体調への不安から、「意欲」はあるのに踏みだせない。

更年期に伴う不調の現れ方には、睡眠の不調や気分の落ち込み、肩こり・関節痛といった身体症状など、大きな個人差がある。そして不調があるほど仕事のパフォーマンスが落ちる傾向も調査で見えてきた。なかでも見過ごせないのが、女性の昇進をめぐる動きだ。

実は、更年期症状は女性の「昇進意欲」そのものには大きく影響しない。強い関連性を示すのは「昇進のオファー」を辞退するかどうか。その理由を見ると「家庭やプライベートを優先したい」という声に加え、「体力や健康に不安があり、自信がもてなかった」という回答が目立つからだ。しかも、その種の不安は口に出しにくい。

「更年期の不調を辞退の理由として伝えるのはハードルがありますし、伝えられた側もどう受け止めればいいのかわからない、という現状が見られます」

身体の不調が挑戦をためらわせているのに、周囲には「意欲がない」と映るケースも。がんばれないのではなく、がんばりを支える身体が変わりはじめているのだ。

忙しい人ほど、後回しにしやすい「睡眠」。

では、働きながら不調とどう向き合えばいいのか。その糸口はやはり睡眠にある。ホルモンの分泌や自律神経の働きと違って、睡眠は行動によって変えられるからだ。ただし、それには意思の力が必要、と大槻さん。

「少し調べれば『いい睡眠を取るコツ』といった情報はいくらでも出てくるのに、真剣に向き合う人は少ないんです。睡眠の優先順位はどうしても低くなりがちですよね」

大槻さん自身も例外ではなかった。35歳と37歳で出産し、フルタイムで職場復帰した後は、子どもと寝ている途中で目が覚め、そのまま眠れない夜が続いた。イライラし、集中も続かない。そうなって初めて、睡眠を意識しはじめたという。

「朝起きる時間を決め、日の光を浴びる。照明の色を変える。シンプルなことばかりですが、心身の調子が上向き、睡眠の価値を感じました」

パラマウントベッドの睡眠改善プログラムの参加者からも、「生活全般がとても楽になった」という声が聞かれたそうだ。身体のリズムが整えば、日中の眠気も、疲労感も軽くなる。

「睡眠を変えると聞くと『何時間眠るべきか』が語られがちです。それよりも、『日中、眠くならないかどうか』が、自分に合った睡眠が取れているかどうかの基準になります」

大槻さんのおすすめは、まず起きる時間を決めること。起きる時間さえ一定になれば、睡眠が足りないと眠くなり、自然にリズムができてくる。夜、眠気を感じたらできるだけ逆らわないこと。自分にとってのベストなリズムを一度見つけておけば、たとえ毎日完璧に実践できなくても、多少リズムが崩れても立て直せる。

変わりゆく身体を知り、健やかに生きる。

もっとも、不調を抱えながら働く難しさは、個人の工夫だけで消えるものではない。心身の不調を誰にも相談できないまま、静かにキャリアから退いていく女性たちも少なくない。そうした女性たちを支援する活動を、大槻さんたちは「サイレントシフト」と名付けた。現在も、企業や社会の意思決定層に向けて、調査レポートの発表やカンファレンスを続けている。周囲の理解や制度は、そうやって少しずつ変えていくものだ。

その一方で、身体の変化そのものは誰にも止められない。0歳から100歳までの女性ホルモンの変化をグラフで見ると、上り坂の時期は意外なほど短く、下っていく時間のほうがずっと長い。

「まず、自分自身がいまグラフのどこに立っているのか、知ることが出発点だと思います。そして、変わっていくことを前提に、働き方も暮らしも組み立て直せばいいんです。人生の後半が長い下り坂なのだとしたら、楽しく下れるといいですよね。健やかに」

がんばれなくなったのではない。身体が変わりはじめただけだ。そう捉え直したとき、今夜の眠りは、これからの自分をつくる時間になる。


パラマウントベッドの大槻朋子さんポートレート写真

大槻朋子(おおつき・ともこ)
パラマウントベッド株式会社 経営企画本部 バリュークリエイトグループ 新規事業推進チーム マネージャー。新卒でパラマウントベッドに入社。介護領域のセールスを経て健康事業に携わり、一般消費者向けブランド「Active Sleep」の立ち上げに参画。経営企画本部ではCVCとしてヘルスケアファンドの立ち上げを担当。現在は「Sleep × Femtech」プロジェクトを推進し、女性の健康を睡眠から支える事業に取り組んでいる。
https://www.paramount.co.jp/








取材・文:木内アキ 編集:フィガロジャポンBWA事務局