ニッポンの飲酒シーンが劇的に変化しつつあります。

厚生労働省の統計によると、日本の成人一人あたりの年間アルコール消費量は、ピーク時(1992年)に比べて約2割強減少しているそうです。一方で、お酒の銘柄にこだわる人が増え、希少な限定酒が飛ぶように売れているのもまた事実です。

酔えれば何でもいいという時代は終わり、本当にお酒を楽しみたい人同士で、いいものをじっくり味わいたいと考える大人や、ソバーキュリアス(お酒を飲める人が、あえてお酒を飲まないという選択をするライフスタイル)層も増えています。

日本の飲酒シーンが大きく変化し続ける中、いま求められるお酒とは?

第一回のテーマは、「日本酒」。

いま、日本酒の世界で何が起きていて、どんな日本酒が選ばれているのか――日本酒の最前線に迫ります。 東京都内に7店舗を構え、日本酒の動向に精通する『はせがわ酒店』の取締役で、日本酒の動向に精通する長谷川ききょうさんにお話を伺いました。

消費者も造り手も酒への向き合い方が変わった

――特にコロナ禍以降、お酒の席が減り、「とりあえずビール」という言葉も影を潜め、自分の意思で選び、納得して口に運ぶ「理由のある一杯」を求める大人が増えている印象があります。「はせがわ酒店」の取締役として、日々、日本酒の動向に触れている長谷川さんの目には、今の日本酒シーンはどう映っていますか?

ここ数年、「はせがわ酒店」に来てくださるお客様を見ても、30代、40代の方々を中心に、有名な銘柄だから購入するのではなく、「この酒蔵のこういうスタイルが好きだから欲しい」と、自分の好みを確立されている方が増えたと思います。もちろん、時代に即して、お酒を嗜まない層に向けたノンアルワインやボトリングティーなどの販売量も増加傾向にあります。

――お酒の嗜好についての細分化が進んでいる、ということでしょうか。

そうですね。音楽で例えると、ひと昔前は誰もが知っている大ヒット曲をみんなが聴いていましたが、今はそれぞれが自分の好みに合う曲を、音楽配信サービスや動画サイトなどで掘り下げますよね。お酒もそれに近づいているイメージです。つまり日本酒も、より多様で個性的なものが増えているんです。

実際、「純米大吟醸」や「精米歩合◯%」というようなスペックに加え、そのお酒が造られる土地のテロワール(風土や土地の個性)を活かした、ストーリー性のある酒造りをされる蔵元さんが多くなりました。

同時に、蔵同士の“横のつながり”が生まれて、醸造技術がどんどんレベルアップしているのも今の日本酒シーンの特徴です。

――横のつながりとは?

かつての酒造りの現場は、杜氏(とうじ)さん同士が情報を外に出さない秘密主義めいた世界でしたが、今は異なる蔵元の杜氏さん同士が交流し、お互いの技術を共有し合っていたりします。

例えば、宮城県には2015年から行われている、「DATE SEVEN(ダテセブン)」というプロジェクトがあります。これは県内の7つの蔵(仙台伊澤家勝山酒造、墨廼江酒造、新澤醸造店、山和酒造店、萩野酒造、佐浦、川敬商店)が、毎年リーダーを変えながら、米も酵母もすべて宮城県産にこだわって、協力してお酒を造るという取り組みです。

こうした技術交流によって各蔵の地力が底上げされ、地域全体のお酒が驚くほどハイレベルになっているわけです。似たような取り組みとして、山形県の「山川光男」なども有名です。

――今年の出来はいかがですか?

「DATE SEVEN」のお酒は、毎年7月7日の七夕の日に解禁されるんですが、今年も「DATE SEVEN SEASON2 Episode5」として「山和style -澄み渡る白-」と「黄金澤style -華やぎの赤-」という2種類の異なる個性のお酒がリリースされました。

“白”は、爽やかな香りに綺麗な酸が印象的。キレの良い食中酒です。深い品格と清々しさがあります。一方の“赤”は華やかな吟醸香と甘みを持ち、乾杯やデザートと共に楽しめる味わい。来年も楽しみですね。

――東北で他に注目している県はありますか?

県を挙げて醸造技術の研鑽を行っている福島県の日本酒も素晴らしいですね。「楽器正宗(がっきまさむね)」(大木代吉本店)や、「玄宰(げんさい)」(末廣酒造)など、フレッシュで、かつ美しい甘みを持ったお酒が魅力。誰が飲んでも一口目に「美味しい!」と声を漏らすような深い包容力があります。

特に今、爆発的な人気を博しているのが「玄宰」です。伝統を守りつつも、味わいは非常にキャッチー。少し前の「十四代」(山形・高木酒造)や「新政」(秋田・新政酒造)のように、久しぶりに“市場がパッと食いついた”という実感がありますね。今また新たな実力派のニュースターが登場したな、と思っています。

――「十四代」のような有名な希少銘柄は今も変わらず人気ですか?

もちろん人気ですよ。「十四代」の存在感は、30年以上トップであり続けているという点で別格です。いまだに自分たちの造りを磨き、スタイルを柔軟に変えながら、業界の指標で居続けている。それは並外れたことです。

そしてそれ以外にも、まだまだ知られていないけれど、おいしいお酒はたくさんありますので、私たちはそれも伝えていけたらと思っています。