Web3は「信頼のインフラ」

──2026年現在、SNS、ECなども含め、大型プラットフォームに依存した一般的なWebサービスを利用している人が圧倒的に多く、分散型インターネットとも言われるWeb3は、暗号資産などを保有している一部の人の利用にとどまっている印象です。Web3利用は多方面で広がっていくと予測されているにも関わらず、理解が深まっていないという状況ではないでしょうか?

施井:確かに今の段階でWeb3を利用している多くの人は、投資などへの感度の高い人かもしれませんね。

Web3は、国や巨大企業などの仲介者がいなくても、データや取引の信頼性を正しく担保できるという意味で、まさに「信頼のインフラ」であると言えます。一般的には、暗号資産であるビットコインの社会実装のために発明されたブロックチェーンという技術を応用した、アプリケーションやサービスなども含めてWeb3と呼ばれることが多いですね。僕は法整備が進めば、2、3年で一気に広がるのではと考えています。

  • 施井泰平 スタートバーン代表取締役

──先ほどWeb3を「信頼のインフラ」とおっしゃいましたが、具体的にはどういった仕組みで信頼性を担保しているのでしょうか?

施井:例えば、服を売る場合、一般的なWebサービスではネット銀行やECプラットフォームなどの仲介サービスを利用する人が大半です。個人同士の直接取引では、相手がどんな人か分からないので、入金が先か、服を送るのが先か話し合いが必要になったり、相手によっては入金されず、服だけがとられてしまうリスクもあります。

一方、Web3はブロックチェーンという改ざんが極めて困難な、みんなで監視が可能な信頼できる情報基盤があり、そこにはプログラムコードを置くことができるので、「入金確認ができたら服の所有権を購入者に変更する」という取引ルールをプログラムすれば、自動で実行し続けてくれます。つまり、一般的なWebサービスでの仲介者の役割をプログラムコードが担ってくれるわけです。

──改ざんが難しい自動実行プログラム上でのやり取りなので、Web3は信頼性の高い情報基盤になり得るのですね。

Web3はセキュリティ強化などが強みとして挙げられる一方、混雑時の遅延問題があること、法整備が追い付いていないなどの課題もあります。ブロックチェーンを活用したサービスを提供している立場から、Web3に実務上どのような利点と課題を感じていますか?

施井:僕たちは、2016年からブロックチェーン上にアートの来歴を記録管理するサービスに取り組んでいます。

現実のアート作品は、アートギャラリーが発行する証明書でしか価値を証明する方法がなかったのですが、これを不動産登記のように、作者や過去の所有者などの来歴をブロックチェーン上に入れることで、どこで取引をされても、偽造が極めて困難な情報という作品の価値を継承できるようになったのは大きい利点ですね。

一方で、アート業界はまだアナログな部分が多く、デジタル情報を残していくことの価値について、現場での理解が追い付いていないとも感じています。

トークン化できる現実資産は多様化している

──現実の資産をデジタル化(トークン化)するRWAで扱われる資産は、不動産や金融資産、アートやワイン、時計、ゲームなどがあります。トークン化の仕組みはものによって異なるという理解で良いでしょうか?

施井: RWAにおけるトークン化は、FT(代替可能トークン)とNFT(非代替性トークン)の2タイプに大きく分けられます。

金融資産や不動産の多くはFTでトークン化を行います。例えば、AさんとBさんがC社の株式をそれぞれ10株持っている場合、その株式に違いはなく、同じ内容の権利を持っていることが分かれば、1株ごとにAさんの株か、Bさんの株かを判別する必要はありません。

しかし、アートやワイン、ブランド品などは違います。同じ作家の作品でも、一つひとつ違いがありますし、同じワイナリーで造られた同じ年のワインでも、一つとして同じものがない(代替不可能=ノン・ファンジブル)からこそ、NFT(非代替性トークン)を使って、個別で所有者が誰なのかを管理するのです。

ここで大切になるのが「デジタル上のNFT」と「現実世界のモノ」を確実につなぎ合わせること。そこで、その現物が本物であるという「真贋(しんがん)証明」や「唯一性」を担保するために、ICチップ(NFCタグなど)を活用します。現物に物理的なチップを取り付け、それをスマートフォンなどで読み取ることで、ブロックチェーン上のNFT情報と現物を一対一で強固に紐づける仕組みがとられています。

──御社では、2019年から「SBIアートオークション」でのブロックチェーン証明書の発行を、2021年からは「集英社マンガアートヘリテージ」での証明書発行サービスを提供されています。これらは、投資対象としての「デジタル証券(RWA)」とは少し性質が異なるように思えますが、これらもRWA(現実資産のトークン化)に含まれるのでしょうか?

施井:僕たちのサービスは資産を「証券化」しているわけではないですが、Ethereum公式解説の定義上はRWAです。流通管理や証明書として独自規格のNFTを使用しています。アート作品は、歴代の所有者や、どのギャラリーで購入したのかが「本物であること」の証明の助けになります。例えば、有名作家の絵でも、蚤の市で購入した場合より、老舗のギャラリーで購入した方が真作と判断されやすい。信頼できるオークションハウスやギャラリーで購⼊したといった来歴の記録は、将来的に絵の価値につながる可能性があります。

「集英社マンガアートヘリテージ」でも同様です。こちらでは、極めて精密につくられたマンガの複製原画などの購入者に対して、NFCタグが搭載された紙の証明書を発行しています。そのタグ(ICチップ)をスマホで読み取るだけで、作品の情報や作家名、歴代所有者のIDまでを、改ざん不可能なかたちで確認できる仕組みです。

  • 左がシールタイプとカードタイプのNFCタグ。タグを読み込むとスタートバーンが提供しているプラットフォーム「Startrail PORT」で右のように情報が画面に表示される。

施井:紙の証明書以外にも、絵画であればキャンバスの裏側にNFCタグを直接貼り付けたりする場合もありますし、証明書の発行方法はものによってさまざまです。例えば、高級ワイン用にはキャップシール部分にICチップを付けて、開けた段階でチップが壊れるように設計されているものもあり、偽造ワインでよく使われる手段の中身の詰め替え防止も兼ねていたりするんです。

──チップが壊れることで、読み取りができなくなったり、そのワインは開封済みとブロックチェーン上に情報が乗るということですね。対象となる資産によって、ICチップの付け方にも違いがあるのは興味深いですね。

  • NFTを包括的に管理する「Startrail PORT」では、自身が所有する作品のアーカイブとして利用するだけでなく、NFT発行や新しい所有者への移転も簡単に行える。

Web3が生み出す新しい市場 二次流通時の還元金から通貨まで

──Web3やRWAで今、話題のトピックとは。

施井:話題のサービスでいえば、全国にある有名建築家が手掛ける大型ヴィラの不動産の共有持分を所有し、さらに会員権や宿泊券の管理などにNFTなどのWeb3技術も取り入れ、年間で数日、宿泊できる権利を資産として所有できる「NOT A HOTEL」ですね。自分で別荘として利用してもいいですし、ホテルとして貸し出しもできたり、権利トークンを二次流通市場で売るなど、柔軟に使い分けができるのもあって、うまくいっている印象です。

あとは、「ステーブルコイン」がかなり使いやすくなったというのも大きなニュースですね。

──2023年6月施行の「改正資金決済法」で、ステーブルコインが電子決済手段として定義され、発行元は銀行、資金移動業者、特定信託会社の3つに限定されました。発行元の健全性が明確になり、国内でもステーブルコインの利用が広がっています。実際に2025年10月には、日本初の日本円建てのステーブルコイン「JPYC」(資金移動業型)が発行、2026年6月からは日本円建ての信託型ステーブルコイン「JPYSC」が発行されました。また、規制改正で2026年6月1日から、一定の要件を満たす外国発行のステーブルコインについて、日本国内で「電子決済手段」として取り扱うための制度も整備されています。

施井:ビットコインをはじめ、暗号資産はどうしても価格の変動が大きいので、決済手段として使いにくいんです。一方、ステーブルコインは安定した通貨として使えること、少額でも安価で送金できるサービスもあるので、僕たちのサービスでも還元金の送金などに利用できるようになるかなと考えています。最近ではAIエージェントによる自動取引での利用も注目されております。

──Web3やRWAの利用が広がっていくには、ルール整備が欠かせませんが、現在の世界と日本の法整備の状況をどう見ていますか?

施井:ブロックチェーンの技術や暗号資産、NFTにおいてさまざまな詐欺事件や、暴騰暴落の激しい市場、資産の流出など、悪い印象を持ってしまった人が多く、Web3からかなり離れてしまったんですよね。

でも、確実にルールの整備は進んでいます。米国では暗号資産やデジタル資産の規制明確化に向けた法整備をめぐり曲折はありつつも、議論と着実な前進が続いています。日本でも先ほど話したステーブルコインの制度整備や、金融庁、財務省、日本銀行、民間金融機関などが国債や株の即時決済ができるブロックチェーン基盤を作るための協議が始まるという報道もあり、環境が整えられつつあると感じます。

また、私自身は「二次流通時の還元金」の仕組みの整備に取り組んでおり、2006年に日米両国で特許を取得しました。

以前から作家は、最初に作品を売った時しか収入を得られないという課題を抱えていました。駆け出しの頃に数万円で販売した作品が、10年後に二次流通で数億円で売れたとしても、作家には一銭も入らないわけです。著作権法の追求権なども含めて、国やプラットフォームごとに還元金が支払われるかどうかは異なりますが、いずれはブロックチェーン上に二次流通が起きたと情報が出たら、当たり前に還元金が受け取れるようになるといいですよね。

──さらに法整備が進めば、Web3でできることも増えそうですね。

施井:Web3の魅力は、国も企業の壁も超えた利用ができるところだと思うんです。例えば、不動産だったら、物件のメンテナンス企業の情報、いつ、どんなメンテナンスをしたのかの情報があれば、購入者も安心できるし、売る側も付加価値としてアピールできますよね。そういった非競争領域の情報をメーカー、メンテナンス会社、管理会社などがみんなで共有しながらアップデートすることができるような世界がWeb3によって実現できるのではないかなと思います。

スタートバーンとしては、そういった情報共有がアート業界でも広がって、もっとアートが民主化することを期待しています。あとは、これからAIの時代になって、誰もが自分でソフトウェアを作る時代になってくると思います。僕たちのサービスを使いやすくするのはもちろん、AI時代に対応できるようにアップデートを加速させていきたいです。

──近い将来、Web3が私たちの生活の中で当たり前になる日が来る可能性が高いことがよく分かりました。本日はありがとうございました。


取材・文=髙橋優子 写真(提供)=スタートバーン 編集=Forbes JAPAN / フリート