なぜ不眠になるのか
かつて不眠症は、ストレスや心配事が原因で眠れなくなる状態と考えられていた。しかし近年の研究では、それだけでは説明できないことが分かってきた。現在有力なのは、「過覚醒」と呼ばれる考え方である。不眠症の人は夜だけでなく日中も脳や身体の覚醒レベルが高く、十分にリラックスできていない可能性が指摘されている。
例えば、仕事のプレッシャーや人間関係の問題で一時的に眠れなくなることは誰にでもある。しかし多くの人はストレスが去れば再び眠れるようになる。一方で慢性不眠症の人は、「また眠れないのではないか」「眠れないと明日に支障が出てしまう」という不安そのものが新たな覚醒を生み、眠ろうとするほど眠れなくなる悪循環に陥りやすい。
英ラフバラー大学で心理学を教えるユリアナ・ハルテスク上級講師は、学術系ウェブメディア『The Conversation』への寄稿で、不眠が長引く理由はストレス自体ではなく、脳が「覚醒状態」を学習し、それを繰り返してしまうからであると解説している。
さらに現代社会では、夜遅くまで続く仕事、スマートフォンによる情報過多や夜間の光刺激、不規則な生活リズム、長時間労働などが脳の覚醒状態を慢性化させる要因と考えられている。SNSを夜遅くまで見続けることなど、誰もがやっている日常の生活習慣そのものが、睡眠システムに悪影響を与えているのだ。
不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)のアプローチ
こうした不眠の悪循環を断ち切る治療法として、最も効果的とされているのがCBT-Iである。CBT-Iは睡眠薬を使わず、睡眠に対する考え方と行動の両面から不眠の悪循環を断ち切る治療法である。
具体的には、「今夜も眠れなかったらどうしよう」といった予期不安や、「十分な睡眠時間を確保できなければ健康を損なう」といった強い思い込みを修正する認知的アプローチに加え、眠くなるまで床に就かない、起床時間を一定に保つ、ベッド上で過ごす時間を制限するなどの行動面の調整を組み合わせることで、睡眠と覚醒のリズムを再構築していく。
不眠症では「眠れないことへの過剰な注意」や「ベッドが『眠る場所』ではなく『目が冴える場所』として脳に学習されてしまうこと」が多く、CBT-Iはこの条件づけを解除することを目的としている点に特徴がある。ベッドと覚醒状態を結び付けないために、床に就いて30分以上眠れないときには無理にベッドに居続けるのではなく、いったん起きて静かな活動を行うことが勧められる。