新環境での学びを経て、AI活用のリーダーへ。
24年、澤田さんは社内のダブルワーク制度に手を挙げ、現在の業務を継続しながら本社のDX専門部署に週1回、3カ月間の勤務を始めた。
「未経験であるなら、知識のある人の力を借りる。そういう環境に自ら飛び込むことで、AIの知識を身に付けようと考えました」
得られたのは、知識だけではない。本社との人脈もでき、「自分にも取り組める」という自信がついた。その経験をもとに、25年に社内で立ち上げられたAI活用プロジェクトに参加。700名の組織から選ばれたAI初心者15名をまとめるリーダーに任命された。
メンバーの知識は「スマホでAI検索をしたことがある」程度。業務に使うイメージを持っている者もいない。そこでまず、AIが何かを掴んでもらうための勉強会を開催。土台が整ったところで、各自が業務の課題を持ち寄って議論し、共通するテーマを持つ者同士でチームに分かれ、課題解消にどうAIを活用できるか検証を進めた。
正解を知る者はひとりもいないチーム。だからこそ貫いた方針がある。
「アイデアを絶対に否定しないこと。必ずポジティブに受け止め、メンバーに共有していくことをはじめから意識しました。次第にAIに前向きな興味が生まれ、『こんなことをやってみた』などと工夫や発見を共有してくれるようになっていったんです」
敬遠されていたAIが、職場の日常に。
このAI活用プロジェクトが組織にもたらした変化は大きかった。
もともと企業向け生成AIツールは導入済みだったものの、「使えない」と敬遠する声が多く、特に50〜60代にその傾向は顕著だった。
「問題は活用の仕方が知られていないことでした。こう尋ねればこういう答えが返ってくる、と具体的な手順を示しながら、誰もが業務に生かせるよう支援していきました」
その一環として、プロジェクトの成果を発表する「事例共有会」を企画。そこで生まれた優良事例は13件にも上った。なかでも組織にインパクトを与えたのが、会議議事録の自動化だ。
「当時、社内で主流だったのは音声のみのアナログ電話会議。録音もできないため、当番社員が1~2時間かけて議事録を作成していました。その作業がAIによって5~10分に短縮されるのを見て、『こんなに早く文書化できるなんて信じられない』という反応が続々と届いたんです」
議事録自動化の導入は、年間最大1万2,000時間の削減効果に。会議そのものもビデオ会議に移行されるなど運営変革も進んだ。1年間で組織全体のAI活用率は4倍に向上。あちこちで『AIに聞いてみよう』『AIでこんな資料を作った』などの会話が聞こえてくるようになった。
「特別な人」じゃなくても、踏みだせる一歩がある。
かつて指示どおりの成果を出すことに力を注いできた澤田さん。AI活用ワーキングのリーダーとして活動を続ける現在は、長年の課題だった「電話対応の効率化」に音声AIで挑み始めている。キャリアチェンジのロールモデルとして、他組織から講演依頼が届くことも。
「人前で話すのは苦手だと思っていましたが、大好きなAIについてお伝えするのだ、と発想転換すればうまく話せると気が付いて。自ら動き、自ら発信することで社内が変わっていくことにも充実感があります。社のメンバーから『澤田さんのようになりたい』『同世代として、チャレンジする勇気をもらった』などの声をいただいたこともありました」
学ぶのに遅すぎることはない。それを体現する澤田さんだが、それでも悔いはあるのだそう。
「50代になると記憶力も体力も落ちるので、いまになって『40代のときにもっと勉強しておけばよかった!』と感じています。でも定年まであと10年。悶々とし続けるより、やりたいことをこの10年でやってみたい」
いま、毎日が充実していると澤田さんは笑顔を見せる。
「私は特別な人ではなくて、どこにでもいる50代です。特別なことをしたつもりもありません。でも、誰にだってその人なりの一歩があるはず。自分にはできないと決めつけず、興味のあることに踏み出してみてほしいです。私自身、これからもチャレンジを続け、誰かの勇気になれたらと思っています」
澤田智馨(さわだ・ともか)
NTTフィールドテクノ勤務。1996年、アシーネに入社し、副店長として店舗運営や人材育成を担当。その後、派遣社員として複数企業の事務業務に従事し、2004年からNTTフィールドテクノで光回線開通やバックヤード業務を担う。現場で培った課題意識を起点に業務変革へ挑戦し、RPAスキルを武器にDX・業務効率化を推進。24年よりAI活用に取り組み、700名規模の組織のAI活用率を4倍に引き上げた。WOMAN AI AWARD 2026 リ・スタート賞受賞。
取材・文:木内アキ 編集:フィガロジャポンBWA事務局

