──ビヨンドSDGsをめぐる議論では、「ウェルビーイング」も注目されています。どうご覧になりますか。
ウェルビーイングな社会を考えるのは、すごく大事です。ただ、今の日本での議論は、「自分たちのウェルビーイング」が中心になっているように思えます。世界では、まだ10人に1人が極度の貧困に苦しんでいる。はたして、その人たちを置きざりにして、ウェルビーイングと言えるのでしょうか。
今の世代だけではなく、将来世代や地球の「プラネタリー・ウェルビーイング」まで考えないと、ウェルビーイングという言葉が温暖化対策や格差の是正から注意を逸らす口実に使われてしまうおそれがあります。
──企業のサステナビリティ情報は開示の制度化が進んでいます。お金の流れは今後どう変わっていくのでしょうか。
長期的なものを見よう、社会的な価値を考えようという流れは、投資家の視点が変わってきたことから生まれています。年金基金のような機関投資家が、公共のお金を預かっているから公共のために貢献する、将来目減りしたら困るから長期で安定したところに投資する。そう動き始めています。
開示の流れ自体は非常にいい。開示から行動につながって、環境や社会への取り組みで企業が評価され、投資が集まる。今はどんどん開示項目が増えてきて、企業もそれに追われている感がありますが、SDGsの項目を埋めていっているに過ぎません。その先には行動を変えるという段階が待っています。その流れが再び注目されるといいなと思います。
──最後に、ビヨンドSDGsの時代を生きていく若い世代へ、メッセージをお願いします。特にAIのような新しいテクノロジーとは、どう付き合っていくべきでしょうか。
AIは使うものであって、頼るものではないと思います。そこに知識や情報はあっても、「知恵」がありませんから。
ものごとを見るヒントは、実はSDGsの中にちゃんと入っているんです。たとえば酷暑対策では、命を守るためにエアコンが欠かせません。でも、貧しい人にとっては、その電気代が重い負担になります。気候変動の問題が、同時に格差の問題でもあるわけです。一つの視点だけで対策を進めると、必ずどこかにしわ寄せがいく。多角的なアングルで見ることがSDGsの本質です。
こういった見方は、AIの時代にこそ、ますます大事になっていくことでしょう。
蟹江憲史
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。博士(政策・メディア)。SDGsや地球環境問題を中心に研究し、日本政府のSDGs推進円卓会議構成員などを歴任。国連事務総長の任命を受けた独立科学者の一人として、「持続可能な開発に関するグローバルレポート(GSDR 2023)」を共同執筆した。ビヨンドSDGs官民会議理事長。
執筆者:瀬戸義章
撮影:遠藤宏
