賃上げや人手不足への対応が続くなか、企業にとって「人を採用する」だけでなく、入社後にどう定着してもらい、どの層を育てるかが重要な課題になっている。タナベコンサルティングが全国372件の回答を集めた調査では、離職理由のトップは「処遇・待遇への不満」48.1%。人的資本経営でも37.4%が「特に取り組みを行っていない」と答えた。経営への影響ではコスト上昇42.2%、人手不足・採用難30.4%が上位を占め、マネジメント層と現場のコミュニケーションギャップも企業規模を問わず最多だった。人事担当者や管理職だけでなく、評価やキャリア形成に関心を持つ働く人にとっても、職場の制度や環境を考える材料となる結果だ。

コスト上昇42.2%、人手不足・採用難30.4%が経営に影響

タナベコンサルティングは、全国の企業経営者、役員、経営幹部、管理職、人事責任者・担当者を対象に「2026年度 人材・組織の取り組みに関する企業アンケート調査」を実施した。

経営に最も影響を与えている要因では、「原材料費や人件費などのコスト上昇」が42.2%で最多だった。2025年の35.5%から6.7ポイント上昇している。

「人手不足・採用難の深刻化」は30.4%で続き、この2項目で7割以上を占めた。

好調企業は「次世代リーダーの育成」27.6%

業績別に今後注力すべきHR領域をみると、好調企業では「次世代リーダーの育成」が27.6%で最も高かった。

一方、不調企業では「人材の定着・エンゲージメント向上」と「教育・研修の強化(リスキリング強化含む)」が、いずれも23.4%だった。

業績の状況によって、人材戦略で優先するテーマに違いがみられる結果となった。

人的資本経営、37.4%が「特に取り組みを行っていない」

人的資本経営について実施している取り組みを尋ねたところ、「特に取り組みを行っていない」が37.4%で最多だった。

調査項目では、デジタル・AI化や人材不足時代に対応した「リスキリングへの取り組み」が28.5%、「経営戦略と人材戦略の連動」が26.9%、「人的資本KPIの設定・運用」が22.3%だった。

人的資本経営という言葉だけでは具体的な内容をイメージしにくいが、この調査では、社員の学び直しや経営戦略と人材戦略の連動、人的資本に関するKPIの設定・運用などを対象としている。

人事体制別にみると、専任のCHRO(最高人事責任者)・HRBP(HRビジネスパートナー)を設置している企業では、「経営戦略と人材戦略を連動させ、人事領域における制度・仕組みとの一貫性を図っている」と「人的資本KPIを設定し、運用している」が、それぞれ26.0%だった。

両項目を合わせると5割を超える。一方、「特に取り組みを行っていない」は8.2%だった。

マネジメント層と現場のギャップ、企業規模を問わず最多

社内のコミュニケーションギャップを企業規模別にみると、「幹部・マネジメント層⇔現場」が中小企業33.1%、中堅企業31.1%、大企業28.0%となり、すべての規模で最多だった。

「管理部門⇔事業部門」は、中小企業9.9%に対して中堅企業14.2%、大企業15.4%だった。

育成強化は「中堅・リーダー社員」48.9%

今後、特に人材育成を強化したい階層では、「中堅・リーダー社員」が48.9%で最多だった。2025年度の45.5%から3.4ポイント上昇している。

「管理職」は26.6%で、2025年度の31.4%から低下した。「若手社員」は12.4%だった。

今後強化したい人材育成テーマを企業規模別にみると、中小企業、中堅企業、大企業のいずれも「次世代リーダー育成」が最多だった。

中堅企業では「管理職のマネジメントスキル強化」が27.0%で、中小企業の21.9%、大企業の17.7%を上回った。大企業では「DX・デジタルリテラシー習得」が16.1%、「キャリア自律とキャリア形成支援」が14.5%となっている。

離職理由1位は「処遇・待遇への不満」48.1%

離職が発生する主な理由では、「処遇・待遇への不満」が48.1%で最多だった。2025年の40.1%から8.0ポイント上昇している。

「上司・同僚との人間関係」は38.4%で、前年の43.4%から5.0ポイント低下した。一方、「キャリア展望の不透明さ」は32.2%から35.5%へ3.3ポイント上昇した。

前年との比較では、処遇・待遇やキャリア展望に関する項目が上昇する一方、人間関係は低下する結果となった。

自社における人材の定着や育成を考える際は、給与などの処遇だけでなく、キャリアの見通しやマネジメント層と現場の対話、育成対象の優先順位も確認したい。働く側にとっても、自社の評価制度やキャリア支援がどう設計されているかを見直すきっかけになる調査だ。

調査名:2026年度 人材・組織の取り組みに関する企業アンケート調査 調査方法:インターネットによる回答 調査期間:2026年5月11日~5月29日 調査エリア:全国 有効回答数:372件 ※各図表の構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合がある。 ※従業員規模が2,001人以上の企業を大企業、100人超~2,000人以下を中堅企業、100人以下を中小企業として分類。