin Integration」

Stripe「Why global workers are driving demand for stablecoin payouts」

金融庁「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業」

SBI VCトレード「電子決済手段等取引業者の登録完了に関するお知らせ」

SBI VCトレード「USDC一般向け取扱い開始」

SBI VCトレード「ステーブルコインを活用した『USDCレンディング』開始のお知らせ」

金融庁「暗号資産・電子決済手段関係」